『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第4章:選ばれた未来、ほどけない絆へ

第48話「戻る日、ほどけたままの袖口」

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帰る。
ただそれだけのことなのに、
心は少しだけ速くなり、手はほんの少し迷いを持つ。

会いたいと思った時間は、
想像以上に――“重ねていたもの”を浮かび上がらせる。

***

三日目の午後。
アレン=ヴァルフォードは、王宮を後にした。

迎えの馬車に揺られながら、彼は自分の袖口を見つめる。

リボンは、もうそこにはなかった。
ほどけたままの袖先。
結び直すことすら忘れるほど、政務に追われていた。

「……ほどけたまま、なんてな」

苦笑するように呟く。
けれど、後悔ではなかった。

あの日、セシリアが贈ってくれたリボン。
それは“結び目の象徴”ではなく、“何度でも縫い直せる証”だったはずだ。

「会って、ちゃんと謝ろう。
――いや、言わなきゃいけないことはそれだけじゃないな」

視線が馬車の窓越しに、だんだん近づいていく学院の塔を捉える。

もうすぐ、“彼女が待っている場所”に帰る。

***

その頃、学院ではセシリア=ロートベルクが中庭を歩いていた。

風はまだ少し冷たく、春の気配が足元をすり抜けていく。

胸元のリボンには、あの日の指輪が結びつけられたまま。
それは誰にも気づかれない。けれど、彼女にとっては確かな“重み”だった。

「……もう、戻ってきていい頃よね」

言葉にした瞬間、緊張がほどけていく。

信じることは、きっと“孤独と向き合う強さ”を含んでいる。

それでも、セシリアは一度も――
“疑う”という針を持たなかった。

***

そして、夕暮れ。

馬車が学院の門をくぐり、
制服姿のアレンが中庭へと姿を現す。

ちょうどそのとき、セシリアも振り返る。

「――アレン様」

彼の姿を目にした瞬間、言葉がつまる。

無事でいてくれたこと。
変わらずここに戻ってきてくれたこと。
そして何より、“自分の想いが間違っていなかった”こと。

すべてが一気に胸へ押し寄せてくる。

「……ただいま」

アレンの言葉に、セシリアは息を吸い込み、
思いきって歩み寄る。

そして――彼の袖口をそっとつかむ。

「リボン、……なくなってますね」

「……ごめん。
結び直す時間もなくて、気づいたら……」

「――じゃあ、今ここで結び直します」

セシリアは、胸元のリボンから指輪をほどき、
アレンの袖口へと自分の手でくくりつける。

ほどけてもいい。汚れてもいい。
でも、これは“いまのわたしの想い”だから――

「もう一度、わたしが結びます。
そうすれば、きっとまた……あなたが結び返してくれるから」

アレンは目を伏せて、そして、ゆっくりと頷いた。

「……ありがとう。
君がそこにいてくれて、本当に、嬉しい」

***

リボンが結ばれた袖口。
そこにあるのは、“離れた時間”ではなく、
再び重なった心の縫い目。

蝶が舞わない平穏のなかで、
ふたりの物語はまた、新たな段階へと進んでいく。
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