『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第4章:選ばれた未来、ほどけない絆へ

第49話「その笑顔に、誰かの影が重なる前に」

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恋人の笑顔は、なによりも尊くて、
けれど時に――誰かの“手”がその光を狙う。

影は光に惹かれる。
だからこそ、その笑顔を守りたければ、
影が差し込む“前”に、気づかなければならない。

***

アレン=ヴァルフォードが学院に戻った翌朝。

中庭では、セシリア=ロートベルクが花壇の手入れをしていた。
制服の袖をまくり、白い指先で土を整える姿は、どこか穏やかで柔らかい。

そこへアレンが歩み寄る。

「……ずいぶん慣れた手つきだね」

「植物って、気持ちがこもると素直に育ってくれるんです。
嘘つきじゃないから、好きなんです」

「君も、嘘つけない人だよね」

「ふふ、わたしが“嘘をつけるような人”だったら、
とっくに他の誰かの隣にいたかもしれませんね?」

冗談めいた言葉に、アレンは眉を下げて微笑んだ。

そのやりとりだけで、ふたりは互いの安心を取り戻していく。

けれどその様子を――
離れた木陰からじっと見つめる者がいた。

ロイ=フィエルノート。

視線は柔らかい。
だが、そこに宿るのは、ただの“興味”ではなかった。

「……あの笑顔のために、どこまで守れるのか。
殿下が選んだその手で、“影”に触れたとき――どうするのか」

彼は懐から一枚の文書を取り出す。

それは、王宮で交わされた未公開の縁談記録の写し。

差出人は、国境沿いの新興侯爵家。
そしてその娘――“フェルティナ嬢”の名が、
王宮の選定候補として正式に浮上していた。

もちろん、これは“政略的な可能性”にすぎない。
けれど、“噂”を現実に変えるには、十分すぎる材料だった。

「……さて、これをどう“流す”か」

彼の口元が、ゆっくりと笑みに変わる。

“信じる心”は美しい。
けれどそれは、“揺さぶられる前提”で成り立っている。

そして、それを揺らす術は、彼の得意分野だった。

***

その夕方。

寮に戻ったセシリアは、リボンに結び直した指輪を外し、
もう一度、硝子箱へと戻した。

それは、ただの習慣だった。
けれど、その箱に手を触れた瞬間――
ふと、ひとつの“違和感”が胸をかすめる。

まるで、まだ風は吹いていないのに、
どこかから“ざわめき”が近づいてくるような、そんな感覚。

セシリアは、窓を閉め、深く息を吸い込んだ。

「……わたし、ちゃんと気づけるかな。
あなたの笑顔に、“誰かの影”が重なる前に」

それは、祈りでもあり――
誓いでもあった。
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