『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第4章:選ばれた未来、ほどけない絆へ

第51話「侯爵令嬢フェルティナ、学院に現る」

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予告のない登場ほど、人々の関心を惹きつけるものはない。

それが“選ばれし血筋”を背負った者であれば――
なおさら、舞台の空気は張り詰めていく。

***

その日、セント・リュミエール学院の正門前には、
華やかな馬車が一台、音もなく停まっていた。

扉が開くと、ゆっくりと一人の少女が姿を現す。

名は――フェルティナ=セリス侯爵令嬢。

落ち着いた群青のドレス。
上品すぎるほどに静かな所作。
そして、見る者すべての視線を攫う“完璧な微笑”。

「あの方が……」

「噂どおり、美しい……」

「しかも、王宮推薦の縁談候補だって……」

生徒たちの囁きが、まるで“迎えのファンファーレ”のように彼女の周囲に響く。

だが、フェルティナ本人はその空気に微動だにせず、
落ち着いた足取りで門をくぐった。

彼女の目は、まっすぐに――ある人物だけを見据えていた。

***

その視線の先にいたのは、
校庭で訓練を終えたばかりのアレン=ヴァルフォードだった。

汗ばむ額を拭う彼のもとへ、ひとりの教師が慌てて駆け寄る。

「殿下、申し訳ありません……本日より視察生として、
セリス侯爵家の令嬢が来訪されました。
ご挨拶を、とのことで――」

「……視察?」

アレンは顔をしかめる。

そして、案内されるままに彼女の前へと出る。

「はじめまして、王太子殿下。
――侯爵家より参りました、フェルティナと申します」

深く、淀みのない礼。
作法は完璧。
声音は澄んでいて、どこか水面のように冷たい。

アレンは、その微笑の奥にある“何か”に気づく。

「こちらこそ。ようこそ学院へ。
……突然の来訪、少々驚いていますが」

「ええ、そうおっしゃると思いましたわ。
ですが王宮からの推薦ですもの。
私とて、“好奇心”だけで参ったわけではありません」

はっきりと、“好奇心”ではない――と宣言するその態度。

それはつまり、
“あなたを確かめに来た”という意思の表れだった。

***

同じ頃。
セシリア=ロートベルクは図書室で、何も知らずに本を読んでいた。

けれど、その静かな空間にも、
間もなく“風”が入り込んでくることを、
彼女はまだ――知らなかった。
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