『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第4章:選ばれた未来、ほどけない絆へ

第52話「視察という名の、正面からの挑戦」

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「視察」――
それは建前の名でしかない。

その実は、“評価”であり、“試練”であり、
そして、“静かな宣戦布告”でもある。

***

翌日。学院の講義棟。

視察生として正式に紹介されたフェルティナ=セリスは、
特例として王族クラスの講義に参加することとなった。

端正な制服姿。
背筋の通った姿勢。
誰にでも丁寧に挨拶しながら、目線の奥では――すでに場を読み切っている。

彼女の登場に、教室の空気は一変していた。

だが、誰よりもその“変化”を鋭く感じていたのは――セシリア=ロートベルクだった。

「……あの方が、“噂の令嬢”」

初めて対面したフェルティナは、
セシリアの想像よりもずっと落ち着いていて、
同時に――“どこにも隙を見せないタイプ”だった。

派手な美しさではない。
言葉にも感情の抑揚は少ない。

けれど、その沈黙が“自信”そのものであることは、一目でわかった。

そして、事件は昼の演習講義中に起きた。

***

実技演習:魔力制御・対話型模擬試験。

テーマは、「力を使わずに他者と交渉し、最適解を導く」こと。

学生たちはペアを組み、与えられた架空の“外交対立”を演じる。

アレン=ヴァルフォードが教官から渡されたのは、
「同盟国の使節としての立場」。
そして、対立する“隣国の特使”役には――
フェルティナが選ばれていた。

それは偶然か、それとも――

「どうぞ、お手柔らかに。殿下」

「……こちらこそ」

演技とは思えぬほどに、ふたりの対話は理知的で、
そして緊張感に満ちていた。

アレンは懐柔を試み、フェルティナは冷静に切り返す。

会話は丁々発止。
互いに感情を出さないまま、観察と牽制が続く。

そして最後に、フェルティナが静かに言った。

「貴殿の“譲歩案”は、たいへん魅力的。
ですが――それは“誰のため”の提案ですか?」

その問いに、アレンは言葉を飲む。

誰のためか――それが“民のため”ではなく、
“セシリアのため”だと見抜かれたことを、彼は理解していた。

「……あなたの目は、鋭い」

「それは私の役目ですもの。
“隣に立つ者”が誰に向いているのかを、見極めるために」

その言葉に、教室の空気がぴり、と張り詰めた。

演技はここまで。
だが、それが“ただの演習”ではなかったことを、
この場にいた全員が感じ取っていた。

***

教室の隅でそれを見つめていたセシリアは、
リボンの結び目をそっと握る。

声には出さない。
けれど、心の中ではっきりと宣言していた。

――なら、わたしも“正面から”応える。

“疑う”のではない。
“競う”のでもない。

ただ、
“愛された者として、まっすぐに立つ”。
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