『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第4章:選ばれた未来、ほどけない絆へ

第54話「王子が選ぶ“公開の場”、その真意」

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言葉は私的にも交わせる。
けれど、誰かを“守る”と決めたとき――
本当に届かせたいなら、人の目がある場所でこそ、伝えるべきだ。

***

学院の食堂にて、昼下がり。

普段よりざわついた空気の中で、ある噂が広がっていた。

「王子様が、“全生徒向けのスピーチ”を行うって……」

「しかも、“指名対話式”らしいよ?
誰かに向けて、直接言葉を交わす形式でやるって……」

「ってことは……まさか、“フェルティナ嬢”?」

「いや、“本命”がいるなら……“あの人”に?」

騒ぎの中心は、もちろん――アレン=ヴァルフォード王太子。

数日前のフェルティナの来訪。
それに続く演習での“意味深なやり取り”。
そして何より、噂の中で“揺れた沈黙”。

それらを、彼は“すべて払拭するため”に、
あえて“公開の場”を選んだのだ。

***

スピーチは、次の昼休みに行われることが決まった。

講堂には全生徒が集められ、貴族派・平民派問わず教師たちも参列するという、
学院では異例の“公的宣言の舞台”だった。

その前夜。

セシリア=ロートベルクは、緊張から眠れずにいた。

硝子箱に戻した指輪を、もう一度取り出して、手のひらで包む。

「アレン様……どうして、“わざわざ”こんな場所を……」

心配ではあった。
けれど、止めようとは思わなかった。

彼が“なにかを示そうとしている”のだと感じていたから。

だから、信じて見届けようと決めていた。

***

翌日、講堂。

壇上に立ったアレンは、静かに周囲を見渡す。

ざわめきは、ぴたりと止まった。
視線が、期待と不安と好奇心の混じる渦となって彼に注がれる。

彼は、一言ずつ、はっきりと語り始めた。

「本日は、お集まりいただき感謝します。
いま、私のまわりには、さまざまな“噂”が流れています。
――縁談、将来の選択、誰を隣に置くか。
ですが本日、ここで“公式に”申し上げます」

その瞬間、会場の空気が一気に緊張する。

「私は、“すでに選んでいる”者がいます。
王宮でも、学院でも、それは変わりません。
名声でも、立場でもなく――
“私の意志”で、その人を隣に選びました」

そして彼は、壇上から視線を逸らさずに、はっきりと告げた。

「セシリア=ロートベルク。
どうか、こちらへ来てくれますか?」

ざわっ――と会場が揺れる。

名前を呼ばれたセシリアは、一瞬だけ硬直する。

でも、その名が、あの人の口から発せられた瞬間――
胸の奥の不安が、すっと消えていった。

セシリアは、静かに壇上へと歩み出る。

彼の前に立ち、目を合わせる。

「……王子様」

「“アレン”でいいよ。
ここに立つときくらい、形式より――君との距離を大事にしたい」

その言葉に、セシリアは小さく笑った。

そして、ふたりは並んで前を向く。

ただの宣言ではない。
これは、公に交わされた“ふたりの立場の再定義”だった。

誰が何を言おうと、
“ここにいる”という事実だけが――最も強い言葉になる。

***

壇上の横で、その様子を見つめていたフェルティナは、目を伏せる。

だが、その表情には悔しさではなく、
どこか――安堵に似た静けさが浮かんでいた。

「……なるほど。
“この結び目”には、もう割り込む隙間すらないのね」

風が講堂を抜けていく。

静かな、けれど確かな祝福のような風だった。
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