『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第4章:選ばれた未来、ほどけない絆へ

第55話「結び目は、祝福よりも強く」

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結ばれた手は、誰かの祝福を待たない。
それは、ふたりだけの“約束”であり、
誰にも譲らない“証”であるべきだから――

***

講堂での宣言から一夜明け、
学院の空気は明らかに変わっていた。

ざわつきは静まり、
好奇の視線はやがて敬意へと変わっていく。

アレン=ヴァルフォードが“誰を選んだのか”ではない。
“どう選んだのか”が、すべての答えだった。

生徒たちは思う。
もし自分があの場に立っていたら、
あれほど堂々と「誰かを選んだ」と言えるだろうか、と。

そして、セシリア=ロートベルクは――
そんな視線を真正面から受け止めていた。

リボンの結び目を確かめるように、
彼女は制服の胸元にそっと手を添える。

そこにあるのは、
アレンから贈られ、
自分の意志で結び、
そして――“公に選ばれた”重みだった。

「……もう、迷わない。
わたしはこの場所で、“愛された人”として立ち続ける」

言葉には出さない。
けれど、それは誰よりも強い“誓い”になっていた。

***

一方その頃、フェルティナ=セリスは、書庫の奥で静かに本を閉じていた。

扉の前に現れたのは、彼女の護衛役であり、
王宮との通信役も務める青年。

「お嬢様、報告書の草案が届いております。
王太子殿下との関係については、“良好な外交的距離を保つ”旨で――」

「それで結構よ。
もう、踏み込むつもりはないもの」

彼女の声は穏やかだった。

「……あの殿下が、“自分の言葉で誰かを守る”姿勢を見せた以上、
私の役目は終わったわ」

彼女は決して敗北したわけではなかった。

ただ、自分の“役目”――
王宮の意向を確認し、彼の人間性を見極めるという任務を、
確かに果たしたにすぎない。

「けれど、あのセシリア嬢……強かったわ。
彼の隣に立つということの、重さと意味をちゃんと理解していた」

ほんの少し微笑んで、フェルティナは本棚へ視線をやる。

その眼差しは、もはや“恋敵”に向けられたものではなく――
同じ“選ばれた者”に向けられた、静かな敬意だった。

***

その夜、アレンとセシリアは、学院の屋上で並んで星を見ていた。

風はやさしく、
騒がしかった数日が、まるで夢のように思えるほどに静かだった。

「……あのとき、怖くなかったですか?」

セシリアがぽつりと尋ねる。

「うん、怖かったよ。
でも、君を“選び続けるための場”だったから。
君の名前を呼んだとき、やっと“ひとつの物語”が終わって、
ふたりの物語が始まった気がした」

そう言って、彼はそっと彼女の手を取る。

その指には、指輪はない。
けれど、その結び目は――もう、誰にも解けないほどに強かった。
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