『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第5章:王子と令嬢、そして未来の名前

第58話「未来の話をしよう」

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恋が“選ばれた”あと、
ふたりには“選び続ける”日々が始まる。

これは、誓いの先の――未来の名前を紡ぐ章。

***

学院の春は終わり、夏の風が少しずつ混じり始めていた。

制服の袖をまくる生徒が増え、
校庭の木陰には新しいベンチが据えられている。

そのひとつに、アレン=ヴァルフォードとセシリア=ロートベルクが並んで座っていた。

「……ねえ、アレン様。
“そのとき”が来たら、わたしたちって、どうなるのかしら」

不意にセシリアがそう口にした。

風に揺れる髪を押さえながら、
その瞳は、少し遠くの空を見ていた。

「“そのとき”って?」

「あなたが、王太子じゃなくて――“王”になる日よ」

その言葉に、アレンの表情が少しだけ硬くなる。

けれど、それは避けられない話題だった。
そして何より、“いまのふたり”だからこそ、向き合える問いだった。

「……正直に言えば、まだ実感はない。
でも、避けられないってことも、覚悟しなきゃいけないってことも、わかってる」

彼は手を組み、少しだけ俯いた。

「王になるってことは、たぶん……
誰かの“恋人”である前に、“国の器”にならなきゃいけないってことなんだと思う」

「……わかってるわ。
だから訊いたの。“わたしが、あなたの“器”を支えられるのかどうか”」

セシリアの声は震えていなかった。

けれど、それでも不安がなかったわけじゃない。

彼の隣に立つこと。
それは、ただの“恋”ではなくなるということ。

でも――

「私は、“あなたの未来”に、
ちゃんと“わたしの名前”が残っていたらいいな、って思ってるの」

彼女は、そっと胸元のリボンを撫でる。

「リボンみたいに、時々ほどけて、
それでも何度でも結び直せるような……そんな名前で」

アレンは微笑んで、彼女の手を取る。

「君の名前は、もう僕の中で“未来”だよ。
これから先、どんな形になっても――
君がそばにいてくれるなら、それでいい」

その言葉に、セシリアは静かに微笑んだ。

まだ“婚約”ではない。
まだ“夫婦”でもない。
でも、確かにここにあるのは――誓いの芽だった。

***

その夜、王宮では、
次期王太子の即位準備に関する会議が密かに進められていた。

そして、そこに記された“補佐役の名簿”の最下行には、
まだ誰も気づかない、ひとつの空欄が残されていた。

その欄に書かれる“名”が、
やがて――国とひとりの王の未来を左右することになる。
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