『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第5章:王子と令嬢、そして未来の名前

第59話「王都から届いた招待状」

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物語が“日常”に戻ったように見えるときほど、
その静けさの裏で――次の幕は、密かに用意されている。

***

夏の入口を告げる風が吹いた午後、
学院の事務棟に、王都からの使者が姿を現した。

使者が持参したのは、重厚な封蝋の施された二通の封書。
ひとつは学院長へ、そしてもうひとつは――

「……セシリア=ロートベルク嬢宛?」

教師たちが顔を見合わせるなか、封書は丁重に届けられた。

学院印と王家の双章が並ぶ封筒は、ただそれだけで異様な重みを放っていた。

そして夕方。
セシリアは自室の机に向かい、その封を切った。

なかには一枚の上質な紙――そして、そこに記された言葉。

〔王都主催 次期王位継承関連行事〕
王宮内社交円卓会談 “未来を担う者たちの集い”

招待者名:セシリア=ロートベルク

開催日:一週間後
会場:王都・白練の間
服装:正式準礼装

手紙から視線を離し、セシリアは静かに息をついた。

「……“呼ばれた”のね」

この招待状が意味するもの。
それは、ただの名誉ある行事への出席ではない。

“アレン=ヴァルフォードの隣に立つ可能性を持つ者”として――
王宮に“認識された”ということだった。

そしてそれはつまり、
“王家の目”にも、彼女の存在が届いたということ。

恋人ではなく、未来の伴侶候補として。

***

その夜。

中庭で再び顔を合わせたふたり。

アレンは既に、招待状の件を知っていた。

「ごめん、急な話だったんだ。
でも、王宮の動きはもう止まらない。
君がどう思っているか、ちゃんと確かめたくて……」

「大丈夫。驚いたけれど、怖くはないわ。
あなたが“選んだ先”に、わたしの名前が届いたってことだから」

セシリアの言葉はやさしくて、凛としていた。

彼女はもう、“試される立場”ではない。
“選ばれたことを、証明していく側”だった。

「でも……一つだけ、お願いしてもいい?」

「なんでも」

「――この行事が終わったら。
“もう一度だけ”、わたしに問いかけてくれる?」

「問いかけ……?」

セシリアはほんの少し頬を染めて、けれどはっきりと口にする。

「“あなたの隣に立ちたいか”じゃなくて――
“あなたの名字をもらってくれるか”って、聞いて」

アレンの瞳が、ゆっくりと見開かれる。

そして、なにかを悟ったように、彼は微笑んだ。

「……もちろん。
そのときは、“王子”としてじゃなく、
ただの僕として、君に尋ねるよ」

ふたりの間に吹いた風は、
どこまでも、未来の香りがした。
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