『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

文字の大きさ
64 / 80
第5章:王子と令嬢、そして未来の名前

第64話「選ばれた声、王宮に響く婚約発表」

しおりを挟む
“ふたりの物語”が、
ついに“国の歴史”と交差する。

恋では伝えきれなかったすべてを――
この日、ふたりは“選ばれた言葉”で示すことになる。

***

王都中心、王宮・大広間。

昼下がり、陽光が差し込む白石の天窓から、
金の装飾が反射し、会場を淡く染めていた。

そこに集められたのは、百を超える貴族と政界関係者、
そして新聞記者たち。
“次期王位継承者の公的発表”とされるこの会見は、
実のところ――王子とその伴侶候補の“婚約公示”であることがほぼ確定していた。

その証拠に、
壇上に並ぶのは、王太子・アレン=ヴァルフォード。
そして、その隣には――

「……緊張してる?」

と、そっと囁いたのは、セシリア=リュミエール。

彼女の姿は、王都の誰もが知らない“新しい名前”を背負う者として。
しかしその目には、恐れも怯えもなかった。

「少しだけ。でも、君が隣にいるから大丈夫」

アレンが返すその声は、誰よりもまっすぐだった。

やがて、会場のざわめきが静まる。

そして、儀礼官が一歩前に進み、
高らかに宣言する。

「これより、王太子殿下より王家の次代に関する重大なる発表がございます。
どうか、沈黙をもって耳を傾けられたし」

***

アレンは壇上で視線をまっすぐに前へ向ける。

「本日この場にお集まりいただいた皆さまに、
まずは感謝を。
そして、これから語ることが、
“わたしひとり”の言葉ではないことを、最初にお伝えしたい」

少しだけ息を整え、彼は続けた。

「私は、本日――
“セシリア=リュミエール”と、婚約を結ぶことをここに宣言します」

会場に、微かな息が漏れる。
だが、それは反対の色を含まないものだった。

すでに多くが知っていた。
王子が誰を選んだのか。
そして、彼女が“選ばれるに値する”者であることを。

「彼女は、貴族の名門でもなければ、政略のための結びつきでもない。
けれど――
私に“人としての歩み”を与えてくれた、唯一の存在です」

そして、そっとセシリアの手を取る。

「これからは、“王子”としてではなく、
“共に歩む者”として――彼女と未来を築いていきます」

セシリアもまた、静かに一礼する。

「この名を選んだのは、
わたしたちが出会い、始まった場所――
“リュミエール学院”に敬意を込めてのことです。
どうか、ふたりの選択を……
“祝福”よりも、“理解”していただけたら幸いです」

その言葉に、最前列にいた学院長が、
わずかに目を潤ませながら小さく拍手を送った。

それを皮切りに――
ゆっくりと、しかし確かに、
会場は拍手という肯定の音に包まれていく。

***

その音のなかで、セシリアは思っていた。

“悪役令嬢”と呼ばれたあの頃の自分が、
今日という日を知っていたら、どれだけ驚くだろう、と。

でもきっと、あの頃の自分に言えるだろう。

「あなたが涙を流していた日々は、
ちゃんと誰かに届いていたんだよ」――と。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...