『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

文字の大きさ
71 / 80
第5章:王子と令嬢、そして未来の名前

第71話「はじまりの朝食、ふたりの席」

しおりを挟む
“夫婦”という言葉は、
ただの契約でも、形だけの関係でもない。

それは、日々を重ねていく中で、初めて育まれていくもの。
最初の朝は――少しぎこちなく、でもどこまでも愛おしい。

***

王宮・私室階の食堂。
朝の陽がカーテン越しに柔らかく差し込む室内で、
ひときわ静かな“特別な食卓”が整えられていた。

アレンとセシリアが“夫婦”として迎える、最初の朝。

「……あの、気のせいかもしれないけど……」

セシリアはバターを塗ったパンを手にしながら、隣をちらりと見る。

「……アレン様、ずっとこっちを見てない?」

「うん、見てるよ」

「理由は?」

「王妃になった君の“寝起き顔”が見られるのは今朝だけかもしれないから」

「…………ッ!」

あまりにも自然な笑顔で言うものだから、
セシリアはうっかりパンを落としそうになった。

「も、もっと……こう、普通にしません?
お茶を飲むとか、新聞を開くとか、王子っぽく!」

「でも王子は今、“君の隣にいる夫”だから、王子っぽくする必要はないんだよ」

「もう、ほんとにずるい……!」

真っ赤になった頬を両手で押さえながら、
セシリアは紅茶に口をつける。

それだけで、ようやく少し落ち着いた。

***

ふと、アレンがパン皿の下から小さな封筒を取り出した。

「そういえば、これ。君宛に昨日届いてたんだ。
王宮の事務局じゃなくて、学院の旧教官から。
“個人的な礼状”らしい」

「……学院から?」

封筒を開くと、中には簡潔な手紙。

『セシリア=リュミエール様
ご結婚、心よりお祝い申し上げます。
あなたが“教室で涙を隠していた日”のことを、
私は今も忘れていません。

どうか、その涙の続きを、
誰よりも幸せな記憶に塗り替えていけますように。
――あなたが“人に選ばれたこと”を、
これからはどうか、あなた自身で“誇ってください”』

読み終えたセシリアは、そっと手紙を畳む。

「……あの日、教室を出るまでに……ずっと、手が震えていたの。
誰にも見せたくなかった。
でも、ちゃんと見ていてくれた人がいたんだね」

「うん。そして、今ここには、君の隣に立ちたい人が、ひとりいる」

アレンのその言葉に、セシリアは深く頷いた。

「なら、わたしも“隣にいる自分”を、少しずつ誇れるように……なってみせる」

パンをかじる音と、カップの重なる音。
そして、それを包む笑い声。

その食卓に並ぶのは、王族の格式ではなく――
“ふたりで作る家庭”という、小さな奇跡だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します

恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。 なろうに別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。 一部加筆修正しています。 2025/9/9完結しました。ありがとうございました。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

処理中です...