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第5章:王子と令嬢、そして未来の名前
第74話「“王妃らしく”ないままでいい」
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誰かの“理想”になろうとすればするほど、
本当の自分が遠ざかっていく。
でも――
王妃は、誰かの理想である前に“たったひとりの王の隣”であればいい。
***
王宮・西塔の応接室。
古い調度に囲まれたその場所は、外界と切り離されたような静けさがあった。
そこに集まったのは、王宮における社交界の古参夫人たち。
通称、“白薔薇の会”。
主に歴代王妃・公爵夫人・女侯爵経験者などで構成される、
“王妃に求められる品格”を語る名目の、事実上の“王宮監査”。
セシリアは、中央に用意された椅子に座りながら、
手のひらをぎゅっと握りしめていた。
「……ええと、まずお菓子の選定は、王都の焼菓子店“ロブレ”を。
紅茶は、第二煎茶ではなく浅煎りの香花茶を選びました。香りが長く残る方を……」
「……ふむ。あなたにしては“こなれて”きたものですね」
「ただ、少々――“庶民的”かと存じますわ」
「“王妃らしさ”というのは、気品と隔たりの中にこそ宿るものです」
刺すような視線、柔らかくて鋭い言葉の数々。
セシリアは、椅子の上でぎこちなく背筋を伸ばしたまま黙り込んでしまう。
だが――
「それでもいいんです」
ひと呼吸のあと、セシリアはゆっくりと口を開いた。
「私は、王妃らしくないかもしれません。
でも、わたしは“王子妃”として、“アレン様の隣に立つ”ことだけを選んだ人間です。
理想の器になろうとして、
自分を消してしまうような真似は――もう、しません」
一瞬、空気が凍った。
けれど、セシリアの瞳はまっすぐで、穏やかだった。
「王妃らしさがあるとすれば、
きっとそれは、“選ばれた理由”を誇れることじゃなくて――
“選び返した勇気”を持ち続けることじゃないかと、私は思っています」
***
沈黙の中で、ひとりの老婦人がゆっくりと笑みを浮かべた。
「……あなた、“王妃らしく”はないかもしれません。
でも、“王の妃”になる器は、確かにあるようですわね」
ひとつ、またひとつと笑いが広がる。
やがて、その場にいた全員が、立ち上がり小さく会釈を送った。
形式ではなく、言葉への“敬意”として。
セシリアは、ようやく張りつめていた肩を下ろし、
そっと胸元のリボンを握った。
“誰かの望む王妃”ではなく、
“自分がなりたい王妃”を選び直せた、その証のように。
***
その日の夜。
アレンに今日の出来事を話すと、彼は少し驚いて、すぐに笑った。
「……君は、君らしくていい。
“王妃らしくない”って言われることが、
この国にとっては、一番の褒め言葉になる時代かもしれないね」
セシリアも笑った。
「わたしも、そう思ってきたわ」
そして、そっと言葉を添える。
「“王妃らしくない”ままで、ずっとあなたの隣にいるから」
本当の自分が遠ざかっていく。
でも――
王妃は、誰かの理想である前に“たったひとりの王の隣”であればいい。
***
王宮・西塔の応接室。
古い調度に囲まれたその場所は、外界と切り離されたような静けさがあった。
そこに集まったのは、王宮における社交界の古参夫人たち。
通称、“白薔薇の会”。
主に歴代王妃・公爵夫人・女侯爵経験者などで構成される、
“王妃に求められる品格”を語る名目の、事実上の“王宮監査”。
セシリアは、中央に用意された椅子に座りながら、
手のひらをぎゅっと握りしめていた。
「……ええと、まずお菓子の選定は、王都の焼菓子店“ロブレ”を。
紅茶は、第二煎茶ではなく浅煎りの香花茶を選びました。香りが長く残る方を……」
「……ふむ。あなたにしては“こなれて”きたものですね」
「ただ、少々――“庶民的”かと存じますわ」
「“王妃らしさ”というのは、気品と隔たりの中にこそ宿るものです」
刺すような視線、柔らかくて鋭い言葉の数々。
セシリアは、椅子の上でぎこちなく背筋を伸ばしたまま黙り込んでしまう。
だが――
「それでもいいんです」
ひと呼吸のあと、セシリアはゆっくりと口を開いた。
「私は、王妃らしくないかもしれません。
でも、わたしは“王子妃”として、“アレン様の隣に立つ”ことだけを選んだ人間です。
理想の器になろうとして、
自分を消してしまうような真似は――もう、しません」
一瞬、空気が凍った。
けれど、セシリアの瞳はまっすぐで、穏やかだった。
「王妃らしさがあるとすれば、
きっとそれは、“選ばれた理由”を誇れることじゃなくて――
“選び返した勇気”を持ち続けることじゃないかと、私は思っています」
***
沈黙の中で、ひとりの老婦人がゆっくりと笑みを浮かべた。
「……あなた、“王妃らしく”はないかもしれません。
でも、“王の妃”になる器は、確かにあるようですわね」
ひとつ、またひとつと笑いが広がる。
やがて、その場にいた全員が、立ち上がり小さく会釈を送った。
形式ではなく、言葉への“敬意”として。
セシリアは、ようやく張りつめていた肩を下ろし、
そっと胸元のリボンを握った。
“誰かの望む王妃”ではなく、
“自分がなりたい王妃”を選び直せた、その証のように。
***
その日の夜。
アレンに今日の出来事を話すと、彼は少し驚いて、すぐに笑った。
「……君は、君らしくていい。
“王妃らしくない”って言われることが、
この国にとっては、一番の褒め言葉になる時代かもしれないね」
セシリアも笑った。
「わたしも、そう思ってきたわ」
そして、そっと言葉を添える。
「“王妃らしくない”ままで、ずっとあなたの隣にいるから」
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