『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第5章:王子と令嬢、そして未来の名前

第76話「王妃と平民と、小さな午後の紅茶会」

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“距離”とは、生まれの違いだけじゃない。
でも、誰かと向き合うためのテーブルがあれば――心は並んで座ることができる。

***

王宮・東庭の離れ。
本来は女官用の休憩所として使われていた小さな東屋が、
この日だけは“特別な茶会の場”となっていた。

集められたのは、王宮内で働く平民出身の職員たち。
厨房、洗濯、裁縫、書記――
どれも、王族と距離のある“裏方の職”ばかり。

けれど今日、彼らは“王妃セシリア=リュミエールの招待”を受け、
彼女と同じテーブルに座っていた。

「本日は、お時間いただきありがとうございます。
今日は“働いてくださっている皆さまに、直接お礼を言いたくて”この場を設けました」

セシリアは、白いワンピース姿で立ち上がり、丁寧に一礼する。

貴族的な華美は排し、笑顔はあくまで柔らかく、
けれどその所作のひとつひとつが、“本物の敬意”を伝えていた。

最初は緊張していた職員たちも、
次第に少しずつ、言葉を交わせるようになっていった。

「……あの、王妃さま。
お召し物、今日はご自分でお選びに?」

「はい。実は、昔から“仕立て”にはちょっとした憧れがあって。
でも不器用なので、ボタンを三つ付けると指が限界なんです」

「うふふ、それは同じです。私たちも夜の補修では手が攣ってしまうこともあって」

笑いが生まれ、紅茶の香りが場に広がる。
身分も階級も関係なく、そこには確かに“人と人”の空気があった。

***

茶会の終わり、厨房係の年配の女性がそっと言った。

「……王妃さまが、私たちのような者に時間をくださるなんて……
昔では考えられませんでした。
けれど……こうして座ってくださって、ありがとうございます」

セシリアはすぐに首を横に振る。

「こちらこそ、ありがとうございます。
この国の“土台”を支えてくださっているのは、間違いなく皆さまですから」

「……王妃さま、“王妃らしく”は……ないんですね」

その言葉に、一瞬だけ空気が止まった――が。

セシリアは、ふふっと小さく笑って応えた。

「ええ、そうなんです。“王妃らしくない”のが、わたしらしいんです」

その場にいた全員が、笑顔になった。

***

夕暮れ、アレンに茶会の話を報告すると、
彼は紅茶を一口飲んでから、ぽつりと言った。

「君が“王妃らしくない”と言われるたびに、
この国が少しだけ“柔らかく”なっていく気がするよ」

セシリアは、少し照れたように微笑み返す。

「なら、もう少し“らしくない”を続けてみようかしら。
――この国を、もう少し優しくするために」
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