『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第5章:王子と令嬢、そして未来の名前

第77話「白薔薇の夫人たちと、“王妃の靴音”」

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その足音が、誰かの記憶に残るかどうかは――
歩き方ではなく、“何を想って歩いたか”で決まる。

そして今日、王妃の歩みはまたひとつ――
王宮に静かな衝撃を落としていく。

***

王宮・第三謁見の間。
年に数度だけ開かれる、“白薔薇の会”の定例会合。

出席者はすべて、過去に王政に名を連ねた貴婦人たち。
王家に最も近く、最も遠い立場の“影の継承者”たち。

この日は、“現王妃の登壇”が事前に告げられていた。

「――若い王妃は、時に“足音”が軽すぎるものですわ」

「伝統とは重さ。敬意とは深さ。
今の時代には、いささか速すぎる靴音が響いている気がいたします」

老婦人たちの声は柔らかいが、言葉は鋭い。

そしてその空気のなか、
ゆっくりと扉が開く。

タッ、タッ、タッ。

軽やかで、しかし決して“浮ついてはいない”靴音。

それはまるで、“新しい風”が入ってきたような気配だった。

「ごきげんよう、皆さま。王妃、セシリア=リュミエールでございます」

彼女の挨拶は、流れるように淀みなく、
しかし“隠そうとしない若さ”を含んでいた。

***

「王妃さまは、最近“平民職員との茶会”を催されたそうで?」

「はい。皆さまが日々支えてくださっていることへの、感謝を形にしたくて」

「……王妃が“お召しになる相手”を、下に置かれることは……不敬とは思いませんの?」

その問いに、セシリアははっきりと微笑んだ。

「いいえ。
わたしは“上に立つ”ために王妃になったのではなく、
“隣に並ぶ”ために選ばれたのです」

ざわめき――ではなく、静寂。

誰も言葉を続けられなかった。

そして彼女は、さらに一歩前に出て言う。

「それに、彼らの靴音を、わたしは確かに聞いています。
朝に廊下を走る音、深夜に縫い物をしている針の音――
王妃の足音が“王妃らしい”かどうかは、
そうした日々の音を聴けるかどうかで決まると、私は思うのです」

重々しい沈黙。
だが、そのあとで――
最年長の公爵未亡人が、小さく笑った。

「……王妃らしさとは、まことに定義し難いものですわね。
でも、今のあなたの言葉には――確かに“重さ”があった」

そして彼女は言う。

「今日、初めて“新しい王妃の靴音”を聞いた気がします」

セシリアは頭を下げ、またひとつ――
“王妃の声”を、王宮に残していった。

***

帰り道、アレンと並んで歩く廊下。

「今日の靴音、どうだった?」

とセシリアが尋ねると、
アレンは小さく笑って応えた。

「よく響いてたよ。
君の歩く音が――この国の奥の奥まで、ちゃんと届いてる」
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