『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第5章:王子と令嬢、そして未来の名前

第78話「王子からの手紙、そして未来の名前」

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言葉は風に消えるけれど、
手紙は、時を越えて“心”を残す。

それがたとえ、ふたりの間にもう言葉が要らない今であっても――。

***

王宮・北の書斎棟。

アレン=ヴァルフォードは、久々に“王子”としての筆記に取り組んでいた。

公式文書でも報告書でもない。
宛先はただひとつ。

――セシリア=リュミエール。

けれど、彼の手はなかなか進まなかった。

目の前の白紙は、何度も新しいものに取り替えられ、
机の隅には“未完の言葉”が綴られた紙が山のように重なっていた。

「……いまさら“愛している”だけじゃ、伝えきれないからなあ……」

アレンは、少しだけ悩んで笑う。

***

その日の午後、セシリアは何気なく部屋へ戻ると、
机の上に“緑の封筒”が置かれていた。

差出人は記されていない。けれど、見間違えるはずもない。
この色は、かつて彼が学院時代に選んでいた“個人文書”の封。

開けると、たった一枚の便箋。

そこに、こう記されていた。

『セシリアへ。

今日、君が“白薔薇の会”で話したことを聞いたよ。
そして改めて思った。

僕が選んだのは“未来の王妃”なんかじゃない。
君は、僕の“いま”そのものだ。

国家も、民も、伝統も、
君が見て、感じて、選んだものを――
僕は“信じていい”と、思わせてくれる。』

『だから、もしもこれから国がどこかへ向かうとき。
その“方向”を決めるために、
僕はいつだって、君の意見を一番に聞きたい。』

『君がくれた“名前”は、
もう僕の未来と切り離せないから。』

読みながら、セシリアは静かに微笑んだ。

結婚して、日々を重ねて、
言葉を交わす時間はたしかに減っている。

でも――

こうして届く“ひとつの手紙”に、
彼の不器用な優しさと真剣さが全部詰まっていた。

***

彼女は小さな便箋に一言だけ返す。

『次は“手紙”じゃなくて、“声”で言って。
でも、“聞く準備”くらいは、しておくわ』

アレンがそれを受け取ったとき、
彼の目元がゆっくりとほころぶ。

そして心の中で思う。

――この人の名を、未来に残すこと。
それがきっと、“王”としての最初で最後の夢なんだろう。
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