タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

文字の大きさ
11 / 94
第一章 異世界のアルコータス

結婚について

しおりを挟む
 暮れなずむ街の通りを。
 大荷物抱えて寝どころへ戻る。
 隣には黒髪碧眼の美少女。
 食事と仕事にもありついた。
 ある程度の危険はあるにしろ、それはスパイスにも等しい。
 こんな充実感、何年も味わっていなかった。
 俺は満たされた気分で通りを歩いた。
 このアルコータスでは、通りを行く他の人々も、おおむね満足そうだった。 
 俺やマトイと同じ人間が微妙に多数派のようだ。
 肌の色も髪の色も雑多。
 褐色に白皙、青い肌をしているものまでいる。
 他にはエルフとネコミミ人間が半分くらい。
 決して珍しい人々ではなかった。
 どちらも肌の色、髪の色は多彩だ。
 さらにエルフたちは、耳が長かったり短かったりする。
 今日一日見回した限り、人種的ヘイトはなさそうだった。
 この多様な人々を見て、ある興味がわく。
 俺は隣のマトイに尋ねてみた。
 慎重に言葉を選びながら。
「なあマトイ、外見の違う人同士でも結婚できるのか?」
「どういう意味?」
 確かにこれじゃ意味は伝わらないか。
 俺は頭のなかで例になりそうなカップルをシミュレートした。
 ネコミミコックのロシューと、エルフのナムリッドがカップルになったら都合がいい。
 俺はそれを話してみた。
「例えばさ、ロシューとナムリッドがその気になったら結婚できるのか?」
 マトイは歩きながら目を丸くする。
「あたりまえじゃない!」
 そうなると、当然の疑問が頭をもたげてくる。
 俺は続けて訊いた。
「子供はできるのか? 二人の間で」
 マトイは大げさな呆れ声で答えた。
「やだ、もーっ! 性教育までさせるつもりっ?!」
「そんなこと言わずに教えてくれよ。完全に忘却の彼方だ」
 ちょっと怒ったようにマトイは言った。
「できるわよ! あたりまえでしょ!?」
 さらに続ける。
「でも、ナムリッドとロシューのカップルなら助産師の助けが必要ね」
「助産師って?」
「お産を専門にしている魔道士よ。もちろんブルート・ファクツを使うわ」
 少し顔を赤らめながら言葉をつなぐ。
「じゅ、受精していたら、父と母、どちらの容貌に近づけるか相談しながら決めていくの。決まったらブルート・ファクツで赤ちゃんを整えるわ」
 これはデザイナーベイビーだ。
 この世界は昔から魔法による遺伝子工学が発達していたらしい。
 俺は驚きとともに、新たな疑問を口にする。
「助産師の力を借りなかったらどうなるんだ? ほったらかしにしたら」
「どうにもならないわ。耳が長い人とネコミミの人だと。受精はするけど妊娠には至らず、普通に生理が来るはずよ」
「ふーん、ちょっと障害があるんだな」
「でも、ロシューとナムリッドの場合なら必要ってだけで、特に必要のない間柄でもほとんどの人は助産師の助けを借りるわ。おかげで助産師はどこも大繁盛」
 俺は元いた世界の遺伝子工学から導かれる考えを言ってみた。
「助産師なら、人間と動物のあいだにも子供を作れそうだな」
「そんなことわざわざ人がやらなくても、マイアズマがしてるじゃない。マイアズマ・デポのまわりにはウヨウヨしてるわ。人と動物のあいの子が。オークにコボルト、リザードマン。ワータイガーにワーウルフ。わざわざモンスターを産みたがる人なんているわけないじゃない」
「ああ、なるほど……」
 マトイの答えは、俺の意図したことと少しズレてはいる。
 しかし、そういうことなのだろう。
 結果が見えているので、興味を持たないのだと思う。
 結局は常識が違いすぎる。
 この世界が、遺伝子工学的にはどれほどの知見を持っているかはあやふやだ。
 詳細な理論は知らず、大昔からやってきたことを続けているだけかもしれない。
 俺だってそんなに詳しくないし。
 要は世界が違うということを受け入れていくほうが早道だ。
 この話はここで打ち切ろう。
 もうひとつ、別の疑問を訊きたい。
 俺が口を開く直前に、マトイは言った。
「名は体を表す」
「えっ?」
 マトイが魅惑的な流し目で俺を見る。
「タネツケって、やっぱり子供のことが気になるんだ? 記憶喪失になっても」
 声が少し低くまり、大人っぽくなっていた。
 俺は狼狽して、出しかけた言葉を飲み込む。
 話が……意外な方向へ向いてしまった。
 マトイが続けて訊いてきた。
「将来的には何人くらい欲しいの? 子供」
「えっ、いや、その……、そ、そんなの考えたことないよ……」
 俺はしどろもどろになりながら答える。
「そ?」
 マトイは顔を前へ戻した。
 期待はずれといった表情で。
 それから自分の腹をなで始め、前を向いたまま言った。
「あー、考えてみたらアタシも助産院行ってみたほうがいいかなぁー? 可能性はあるわけだしぃー」
 ごくり。
 横目で俺を見ながらマトイは続ける。
「結婚もしてないのに助産院通いなんて始めたら、パパがなんて言うかなぁー?」
 ごくりごくり。
「どう考えてもギルティープレジャー振り回すよね。フルパワーで……」
 これだけ常識の違う世界なのに。
 なんでそういうところは異世界共通なんだよ!
 続けて無言の俺に、マトイが提案してくる。
「被害を未然に防ぐためにぃー……」
 そこで溜めを作って、俺に向き直る。
「結婚しちゃおっか?」
「ぐぶぅっ!?」
 俺はなにも口にしていないのに、喉をつまらせかけた。
 ゲホゲホむせながら、なんとか言い繕う。
「俺、まだ右も左もわからないし、これからの仕事だってこなしていけるかは確実じゃないし、いくらなんでも早すぎないか……?」
 マトイが眉を吊り上げて反論してくる。
「出会ってすぐえっちしたのは早すぎないの?」
「いや、早かったけど……」
「じゃあ、他も早いほうがバランス取れるじゃないっ!?」
「う、いや……その……」
 俺は言葉に詰まった。
 結局、正直な心情を吐露してみるしかない。
「マトイに不満はないけど、今日ここに来たばかりで、常識もままならないのに結婚なんて頭がついていかないよ。そういうのも人生かもしれないけどさ……」
 それを聞いてマトイがぷっと吹き出した。
 クスクス笑いながら言う。
「面白いっ! 一度こういうやりとりしてみたかったの!」
 眉根を下げた笑顔で続ける。
「アタシだって結婚は早すぎると思うもの。タネツケのことだって変な人ってことしか知らないし」
 凛々しい口調に変わった。
「でも、いざとなったらその時はその時よ。どうせ、これからひとつ屋根の下で暮らすんですからね!」
「あ、ああ……、いざってときにはな!」
 冷や汗がどっと噴き出る。
 束の間安心したものの、ある可能性に気づいて、今度は愕然となった。
 俺は気ままに、流れに身を任せてここまできた。
 そう思っていた。
 だが、果たして本当にそうだろうか。
 俺はちょっと強引な展開でマトイとえっちし、その後彼女に連れられて彼女の父親が運営する組織に所属し、いまや彼女と同じ家で寝起きしようとしている。
 もしかしたら……。
 オークを倒した直後からもう、ずっとマトイの手のひらの上だったのではないだろうか!
 マトイの横顔をちらりと見やる。
 今は鼻歌混じりの笑顔で上機嫌だった。
 策士!
 この美少女、もしかしたらとんでもない策士!
 自分がそこまで買われてるとしたなら、それはそれで面映ゆい。
 だが、俺の推測が正しかったなら、このあといろいろ骨が折れそうだ。
 女と付き合ったこともないのに、最初の相手から賢すぎる。
 とりあえずは……。
 そうだ、とりあえずは、マトイに隠して買っておいた極薄家族計画『うすうすハイパー』が助けになってくれるだろう。
 十二個入りでどれくらいもつんだろう?
 よく財布に一枚入れとけっていうけど、いまは財布も持ってないしな。
 そんなことを考えていたので、もうひとつ訊きたいことがあったのを忘れていた。
 それを思い出すのに、しばらく時間がかかった。

マトイ、助産師に通うか言う。
 なんでそういうところは異世界共通なんだよ!
 マトイに内緒で買っておいたうすうすハイパー。


 トラックのことについて語る
 晩飯の質素なこと
 ヒサメがなんか言う
 アデーレたちのシャワーの浴び方
 トイレ、シャワーは男子用と女子用がある。
 洗濯は各自自分で。
 仕事のことについて。
 午前中に出動がなければ、午後はひま。
 午後の担当は別の自警団。
 イリアン就寝の知らせ。
 
小型トラックから大量輸送をどうしてるか質問
 もちろん魔法だと言われる。
 魔法では生き物を輸送すると精神に変調をきたす
 そこでマトイが気付く
「タネツケは魔法で遠くから運ばれてきたのではないか」
 タネツケどっきりするも、考えてみればもう記憶喪失の嘘をつき続ける理由がないと気付く。
 他の世界からきたと告白。
「人を襲う怪物なんていないのに、大量殺戮兵器は山とある。世界を何度でも滅ぼせるほどに」
「人間を相手にするためのものだ」
マトイ
「一応信じてあげるけどうそっぽーい」
自分の住んでいた平和な日本については語るのを避けた。
 平和で、物も豊富にあるのに幸福ではないということを納得できるように説明するのが難しかったからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...