異人こそは寒夜に踊る

進常椀富

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終章

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 終章

 咲河凛可が次元接続体として目覚めた夜から一ヶ月。
「あなたも次元接続体かもしれません」
 すべての放送網で、政府広報のコマーシャルが流されはじめた。
「怪我が瞬く間に治癒してしまったり、難治性の症状が消えてしまったなどという体験をされてませんか? 次元接続体には起こりうることなのです。そのようなことがありましたら、是非、最寄りの医療機関、保健所などにご相談ください」
 意味がわからない、と不評の政府広報だった。
「あなたの能力、最適な使い道を発見しましょう。我々と一緒に!」
 政府広報はそう締めくくっている。

 鳴田国際高校新聞部部長、秋田祐二はファインダーを覗きながら言った。
「はーい、みなさん、撮りますよー」
 秋田は特別に招かれて、撮影することを許されていた。
 シャッターボタンが押される。
 被写体は、設立されたばかりの『次元接続体対策班アルファチーム』
 居並ぶ設立メンバーは以下のとおり。
 鞍部山一、咲河凛可、郷田透(ゴム男)、佐山鈴和(さやま・すずわ)(鉄の女)、大和田士郎(おおわだ・しろう)(小牧制作のパワードスーツを着用する元機動隊員)、氷室紗英(霧の女)。
 新たな歴史をつくるかもしれない顔ぶれだった。
 写真を撮り終わると、美好が寄ってきてはしゃいだ。
「凛可すごい、すごーい! ずっとニュースでやってるよ!」
 少し髪の伸びた凛可は、恥ずかしそうにはにかむ。
「ぜんぜんすごくないよ、ずっと行き当たりばったり……」
 凛可の隣では鞍部山が快活に笑った。
「美好ちゃんも卒業したらウチに来いよ。事務員の椅子、開けておくからさ。なんてったって、オレがリーダーだし!」
 とたんに凛可は目をつりあげた。
「ちょっとイチ! なに鼻の下伸ばしてんの!」
 そこへゴム男の郷田が口をつっこむ。
「凛可ちゃん、そんなヤツ袖にしてさ、オレとデートしようよ。いて! いてててて!」
 郷田の耳を、鉄の女、鈴和がひっぱっていた。
「おーおー、よく伸びる耳だこと。キモッ……」
 みなの後ろで、パワードスーツに身を包んだ大和田がため息をつく。
「はぁー、こんなガキどものお守、オレに務まるのか……」
「……」
 紗英は無言で、鞍部山に熱い視線を注いでいた。凛可は、まだそのことに気づいていない。

 冬も終わりの、ある日の一コマだった。
 もうすぐ春が訪れる。
 そして、人類の新たなステージが。

                 了
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