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三章 風の前の塵
-41- 真綿で締めるのは
しおりを挟む(やっぱり、私だから駄目なのかしら……)
元々は太蝋は義兄になる予定だった人物。八重の姉である千重の夫となる男だったのだ。その席に着くことになってしまった八重としては、太蝋への申し訳なさも覚えていた。自分が伴侶となってしまった申し訳なさを。
自分だから唇に口付けして貰えない。それが、妙に悲しかった。
そのことを自覚した途端、八重はまた耳まで真っ赤に染め上がる。
(これでは、口付けして欲しいみたいじゃないの……っ)
破廉恥な考えが頭を過ってしまっただけで、八重は自分を責めに責めた。布団の中で悶絶し、太蝋への謝罪を頭の中で唱え続けるのだった。
八重が寝静まった頃。
太蝋は徐に布団から起き出し、隣で寝ている八重の姿に目をやった。
「……はぁ……」
思わず漏れた溜息が八重の耳に入らぬよう、太蝋は口元を手で覆う。寝る直前まで悶えていた八重は、すっかり寝入っていて太蝋の状況を知る由もない。
「……どうやって、するんだったかな……」
誰にも聞かせられない悩みをぼそりと呟き、そっと部屋を抜け出す。
太蝋は胸の内に抱えた悶々とした気持ちを落ち着かせる為に、夜の散歩へ出向いた。
屋敷周辺の道を歩きながら、太蝋は口付け寸前だった八重の顔を思い浮かべる。この数日、挑戦してきたものの、その全てで八重は亀のように首を竦めて目を瞑っていた。
その姿が何を意味するか。
(まだ、怖がられているんだろうな……)
四年ぶりの顔合わせの場や、祝言――そして、初夜の時にも八重は怯えた顔をしながら、太蝋と対峙していた。よく知りもしない男且つ、蝋燭の異形頭が相手では怖いのも致し方がない。
とは言え、太蝋としても何とかして言い訳したい気持ちがある。
(夫婦になって一月半――実質的には半月ほどしか関わっていないが……唇以外への口付けは許してくれているのだし、唇にしたって……)
同じ……とまでは言わないが、それなりに時間を掛けて太蝋との触れ合いに慣れさせたつもりだった。数日とは言え、連日連夜も触れ合いが重なれば、太蝋という存在に慣れるのも早いだろうと考えていたのに。
屋敷の周りをぐるりと一周し、正門前まで戻ってきてしまった。太蝋の気持ちは未だ悶々としたまま。
「はぁ…………柔らかいことは知ってるのにな……」
だからこそ余計に重ねたいと思ってしまうのだろう。触れ合いの一環で、唇を指でなぞった時の八重の赤面顔が忘れられない。少しだけ漏れ聞こえた、か細い声も耳に残っている。
太蝋は屋敷を取り囲んでいる塀に背中を預けて、夜空を見上げた。欠け始めた弓月が自身の心の在り方を表しているようで癪に障る。
「いつになったら、出来るやら……」
互いを知ることに時間を掛けようと言ったのは自分だ。
だと言うのに、触れる度、口付ける度に八重が愛らしい反応をするものだから、もっと先へ踏み込みたいと思ってしまう。
(自分で自分の首を絞めるとは、このことか)
自嘲の笑みを浮かべ、太蝋はまた一つ溜息を吐いた。
空白の一ヶ月で八重の心を開かせていたら……などと、女々しい後悔を思ってしまうくらいには、太蝋は追い詰められているようだった。
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