海賊提督の悪妻

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グレイプ編

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「美味いか?」
「あっ……いやよ、食べてるのに」
 片方の足輪だけを繋がれたベッドの上、サンドイッチを噛んだばかりだと言うのに、リリアンヌの薄いバスローブの合わせ目からネイトが乳首を摘まむ。
「挿入れていい?」
「あ~~~~……」
 聞いている意味があるのか無いのか、膝の上に座らせて後ろから貫く。
 朝のセックスから数時間しか経っていない。リリアンヌは挿入だけで直ぐにイってしまう。
「イく、イく、イってる、イって」
「知ってる。締まるな……はぁ。ちゃんと食べろよ。リリの好きな玉子サンドだ」
「あなたがそんなことするか……やっ、あ、うごかさな」
「わかった、暫くこのままじっとする」
「はぁ……はぁ……」

 脚の間から思考が溶けそうになるのを必死に抵抗して、昼食を食べた。
 後ろから髪を撫でてきたり、サンドイッチを食べさせようとして来る手を払い、さらにしつこく舐めてくる顔を押しやる。
「食べられないじゃない!」
「しかたない、お前が悪い。すぐ食べたくなる」
「………」
「あ~、締めるな」
「そんなのしてないっ」
「ははははは」
「~~~~っ……ゆらさ、な……で」
「えろ。早く食べろ」
「絶対いや」

 ネイトはとにかくリリアンヌを構った。構い倒した。
 食事の世話から始まって、シャワーも洗髪も歯磨きも、全部ネイトがしにくる。先日は爪まで研がれた。全て世話とセックスがセットになっているので日がな一日繋がっているような有様である。

 この男はリリアンヌを虐げるのとは真逆、真にミューズと言って憚らず、姫を遇する手つきで扱う。鎖に繋ぎながら。
 頭がおかしい。美しいだの可愛いだの綺麗だのと、視力もおかしいとしか思えぬ美辞麗句を並べ立て、熱のこもった手つきで愛撫を繰り返し絶頂に落とし込んだ。

 考えられないくらいにセックスが上手い。

 リリアンヌは処女で他の男なんてもちろん知らなかったが、きっとそういうことなのだろうと解釈をした。毎回絶頂に泣き、ドロドロにされる。もうそう解釈するしかなかった。高名な家で育てられたので詳しい訳じゃないが、貴族時代と違って放蕩に耽る金持ち子女なんてパーティーには腐るほどいる。成人してからは話の種にお茶会で性行為について聞く機会はままあった。

 膣を塞がれれば喘ぐしかない。快楽に全てを攫われると抗う術もなく、堪らず善がって絶頂を繰り返すのだ。その間蕩ける様な瞳で名を呼ばれ、身体中を愛撫されて思考を奪い取られた。延々とイかされ続けて、もうちょっとしたことで濡れるようになって、犬みたいに胸を摘ままれるだけで緩く達するようになった。

 咥え込んだままのペニスにヘーゼルの瞳を潤ませたまま、最後のサンドイッチを飲み込んで、オレンジジュースに手を伸ばした。が、ネイトが取って口に含んでしまう。じっと見合ってから、真顔のリリアンヌが顔を傾けて男の口に飲みに行く。既に何度もやったやり取りだ。
 ごくり、ごくりと飲まされて、口の端から零れたジュースを舐められる。

「サラダはオレンジのドレッシングをかけてあると」
「………」
「食べさせてやろうか?」
「あなたは手で食べさせるから嫌よ。口の周りがベタベタになる」
 すい、と顔をベッド上のテーブルに戻して野菜にフォークを突き挿して食べた。
 むしゃむしゃと食べ続ける。

 放置されているネイトが名前を呼びながらうなじを舐めた。
 後ろから手を伸ばし、バスローブを捲って花芽を剥きだし擦り始める。
「…………」
 リリアンヌは眉間に皺を寄せながらフォークを口に運んでは咀嚼して、また口に運ぶ。
 既に挿入っていた硬いソレを締め付け始める自分自身が、壁を擦らせて刺激を増やす。中もクリトリスも両方で快楽を拾ってしまう。だんだん咀嚼が続かなくなって、テーブルの上で肘をつき、仰け反って耐えた。
「……動かさないでイけそーか」
 肩まで赤くなる白い肌を後ろから舐めて男が問うと、イヤイヤと意味もなく堪えたリリアンヌが首を振った。
「動いて欲しい? もっと奥に欲しい?」
 口に入った野菜が噛めない。
 少し開けた唇から涎が落ちる。
「リリ、飲み込んだら動いてやる。喉が詰まるから飲み込め」
 焦らすように当てるだけで擦るのを止めた指に腰が揺れそうになるが、無心でリリアンヌは噛んで飲み込んだ。飲み込んだ瞬間に指もペニスも両方が一遍に擦って来て、声をあげずにイく。
「気持ち良かった?」
「はぁ……はぁ……んん」
「キスを」
「んん…」
 首を逸らして振り向き、形の良い薄い唇にキスをする。リリアンヌの手が男の項に回り、ねだるように撫でた。互いに口を開けて貪り、ゆっくりと涎を交換しているとまた緩やかに開脚した膝裏を持った腕が上下に動かし始める。
「ぁ~~~~……ん」
「今日はゆっくりしよう」
「うん、ん、ネイト、ネ……ト」
「ん?」
「また漏れちゃ」
「ちょっと待て、タオルを」
「ん、んっ」
 漏れ飛ぶより先にドロリと溢れ出した愛液が快感の深さを晒す。愛液は既に白濁として前回の精液なのかリリアンヌの快楽の証なのか判然としない。

 数えることを止めた行為の間に覚えた腰の動かし方でより深く味わうと、リリアンヌの意識は時々とんだ。ネイト曰く『俺も相当巧いけど、相性が良過ぎる』らしい。
 停泊地までの十五日の間、リリアンヌは出発前には想像もしなかった快楽を知り、完全に女になった。


 ◆

 抱え込まれた腕の中で頭上の寝息を聞きながら、じっと波の音を聞く。

 明日、ようやく停泊地であるグレイプに着くらしい。その前に披露目だと言ってガーゼが取られた。言葉を濁され、はぐらかされ、今日までずっと『相当酷い傷跡になっているのだ』と思い込んで剥がす勇気がなかったそこには、あろうことか三つの星が並んでいた。

 そう、ネイトと全く同じ星である。

 腹が立つことに抱き合うと星が重なるのである。

 なっ

 なにこれ!?

 わななきながらリリアンヌの上げた間抜けな声に『俺の印』と煙を吐きながらにやけて答えたネイトの首を絞めたが、嬉しそうに乗っかられて結局また突っ込まれて喘がされた。

 とにかく、まともな話ひとつが儘ならない。
 少しでも対話を求めると、気づけば『リリ、リリ』と身体を求めだすのだ。
 許せない。身体も全く許した覚えはない。

 だけどいかんせん顔が恐ろしく良くて、笑うと可愛い上にリリアンヌに夢中になっている様子は嫌悪感を抱かせなかった。それは重要なファクターになった。
 おまけに途方もない快楽を連れてくる。
 最初は手籠めにされた屈辱もあったが、一度目のセックスが(本当は違うのだが)終わる頃にはグズグズにされていて、何度も何度も続けてイかされる内に屈辱自体が霧散した。

『世間ではそれを手籠めと言うのよ』と賢いリリアンヌが言うのだが、それを遥かに上回る大賢者(風)リリアンヌが『もう黙りなさい』と口を封じてしまった。

 だってリリアンヌは逃げられない。
 快楽からも逃げられないが、物理的に錠で塞がれ、海の上だ。誰も味方じゃない。逃げられっこない。

 この場でシリアスになれば、待っているのは自我崩壊、悲惨な末路だ。
 世間的に見れば富豪に養われ教育を施された幸せな娘だったが、その実は空っぽなこの娘を大賢者はまだ見捨てたくなかった。自分で自分が狂うのを止めるしかない。
 だから大賢者ぶったリリアンヌはあっさりと馬鹿になることを許したのだ。気持ち良いことは悪いことじゃない、と耳元で言う男の言葉を採用し、快楽に従順になった。

 今はひたすら、時を待つべきなのだ。

 リリアンヌは現地妻になることなど了承していないし、そもそも断じて合意の上でセックスもしていない。してないったら、ない。顔を見るだけで濡れるのも気のせいである。顔を寄せられると傾けて口を開けてしまうのも、挿入されている間にネイトの名を呼んでしまうのも全部気のせいである。

 静かな船長室、ネイトが時折寝ながらリリアンヌに頬ずりをする。微かに名を呼ぶ声がする。

 そんな女に家畜のように印を付けるのだ。
 艶めいたことを言うわりに、一言の愛も語らない。その事実にリリアンヌは気が付いていた。
 なんとこの世は爛れて恐ろしいものであったか。覗いてしまった一角に震えるしかない。どうすれば良いのかなんて足枷の付いた身ではわからなかった。
「リリ……眠れないのか」
「ん」
 腕の中で再び頬ずりを感じ、心地よい体温に身を寄せる。瞼を降ろして寝たふりをした。寝たふりをしなければ、多分また突っ込まれる。


 印とやらはトリーチェに帰れば服で誤魔化せる場所にあるし、別にバスルームで侍女に身体を磨かれるような姫ではない。裸を見られない限り真っ当な人生はまだ残されている。

 ただもう、結婚はない。
 既に近代、王侯貴族でもないし、処女でなくなったのはこの際どうでもいいが、さすがに結婚したら『や、やややや焼き印!?』となるだろう。一つ星なら『形の良い痣』だと何とか言い逃れできただろうけど、無駄に三つある。腹の立つ……。真顔で魔女だとでも言い張れば笑い話になるかもしれないが、残念ながら魔性の女ですらなかった。

 ならば職業婦人になるしかない。想像すると腹を括るにはそちらの方が好ましかった。元から結婚願望があるわけではない。自分の力で接待酒場なり宿の住み込みなり、多少身体に墨や焼き印(奴隷以外にほぼ聞かないが)のある人間でも受け入れてもらえそうな場所から始めれば良い。そうしよう。
 以前はそういう場末で働くと女性に無体を働く輩がわんさかいて身に危険が、とか恐ろしかったが、散々身体を弄ばれたのでハードルは地に落ちた。もはや失うものは何もない。

 どうやっても気持ち良かった。
 リリアンヌは意識を失っていた間の破瓜を知らない。
 その間に散々慣らされたなど思いもしない。初めから誰しもが同じように気持ちが良い行為だと勘違いしていた。だから行為そのものを既に受け入れていた。
 この先、未婚のままならこうやって遊びで抱かれても問題なさそうに思う。結局のところ、腹が立とうと許してなかろうと性行為が嫌じゃないのだ。ネイトに嫌悪感もなかった。
 娼婦という職業にさえ親近感が湧いている。出来そうかも。

 グレイプの港を前に、揺蕩う船、船長室、自分を離さない男の腕の中でリリアンヌは自分の甘ちょろい未来を考えていた。
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