海賊提督の悪妻

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トリーチェ編

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「んっ、んっ、んんっ」
 男の匂いのする簡素な部屋に、湿り気を帯びた音が響く。

「ん、あー……っ、んぁ、ぁ、やっ」

 ベッドの上では細かい筋肉の筋が浮いた腹が、緩く浅い動きで挿入を繰り返す。圧迫するように奥で止まられるとあっという間に何も考えられなくなった。絶頂の準備で卑猥なぬめりが次から次へと誘引されると泡立ってぐぽぐぽと音を立てる。
「音えぐ……聞こえるだろ。お前やばいな」
「んっ、ん、ん、ちがう、ちが」
 どちらかと言えば四つん這いで挿入されたのは幸運で、顔を見られずに済んだ。ずずず、と緩慢な動きで逃げていく硬直に切なく瞳を閉じたり、また壁をすみずみ擦り上げながら押し入ってくる熱さに情けなく開いてしまう口もシーツで隠せる。
「何が違う? こんな量垂れ流してよく言う」
「ちがうちがうちがうっ」
 気持良いのはもうどうしようもないが、心まで正気で明け渡すことはできなかった。痺れるような気持ちのよさでとっくに身体の力は抜けていたが、口では最後の抵抗をする。

 ネイトはリリアンヌのちっぽけな思惑を見降ろしながら、存分に竿を扱いて堪能した。初恋相手の蜜月とは全然違う、いやらしい肉の襞。
「やっぱお前の中が一番良い。リリも欲しかった? 俺のち」
「ほしくなんかないっ」
 叫んでも、ずり、と奥を撫でられれば一瞬で泣かされる。
「ぁぁぁっ」
「はは、身体はすなお」
 泣くまで舐めた乳首を潜らせた両手で摘まんで潰し、また柔くこりこりしながら一緒に脚の間で直立をいやらしく動かしてやる。
「いや、いくいく」
「おー、いけよ」
 まだ大きくは攻めないので頂点も低い。
「んー……~~~~っ」
「いけたなぁ、きもちい?」
「よくないっ」
「あー、まだダメか。まぁそうだろうな、もっと泣き叫ぶくらい悦い」
「ちがっ」
 まだがっついて攻めてない。攻めてくれない。薄い腹の奥で気が狂いそうな中途半端な疼きが靄のように広がり始める。突いて欲しいのはそこじゃない。
「ほら、教えただろ。やってほしいことは何でも言え。いく時はどーすんだった?」
「んっ、んっ」
 ふるふる首を振る強情で可愛いうなじにキスをして、男はやたらと緩慢な動きで抽送を繰り返す。抜いて、挿して、ゆっくり抜いて、ゆっくり挿して。
 同じ動きを焦らすように繰り返すと、正直な隘路からぼたぼた期待が滴り落ちる。

 何度も何度もされる内に、強情を折られた腰が本人も気づかないくらい少しずつ勝手に動き始める。
「ネィト、ネ、ん」
「うん?」
「も、も」
「もう我慢できなくなってきた?」
「うん、うん…………して」
 枕に突っ込んだリリアンヌの声が先細りになって、とうとう本音が零れ出るとネイトが嬉しそうに笑った。
 腹の奥が欲しくて欲しくて、もうソレ以外に考えられなくなってくる。
「擦ってやるから、脚、閉じろ」
「はんっ……そ、あ」
 外腿を挟まれて、狭くした空間で硬いペニスをぎゅうぎゅうに扱かれると受け止められない程の大きな快感に悲鳴が上がる。
「やめ、い、い」
 後ろから潰すように背中に覆いかぶさって、ベロリと小さな右耳を舐めてやる。
「んっ」
「イくなぁ」
「あっ、だめ、いっく、いっく」
「自分であてろ……どろどろになって来た……上手い上手い」
「ネ、ト、ネイト、も……ひん」
「うん、いい、好きなだけいけよ。頭おかしくなるまでやってやる」
「………~~~~~っ」

 ◇

 チャリティーイベントらしく、頼みごとを足蹴にする人間は一人もいなかった。ただセレブらしく余裕の笑みを湛えながら『どうしてこのお二人の組み合わせなのかしら』とジロジロと観察はされる。
「この石鹸は私も縁のあるグレイプから仕入れた物でして」
「まぁ、提督殿が?」
「ええ、かの国には恵まれない境遇の女性が多くて。そうした女性を自立した暮らしへと導く為に彼女たちと共同で始めた事業で……そうだね、リリ」
「ええ、そうですわ。移民への寄付を惜しまない皆様のお心に胸を打たれまして。是非この機会に私たちの石鹸もご紹介できればと」
「なんて素晴らしいお話かしら!」
「我々移民への御寄附にも代表して感謝申し上げます、マダム」
「あ……あら、そうなの、あなたから感謝していただけるなんて……倒れそう」
 整った精悍な顔立ちと締まった体躯、如才なく手の甲に口づける提督の爽やかな男ぶりに、テスターを渡した全員の瞳が『ぽやん』となる。
「良ければ名士と名高いご主人にご紹介いただけないですか」
「まぁ、そんな噂が? お恥ずかしいわね。お安い御用よ、リリアンヌさんの石鹸もいただくわ」
「ありがとうございます! 是非お友だちにも広めて頂けないでしょうか」
「ええ、では十個ほど頂ける?」
「十個だって? 良かったじゃないか、リリ。ご友人が多いのですね、マダム……それはそうか、こんな素敵な方なら」
「いやだわ、そんなことないのよ」

 つまり詐欺師だわ。

 余罪が膨らむ男の横でニコニコと相槌を打ったり営業トークを繰り返した。
 ウィットに富んだ社交場ジョークすら余裕で飛び出す海賊詐欺師提督にお腹いっぱいになる。口から生まれたのかと思うような男の出自は奴隷である。
 だけど世情を押さえていたり、ともすれば株価の話さえも滑らかに切り返すあたり、勉強しているのだと感心もした。バートレッドを支えたかったという話を思い出す。

 リリアンヌには何の関係もない話だけれど。

 石鹸がラスト十個になる頃には二人の営業テンポもピッタリ合って来る。始めはどういう風に石鹸を売り込むのか少し迷っていたが、頼みもしないのにネイトがスマートにリードしてくる。振られるまま話せば皆がすんなりと受け取った。
 馬鹿じゃないな、と思う。ただ詐欺師で海賊で誘拐犯で強姦魔なだけで。
 癪だが、結局この男が次に何を言うのかわかってしまう。顔なんか見なくても、合図なんてするつもりもなくても。腹立たしくも同じように隣で思っているだろうことも。

 婚約者の「こ」の字も出していないのに、最後は「あなたたち、お似合いね」と無駄なお墨付きをもらって会場を出た。
「じゃー帰ろうか」
「さようなら」
「はは」
 ネイトが空の籠を下げ、手を繋いで、歩き始めた。

 ◇

 イき過ぎてクッタリした身体を丁寧に引っ張り起こして対面座位で抱っこする。
 側に置いていた手錠でリリアンヌの両手首を繋ぐと、自分の首に回させてから挿入しながら抱きしめた。
「リリ、リリ」
 何度も名前を呼んでくる。鬱陶しく呼びながら、頬に額に口づける。
「ん……」
「口開けろ。舌出して」
 素直に小さく開いた口を覆い、延々と舌を吸って絡める。ちゅくちゅく吸われると頭の痺れはまた継続を余儀なくされ、リリアンヌの腰は擦りつけるように揺れた。
「はぁ……はぁ……んん……」
 口唇を覆っていた男が離れていくと、薄目を開けたヘーゼルが近づく。鎖を鳴らしながら男の両耳を掴み、追いかけるように薄い唇がネイトの唇を吸いにくる。
「もっと?」
「んん」
 骨ばった硬い手が全身を撫でまわした。
 記憶の中の手よりも温かくて気持ちいい。リリアンヌの鼻から甘ったれた吐息が溢れて漏れる。
 互いに口内を思い出すように舐め合って、空白が確かにあったことを確認し合う。

「あ……そこい……ぃ」
「奥?」
「ん、ん」
 両膝裏に腕を入れられ、背中を包んで軽々と上下に揺らす。
「こうやって動けなくして、ごしごしして欲しかったなぁ」
 言葉と共に最奥に捻じ込まれて、零す涙と背中に立てた爪で衝撃を逃す。両腕は手錠に繋がれて、両足ごと締まった身体に抱え込まれると逃げ場などない。激しく収縮する輪で男を扱くと、硬く擦れて気が変になりそうだった。
「あー」
「はは、すげー締まる」
 繋がれて穿たれた不自由さが、抗えない快楽を連れて来る。それは強引で剥かれきった堕落で、だからリリアンヌは仕方なく堕ちた。囚われながら晒す不自由な気持ち良さが癖になっていることは、まだ抱いている方しか気づいていない。

 焦点の合わないリリアンヌがまた顔を傾けて舌を招くと、ぴちゃぴちゃと卑猥な音がして合わせ目から涎が垂れていく。
 目を閉じて揺れながら、上も下も埋まって満たされる。

 ◇

 ネイトは特に迷う風もなく、邸宅からの道を歩いていく。
 リリアンヌはキョロキョロと辺りを見回して逃げ時とルートに目を光らせた。
 繋いでるのは手だけで、鎖もないので逃げ放題! そしてここはグレイプではない。勝手知ったる自国、しかも生まれ育ったホームタウンだ。ましてや別人として暮らしている。今逃げれば後は何とでもなる。たぶん。

「リリ、お前毎日どこにいる?」
「あなたに関係ありません。ちょっと、顔が近いわよ」
「久しぶりの匂いで勃ちそう」
 てかもう半勃ち……囁きに思わずリリアンヌの視線が下がる。
「………」
 軽蔑の眼差しも爽やかに受け止めた目線は甘い。
「居場所をおしえねーとは、悪い婚約者だな」
「悪くて結構よ。詐欺師の海賊に言われたくないわ」
「詐欺師?」
 歩きながら顔を見合って、ネイトはやや首を傾げる。
 繋いだ手はふんわりと優しくて、いつでもパッと離すことができそうだった。逃げる時まで安心させておけばいい。だから今は解かない。
「そうよ、メアリーのことだって……どこからあなたの仕業だったの?」
 見上げて尋ねた顔がぷはっと笑う。
「仕業……俺は行方不明の婚約者を探してただけなんだが。お前は屋敷にいねーし、パーティーで最近会ってないか聞いても空振り続きだろ。埒あかねぇし、作戦変更でお前が網にかかるのを待つことにした」
「網!?」
「そーだ、銛で打つより効率がいい。漁の基本だろ。お前が行きつけの店に現れたら、店から彼女に連絡するように頼んでおいた。なんかチーズケーキを食べに行くんだろ? 俺も食いたい。ハロッド家のアレはパーティーで嬉しそうに話しかけてきたんだ。お前の同級なのも知っていたし最近会ったのか探りを入れただけなのに、俺と妹との三角関係で出奔したんだと勝手に勘違いを。あとは最後に、捕まえたら俺と会えるようにして欲しいと頼んだ」
「その三角関係なんとかならなかったの!?」
「残念ながら」
 にや~っと嬉しそうに首を振る。
「はぁ……このドレスもあなたなのね?」
「おー、最高に似合ってるだろ。俺のリリアンヌが一番美しかった。宝箱から持って来たドレスだ! 雄はみんなお前を見てたぞ。ザマーミロ」
「……まぁ、趣味が良いことは否定しないわ」
 メアリーに高そうなドレスの借りを作ったと思っていたので、ネイトの用意だと知ってホッとした。あれ、でも、逆の方が良かった? リリアンヌはわからなくなる。

「だろー」
 わからないものの子どもみたいに喜んでいる顔を見ると、毒気を削がれた。ずーっと嬉しそうにしか見えなくて、調子が狂う。でもそろそろ。

 手を離さなければ。

「興奮してきた」
「は?」
「よし、これ持て」
 籠を差し出してくるので、リリアンヌは引き取る。
「あ、ええ。というかこれは私の荷物だし」
「それ嗅いでみろ。籠の中がくせーから」
「そう?」
 渡された籠に頭を突っ込むように鼻を近づけて、クン、と嗅いでいたリリアンヌが次の瞬間小さく叫ぶ。
「ひゃっ、ちょっと!!」
 足が浮き、グルンと上が下になった。小麦袋のように肩に担がれたのだ。
「だってお前、さっきから逃げようとしてるだろ」
「当たり前でしょう!!」
 やれるだけバタついて、転がっても良いから降りようともがいたが、腐っても軍人である。
「手錠もないだろ。担ぐしかない。しゃーねーな」
 籠を手に海軍服を叩く。
「いてー」
「降ろして!!」
「んー、あとで」
 膝裏に二の腕をひっかけ器用に煙草に火を点けて、美味そうに吸いながら軽い足取りで歩き出す。

「マリアンヌが迎えに来たな。総督の部下とだろ?」
「………」
「モニークに石鹸の仕入れを?」
「そうよ。あの子たちの作った服も。売りたいの」
「そーか」
 肩越しに落ちて来る懐かしい煙と、つっけんどんで可愛げのない調子の声があの日別れた時間へと二人を引きずり戻して行く。
「住所は聞いてたのか」
「初めて会った時に貰ったの。後からアパートにも行ったから、覚えたわ」
「ギヴリーを通して運んだら高くつくだろ」
「何言ってるのよ。運賃くらいまけさせるわよ」
「ふっ」
 肩が小刻みに揺れる。
「家出娘に船便が使えるのか?」
「別に家出した訳じゃないわ。ただの独り立ちよ。私の会社だってわからないようにしてるし、船便の手配やお遣いを頼める見習いなんていくらでもいるもの」
「独り立ち」
「自分の面倒は自分で見るの。自由に暮らして、今が一番楽しい!」
「………そーか……楽しいか」
 そらよかったな、と言ったネイトの顔をリリアンヌが見ることはなかった。

 夜も更け、あまり出歩いている人間は多くない。ネイトは苦も無く歩き続け、静かな高級住宅街を抜けて街中へと入って行く。
「どこに行くの?」
「俺ん家」
「家なんてあるの?」
「一応な。でもまた引っ越す」

 ふーん。
 興味のない返事をして、首を左右に動かして逆さの世界から道を把握する。この辺りは役所や教会の側で治安は悪くない。移民たちやレア先生が住むエリアとは少し離れた場所だった。

 飲み屋や宿が立ち並ぶ建物のひとつ、ギヴリーらしい真っ白な三階建てのアパートの共同玄関の鍵を開け、三階まで上がっていく。
「三階までこれで登りは結構苦行」
「じゃあ諦めて降ろしなさいよ」
「あとでな。そろそろお前が諦めろ」
「………」
 何段も何段も階段が目の前を過ぎていく。
 鍵を回す音がして、実は誰も知らない提督の家の扉が開いた。
 部屋に沁みついた煙草と、香水と、腹の奥に落ちて来るネイトの匂い。クン、と嗅いだ瞬間から、ベッドに降ろされた瞬間から、二人が顔を傾けあった瞬間から否応なく始まる。

 大賢者リリアンヌがそうっとヘーゼルの瞳に蓋をして、口を開けろと囁いた。

 ◇

 ネイトが親指をキスの間から捻じ込んで唾を付け、とろりと花芽にあてる。
「………ぁ」
 口内の舌の動きが鈍くなり、あえかな声が断続的に漏れ始めれば快楽の底が抜けた合図だった。
「ぁーー……ぁー……あ、あ、ぁ、くる」
「うん」
 返事をしながらネイトの眉間の皺も深くなる。
「いっ……」
「あ~、クッソ締まる」
 最高、と言いながらぬるぬると擦り上げる指が止まらない。
「ゆび、やめ、らめ……あ~~~~らめ、らめ」
 ドボン! と浸け込まれた絶頂の中で、今ここがどこなのかとか、イってるのかいないのか、何をされているのかとか、全部が曖昧になる。肌を滑る手がリリアンヌを支配して、身体を穿ってくる青い目だけがあって、与えられる悦楽だけしか感じられない。

 細かく震えて泣く身体を大事に大事に壊して、ネイトは取り返しのつかない痴態へとリリアンヌを作り替えていく。

「クリ擦られながら、一番奥されたら死ぬんだっけか。お前死んでばっかだな」
「んっ、ん、あーーー……」
「けど今わかってる? リリが腰振ってんだほら」
 急に両手で腰の動きを止められるとリリアンヌは首を振って抵抗する。止められたくない。もう少しでまた絶頂が来る。手錠のまま男の手を小さく握ってすすり泣いて我を忘れて訴える。
「はなして、はなし、いや、やん、ネイト、ネイト」
「いやか? もっとちんこで擦りたい?」
「ん~~~、きもちい、もっと」
 意地悪く尋ねても、素直にこくこくと頷いて甘えた声で泣く。
「ネイト……っとして、ぎゅってして、またおくして、して、おく」
 久しぶりの生身の破壊力はえぐい。ネイトの汗も噴き出て来る。
「あーーーー……可愛いな」
「ネイト、ネイト」

 離れていた時間が勝手に作った気持ちになど無自覚なそれぞれが、磁石みたいに強引に引き寄せられる。
「ネイト……ネイト……もっとして」
 涙目で朦朧とねだるリリアンヌの中身をぐちゃぐちゃに掻き出して壊したい激しい衝動が襲う。きっと臓物すら宝石より美しい。全部が欲しい。
「なんだこれ」
 やばい。

 理性を総動員して、とりあえず歯形が付くまで噛むだけに留めた。痛いと泣くリリアンヌを無視して乳房の一番柔らかい下の方と太腿にくっきりと痕を残す。
「いた……いたいっ、やめて」
 逃げる身体を引きずり戻す。
「ん~~、ごめん」
「きらい!」
「あぁぁーー、わかった」
 言いながらまた再度ふやかした隘路に埋め、焦った男は自分でつけた乳房の歯形を舐め出した。舌が触れる度、ちりっと痛む場所に刺激が走ると膣が締まる。
「ん、ぁっ」
 舐められるたび、リリアンヌが無意識に締め付ける。
「はぁぁ……ん……」
「あ? これ好き?」
「ん、ん、すき」
「………………すき?」
「すき……すき……ネイト、ネイト、ぁ、すき、やぁおっき」
 なぜだかぎちぎちに膨張していく自分におかしさが込み上げる。
「リリ、リリ……リリ」
「な…に」
「わからん、もー、どーしていいかわからん」
 ネイトは初めて自分の射精に意味があったら良かったと思った。胎まで長く占領できるなんて夢みたいな話だ。いーなぁ。そうして空っぽの胎に空っぽの液体をぶちまけた。

「はぁ……はぁ……」
 急に凪いだ青い瞳を、リリアンヌも息を上げたままで見つめ返す。
「なに?」
「や、なんも」
 いい加減に首を振ると思い出したように首筋からデコルテまでを舐め、たまに軽く噛んでまた舐める。
「ふふ」
「ん?」
「ちょっとくすぐったい……口にして」
 手錠ごと男の首の後ろに回し、顎を上げると覆ってくれる。
 二人でごろんと横になって、ネイトが柔らかいキスをしながらリリアンヌを丁寧に撫でる。手つきが心地よくて、この時間だけは特に何も必要ではなくなって、リリアンヌは知らぬ間に溢れてなお満たされていく。
 最初からずっと宝物みたいに触るのだ。熱くて温かくて優しい手で。

 全部が溶けてきっといずれ剥き出しになってしまう。
 だからもう触って欲しくなかったのに。

「リリ」
 絡まっていた小さな舌から力が抜けた。顎を引くと、スーッと寝息を立てている。

 ネイトは不思議なものをみる目でじっとリリアンヌを見続けた。
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