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第1章 望まれぬ献身
7話 知り合うということ
しおりを挟む「……んっ」
チュンチュン、と鳴く鳥の声と、カーテンの隙間から覗く朝の光で目が覚める。
「あさかぁ……ふぁ」
横になりながら背伸びして起きる準備をする。よく寝た、頭がすっきりしてる。
「いまは……8時か、ちょうどいい」
むくり、と起き上がって洗面所で顔を洗って歯を磨く。
シャカシャカシャカシャカ
えーと、歯磨きが終わったら寝間着から着替えて……鞄を持って……どこ行こう? うん、誰かに聞こう。多分部屋の近くに誰かいるだろうし、恐らくクラウスから何か聞いてる人が居るはず。
……あと、集落の人たちがボクを歓迎してくれるか聞かなきゃ。着いた途端かえれって言われても困るし。
ダラダラと歯磨きをしながら、起きたてで回らない頭を働かせて今日の予定を立てる。
……こんなもんかな。歯磨きを終えて、ピシャっと両手で軽く顔を挟んでシャキッとする。よし、頑張るぞ。
部屋に戻って、外出用の服に着替える。今日はまだ薄手の服で大丈夫かな、外套もあるし。
「あ、昨日の服洗うの忘れてた、やば」
やってしまった。普段は王宮の大浴場を使ってたから使用人が脱いだ服を洗ってくれてたけど、昨日は部屋の浴室を使ったから自分でやらなきゃいけなかったんだ。今から急いで洗えば出発するまでには乾くかな? あ、いや、魔法で乾かせばいっか。文明の利器をいざ使わん。
急いで浴室の洗面器に水を貯めて、脱ぎっぱなしの服を手洗いする。気づいてよかった。入れたものは、同じ空間内に存在するけど互いに影響することは無いから臭いがつくとかは無い。だから洗わずにそのまま入れても良かったんだけど、精神的にちょっとね。
ギュッ、ギュッ
洗い終わった服を絞る。乾かすべく部屋に戻り、窓を開けて風魔法の準備をする。えっと、服はここに掛けて風を当てやすいようにして。
「んーと、たしかこんな感じ?」
乾かすだけなら風と火魔法で出来たはず。火魔法で温度管理して、風魔法で服に風を当てる。それだけだ。
「よいしょ!」
くるっと指を回して魔法を使う。窓の外から風を部屋の中の暖めた空気と混ぜて、掛けられた服の周囲を回転する風を起こしてみた。よし、上手く安定してる。
数秒後、ちゃんと乾いたかを確認してから、ふいっと人差し指を振り魔法を解除する。
トントントントン
「ノマ様、如何なさいましたか」
何時もより荒いノックの音と男の声が部屋に響いた。そうだ、ここは王宮だった。魔法の発動を確認して急いで駆けつけたんだろう。申し訳ないことをしてしまった。
「ごめんなさい!服乾かすために魔法使っちゃいました!」
「左様でしたか、失礼いたしました。今後はご遠慮なく我々に申し付けなさいませ」
「うん、ありがとう」
そうだ、ついでにこれからどこ行けばいいか聞こう。服を置いてから扉に近づき、扉の前にいるだろう彼にぶつからないように開ける。
「ところで、ボクはどこへ行けばいい?クラウスにはお昼ごろ出発だって聞いたんだけど」
男の話によると、商人が来るまでは特にすることは無いらしい。どこかへ行く時は場所さえ伝えて貰えれば良いとのこと。そこでボク人となり?を確認するつもりなのかもしれない。
「朝食は如何なさいますか? 果物や野菜類をご用意致しておりますが」
「じゃあ食べようかな」
魔法という朝の運動もしたことだし、ちょっとお腹すいてきた。おまちしてます、と男は去っていった。
そのままボクも鍵を閉めてから食堂へ向かい、美味しい果実と新鮮な野菜を食べ、部屋に戻り商人を待った。そしたら、11時半頃だろうか、商人が来たと知らせがあったので鞄を持って部屋を出て正面入口に向かう。
「あ、クラウス。おはよう」
「おう、おはよう!どうだ、調子は」
「よく眠れたから凄くいいよ」
階段を下りるとクラウスと出会った。迎えに来たというクラウスの後をついて行き大きな扉の先の正面玄関にたどり着く。
「ノマ、右が商人のダグラス、左が用心棒のバロンだ。んでこいつがノマ。旅初心者だけど面倒見てやってくれな」
「初めましてノマさん。ダグラス・フォンテと申します。ダグラスと呼んでください」
「俺はバロン。バロンでいい。普段から山で魔物狩ってるから任せとけ」
カロルの同じ銀色の瞳だけど、もっと細目のダグラスと、恐らく犬系の血が入った獣混種のバロン。多分、ダグラスは耳も長くないし獣混種の特徴もないから純血種かな。だとすると多分40後半くらい?
バロンは焦げ茶色の犬っぽい耳が頭にあり、しっぽもある。目は黄色と金色の間って言うのかな。筋肉隆々としていて、多分30後半?あんまり年齢って分からないんだよね。
「初めまして、ボクはノマ、です。気軽にノマと呼んでください」
危うくラガルデアまで名乗るところだった。姓がラガルデアなのは王族とボクだけだから、失言していたら言及は逃れられなかっただろう。危ない危ない。
「ああ、聞いてるぜ。確か魔術が得意なんだろ?俺はそっち方面はからっきしだからよ、期待してるぜ。魔法も使えるんだろ?」
「はい、勿論。基本属性に関しては全てに適性があります」
他にも色々あるけどね。元々長命種であるのに加えて神様になったから、一般の人には知られていない魔法や魔術も使いこなせるようになった。もちろん、そんなこと言えないけど。
「なんと、さすが長命種の方ですね。クラウス様、この度はよいお人をご紹介頂きありがとうございます」
「ああ、気にすんな。利害の一致?ってやつだ、多分」
ダグラスはボクを賞賛したあと左手を胸に当て一礼をし、クラウスはひらひらと手を振り答える。
「じゃあ、ノマ。お別れだ、頑張ってこいよ」
同じ背丈のはずのボクの頭をぐりぐりしてくる。いたたた、無駄に力強いんだから気をつけてくれ。
「やめ、いや、えっと、や、止めてくださいませ、クラウス様」
「お、おおう、すまん」
ボクの畏まった言葉に対して面白げに口元を緩めるクラウス。だからやめてください、とやり取りをしてるとダグラスさんが訝しげにボクらを見ていた。
「いや、ダグラスさん、これは、えっと」
どうしよ。どんな設定にすればいいのか。チラッとクラウスを見ると、意外と平然とした様子だった。
「ああ、おれが迷子になってたらノマが助けてくれてなぁ、そっから仲良くなったんだよ。なぁ?」
「そ、そうですそうです。あの時はまさかクラウス様とは知らずに」
クラウス……!助かったありがとう、との頃の中で感謝する。
「そうだったのですね。申し訳ありません、詮索するような真似を。お許しください」
「気になって当たり前だ、いいさいいさ」
そうだ、ダグラスさんは何も悪くない。多国の神様に頭を撫でられる人なんて中々居ないよね。まったく、全部クラウスのせいだ。感謝は取り消し。
「じゃあ、今度こそ本当にお別れだ。お土産待ってるぜ、ノマ」
「う、んん、はい。ご期待に添えるような物を必ず」
今度は頭を撫でてくることは無く、ただ視線を交わすだけだった。そうそう、普通はこんな感じでしょ。
ダグラスとバロンもそれぞれクラウスと別れを告げで、ボク達は王宮を出た。
*
「さて、ノマさん。これからあの馬車で私たちと共にユグルに向かうことになります。昔こそ、外からの客人は嫌われてましたが、今は一部を除き歓迎してくれてますよ」
王宮を出てから、上部が白く覆われた馬車が目に入ったところでダグラスが言う。やっぱり排他的な側面があったんだな。失礼の無いように気をつけよう。
これから乗るであろう馬車は思ってたよりは大きくて、結構荷物が乗りそうだな思った。
「詳しい説明は馬車の中でしますが、山道の途中には魔物が出る可能性があります。
山道ですのでそこそこ揺れますが、酔いやすい方ですか?」
「いえ、特に酔わないですね」
「それなら良かった。でももし酔ってしまった場合は遠慮せず言ってくださいね、酔い止めを差し上げますので」
特に酔うことは無いと思うけど、ダグラスさんからしてみればボクが酔ってしまうと戦闘になった時大変だからだろう。ありがとうございます、と答えて歩きつづけ、馬車にたどり着く。先を歩いていたダグラスは2頭の馬を撫でてから手慣れた様子で馬車に乗り込んだ。続けてバロンも荷台の中に乗り込み、ボクも見よう見まねでなんとか座った。
「それでは、参りましょう。お昼用の飲水や軽食はそちらの袋に入ってますので」
そういってダグラスは手綱を操り馬車を動かし始めたところでバロンが
「なぁ、もっと気楽に喋ろうぜ?だりぃよ」
と、言い出した。ちょっと堅苦しかったかな?王宮以外の人達とあんまり関わってこなかったから距離間が掴めないな、と思っていたらダグラスさんが出会ってから一番柔らかな声色で言った。
「まぁたあんたの悪いくせが出たねぇ。すみませんね、こういう奴なんですよ」
「いやいや! たしか、2週間くらいかかるんでしたよね? ボクも楽しく旅をしたいので、もっと砕けた口調で大丈夫ですよ」
バロンさんに対するダグラスさんの口調がけっこう砕けていることにおどろく。そっか、そういえばこの二人は前から組んでいるんだっけ?ボクが入ってしまったことで空気を悪くしてしまったのかもしれない。
「そうですか? それでは、いえ、それじゃあ遠慮なくいかせてもらおうかね。ノマ、と呼んでも?」
「勿論!ボクもダグラスと呼んで、いい?」
「えぇえぇ、勿論。バロンもいいかい?」
「ああ、構わないぜ」
「じゃあ、あらためてよろしく、ダグラス、バロン」
こっそりと心の中では呼び捨てで読んでいたのは内緒にしといた。親睦を深めてからすこし静かになったから、ボクは後ろの荷物をながめてみた。荷台には大小の袋がいくつかあって、たくさんの木箱と樽も幾つか乗っているのが確認できた。これを集落に持って行って売るのだろう。
じーっ、と見ていたボクを見かねたのか、隣に座っていたバロンが説明を始める。
「これはな、大体食料だが、酒とか服とか集落じゃあ手に入らねぇもんも入ってんだ。代わりに集落からは塩とか野菜、果物を買って街で売るのさ、ダグラスたちがな」
「へー!野菜と果物があるんですね!」
こういう話を聞くとついつい気分が上がってしまう。もしかしたらサリスファナや週楽でしか食べられない物があるのかもしれないと考えると、わくわくしてくる。
「やっぱあんたらって野菜とか好きなのか」
「んー、そうだなぁ。お肉を食べる長命種も増えてきたけど、多くはないかな。バロンは獣混種だよね、やっぱりお肉?」
犬耳もあるし、クラウスみたいな感じを想像したらやはりそうらしい。だけど次に続いた言葉にボクは驚いてしまった。
「だな、俺は狼族の血が流れてっからな」
「え、狼?」
狼族と聞き、ボクはある物語を思い出した。
獣混種にはかつては様々な種族に分けられていた。バロンの言う狼族もそのひとつだ。しかし今では種族の話はあまりしなくなった。その理由は、昔、悪い人達が珍しい獣混種を奴隷として捕まえたり、耳やしっぽ、酷い時は毛皮までも売り物として剥ぎ、結果として一部の種族が滅びてしまった経緯にある。他の種族にとってもそれは悲しいことだったが、自分らに火の粉が降りかかるのを恐れて助け合うことは無かった。
しかしある日、ある村の種族がたった1人の女性を残して滅んでしまった時、被害の少なかった種族がその女性を受け入れたことがあった。その女性はその種族の男と恋に落ち、他の者らの反対をおしのけ子供を産んだ。そして生まれてきたのは、女性側の血を引いた子供だった。それを知った女は泣き崩れ、その様子を見ていた村の者たちも女の涙を見て、愛を育むのに種族の違いなど障害になりはしないのだと知った。
その考えはその村だけではなく、山をこえ、川を超えて広まって行き、今に至るのだ。種族なんて区別する必要ない、関係ないと。そうやって次第に自分はどこの種族だ、あいつはなんだとか、そんなやり取りが消えていった。
「ああ、驚いたろ」
「うん、正直」
そして、狼族はほとんど滅びた種族のはずだ。まさかこんな所で会うなんて。
「私も最初聞いた時は驚いたさ」
そりゃそうだ。それにしても2人はどのようにして出会ったのだろうか。……聞いてもいいだろうか。
ガタンッ
「おっ、と」
なんか石でも引っかかったかな、揺れが大きかった。あれ、もう街の大通りを抜けて、ちょっとでこぼこした道に入っていた
「ここからは少し揺れるから気をつけて」
「だな、ちゃんと捕まっとけ」
はい、と答えて腰を深くしてすわる。2人のことも気になるけど、2週間もあるんだ。いずれ知る機会もあるだろう。
そのままボクたちは森へと向かって進んでいった。
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深く、けれど浅く
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