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第1章 望まれぬ献身
9話 輝く空色
しおりを挟む集落ユグルにたどり着いたボクら3人を出迎えたのは、騒がしい子供たちだった。
「わー! バロンだー!あそぼー!」
「ねぇねぇ!いつものやって!」
「あのね、ダグラスさん。あたし、お花のかんむり作ったの、あげる!」
わ、わぁ、すごいなぁ……。あっという間に獣混種の子供たちに囲まれる2人。体の大きなバロンは「おらおらー!ガキども楽しいかー!」とその両腕に絡みつく子供を体ごと揺らして遊んてあげてる。ダグラスはしゃがんで、小さな女の子から冠を被らせてもらって嬉しそうだ。
「……おにーさん、だぁれ?」
「え、ボク? ボクはね、ノマ」
2人を少し遠くで眺めていたら、いつの間にか近づいてきた小さな男の子に声をかけられた。
「ノマさん。いつもいないのに、なんで?」
ふと周りを見渡すと、大人たちからも好奇の目で見られてることに気づく。長命種のボクが珍しいのだろう。今は排他的ではないと聞いたけど、仕方ないことだ。
「えっとね、人を探しててね、ここに居るかもしれないから2人についてきたんだ」
移動途中でも人探しの件は隠すべきか悩んだけど、隠しながら探すのには限界がある。ここはある程度正直に言って、集落を歩き回れるぐらいには信頼を得たい。
「なんだ、人探しに来たのか。言いたくなかったらいいんだけどよ、誰なんだ?」
腕に引っさげていた子供たちを地面に下ろしたバロンが近づいてきた。道中でも特に聞かれることは無かったからクラウスから聞いてるのかなと思ってたけど、遠慮してただけだったんだな。考えておいた設定を説明する。
「実は、ずっと連絡のつかない大切な人がいてね……こっちに向かったっていう情報があったんだ」
これなら、大体の人は遠慮して余計な詮索はしないし、協力もしてくれるかもしれない。ついていい嘘とついてはいけない嘘というものがあるけど、これは前者だと信じたい。
「そうなのか、すまねぇな。なんか手伝えることあれば言ってくれ、俺もダグラスのおっちゃんもここにいる間はできる限り手伝うからよ」
「うん、有難う。たしか2週間くらい居るんだよね」
「ああ。だが外でも会う機会もあるだろう。そんときも遠慮なく、な」
そう、2人はもちろんずっと此処に居るわけじゃない。商品を売って、また街で売るための商品を仕入れたら帰ってしまう。ボクは出来たら2人と一緒に帰りたいけど、手掛かりが見つかるまでは集落に居れたらいいなと思ってる。これも集落の人がボクを受け入れてくれたらの話だけど。
それにしても知らない人が集まってきて、なんとなく居心地が悪い。慣れない環境にオロオロとしてると花冠を被ったダグラスが少し声を張って言った。
「皆さん! 知らない方が居て戸惑うのは分かりますが、こちらはノマ。クラウス様からご紹介頂いた方です、ご安心ください」
「クラウス様が……それなら」
「ノマって言うのね、長命種かしら」
「珍しいやつが来たな」
ダグラスの言葉でボクを見る目が少し和らいだ気がした。さすが外出好きなクラウス、こんな所で彼の人柄? に助けられるとは思わなかった。
「初めまして皆さん、ノマです。実はボクの大切な人が行方不明になってしまい……彼女が此処に向かったという情報を得たのでユグルに来たんですが、ご迷惑でしょうか」
「行方不明に……いや、俺たちは構わないんだが……」
「そうね……あの人たちはどうかしら」
「難しいかもな」
ボクの言葉に批判的な反応は無いけど、『あの人たち』たちというのは誰のことだろう。ダグラスが『一部を除いて歓迎するだろう』って言ってたのはこの事なのかな。
「ふむ、人探しですかい。私からもノマが探すことを許して貰えるようお願いしてみよう」
「あの、『あの人たち』にボクも会わせて貰えないかな?」
ダグラスが神妙な顔で考えてくれているけど、ボクの問題ならボクが解決しないといけない。どんな人達か分からないけど、多分、過去に種族間で色々あった人達なんだろう。もしくは先祖や親族に悲惨な目にあった人がいるとか。どんな言葉をかけられるか不安だけど頑張らなきゃ。
※
ボクは今、ある家の門の前にいる。
王宮まで豪華とは到底言えないけど、集落の他の家々には無い門があったり家自体もそこそこの大きさだ。
「ここかぁ……緊張する……」
ダグラスと迎えてくれた集落の人達の話し合いによって無事、ボクは『あの人達』会えることになった。『あの人達』の居る家は集落の端の方にあって、いわゆる集落の長とその親類が住んでいる一帯に案内された。
今、中ではダグラス達がボクに会ってくれるかを交渉してくれている。ダグラスが最初に行商として来た時にもこうして交渉したらしい。
「あ、終わったのかな」
向こうから歩いてくるダグラスが見える。
「ノマ、会う許可は得たけど、1人でという条件と言われてしまった」
「1人か……わかった、行ってくるね」
「ここで待ってるから。悪い人たちでは無いけど、何かあったら大声を出すんだよ」
話す時にダグラスが居たらちょっとは気が楽だったんだけど、1人でって言われてしまったら仕方ない。純血種のダグラスも受け入れてもらえたんだ、ボクもちゃんと話をすれば分かってくれるはず。
不安で重くなる足を前へと進ませる。すると扉の前に獣混種の女性が立っているのが目に入った。
「ノマさん、ですか」
「あ、はい。そうです」
「……こちらにどうぞ」
彼女は、ボクを下から上へと眺めてから扉の中に案内する。静かな、長い廊下を後をついていく形で進んでいく。暫く歩いていると彼女が足を止めた。
「アテニア様、連れてまいりました」
「入りなさい」
「失礼します」
ガラガラと横に滑らすように開けられた扉の先には4人の男女が見えた。
中に入るように促されたボクは、緊張しながらも臆していると見られないように中に入る。そして再び音を立てながら扉が閉められ、ボクはまさに孤立無援の状態になった。
「まずは座りなさい」
「はい、分かりました」
そう言われたので、床の一つだけ空いていた座布団に座る。ボクの正面には老夫婦だろうか、まさに『長』の雰囲気のある2人がいて、それぞれの手前横に男女が座っている。
……なんだろう、右に座っている女の人に見覚えがある、気がする。
「ノマ、と言ったか。人を探しに来たと聞いたが」
「あ、はい。そうなんです、行方不明の人を探していて、ここに手掛かりがあるかなと」
女の人に気を逸らしていたらお爺さんに話しかけられた。違うんです、下心は無かったんです。
「まあ、まずは自己紹介をしましょう。わたくしはアテニア、隣りの怖い人はオシグル」
優しげな目元をしたおばあさん、アテニアさん。対して眉間にシワをよせた怖い顔のオシグルさん。
「あたしはフォトナ。そっちは弟のレイアウ」
「レイアウだ。よろしく」
「ノマです。よろしくお願いします」
二人の子供なのだろうか、フォトナさんはアテニアさんと同じ瞳の色、空色の瞳をしている。レイアウさんもオシグルさんと同じ焦げ茶色の瞳をしていた。そして男性陣は暗い茶髪で、女性陣は明るい茶髪で、またそれぞれの色の毛を纏った耳が立っていた。
明るい茶色の髪に空色の瞳、何故か目が離せない。
「……何か、あたしについてます?」
「……! ごめんなさい、何でもないです」
不愉快な思いをさせてしまっただろうか。意識して彼女を見ないようにするけど、気になってしまう。
自分でも制御出来ない何かに混乱する。
「それで、誰を探してる」
だめだ、ちゃんと答えないと。設定は、恋人が居なくなってここを訪れたかもしれないという体でここに居るんだ、それを言えばいいだけ。
「……恋人を探しに来ました。彼女がここへ向かったという情報を得たので、旅に不慣れなボクはダグラス達と共に来たのです」
「お前以外に長命種の奴が来たとは聞いてないが」
「そうですか……なにか手掛かりがあるかと思ったんですが……」
最悪このままだと帰れって言われる流れだ。なんとか流れを変えないと。
「ダグラス達がいる期間だけでいいんです、その間だけここユグル付近を探すことを許して貰えませんか?」
出来れば何かが見つかるまでは探し続けたいけど、情けない事にオシグルさんが怖くてそんなこと言えなかった。たのむ、オシグルさん……!ゆるしてください……!
「無駄だ。ダグラス達以外にここを訪れるものはいない。集落を無駄に歩き回ることは許さない」
「そんな……」
なんて事だ。取り合ってもくれない。はぁ、どうしよう。大人しくしてるか、バレないようにあるかも分からない手がかりを探すか……?
項垂れていたら髪が落ちてきて邪魔になり、左手で耳にかける。バレないように探しても、バレてしまえば取り返しのつかないことになる。探すことすらダメって言われると思ってなかった、考えが浅かったな……
「━━ねぇ、その耳飾り。どこで手に入れたの?」
「え、これですか?」
フォトナさんがボクの左耳についているピアスを指さす。そういえばクラウスから貰ったのをつけてたんだった。
「これは、クラウス様から旅のお守りとして頂いたものです。これが、何か?」
「クラウス様が……」
「それは本当ですか、ノマさん」
驚いた顔をしたフォトナさんと真剣な顔をしたアテニアさん。よく見ればアテニアさんにもなにか見覚えがある気がする。……あ、いまは答えないと。
「はい、確かにクラウス様から。一定以上の衝撃で発動する術式がありますが、それ以外は普通のピアスです」
「……その色は、まさか」
「……色、ですか? 綺麗な空色の石だったと思いますが」
オシグルさんに言われ、ボクは耳からピアスを外して色を確かめる。うん、とても綺麗な、晴れた大空。そんな連想をさせる色をした石がハマっている。
「それ、少し見せて貰えないかい」
「ど、どうぞ」
素直にレイアウさんにピアスを渡す。ピアスを見つめるレイアウさん。そしてピアスは他の人に回され、最終的にオシグルさんに辿り着く。
「……アテニア」
「オシグル、これはそういうことなのでしょう。全ては、この日のために」
「…………」
「あたし、が……」
何故か、とても神妙な雰囲気になっていた。事情を呑み込めないボクを置いて会話は続いていく。
「フォトナ、分かってますね」
「はい、お母様。あたし、いえ、フォトナ・リドリーが確かに、役目を果たします」
フォトナさんがピアスを握りしめて、その瞳の空色を輝かせながら、強くうなづく。そこで、ボクは気づいた。ピアスの色と、フォトナさんの瞳の色が似ていることに。
「あの、ごめんなさい、よく分からないんですが……」
「ごめんなさいね、ノマ。ああ、勝手に呼び捨てにしてしまっているけれど、いいかしら?」
「それは構わないんですが、あの、やっぱり探すのはダメですか……?」
ダメもとでもう一度、オシグルさんに恐る恐る聞いてみる。
「……いいだろう。だが条件がある」
「え、いいんですか!ありがとうございます!」
「まず条件を聞かんか、愚か者」
「ご、ごめんなさい」
何故かは分からない。分からないけど、クラウスから貰ったピアスによって助かったのは分かった。
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繋がる空色、とても綺麗で
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