僕は神様、君は人

はんぺん

文字の大きさ
10 / 30
第1章 望まれぬ献身

『願われた日々』

しおりを挟む


「おはよう!今日も早いね、━━━」


「━━━こそ。おはよう、今日もいい天気だな」


「そうだね、森で日向ぼっこでもしようかなぁ」



 朝焼けを背景に、━━は花が咲くような笑顔を向けてきた。優しい風がふさぁ、と━━の薄茶色の髪を優しく吹き上げる。乱れた髪を右手で耳にかける仕草。

 とても穏やかな朝、ありふれた日々。長男として仕事に追われる毎日で、この朝の何気ないやり取りにどれだけ癒されているか。━━は知らないだろう。


 このやり取りをするために早起きしている事や、━━に似合いそうな髪飾りを買うためにコツコツとお金を貯めていること。知らないだろうし、教える気もない。


 幼い頃から━━の存在は特別だった。そもそも数少ない歳の近い子供だったってのもあるけれど、それ以上に何か惹き付けられるものが━━にはあった。


 最初に生まれた息子として厳しく育てられた幼少期、叱られて泣いていたら、そっと近づいてきて優しく慰めてくれたこと、その時くれた花がとても綺麗だったこと、次に出会った時に見せてくれた、花が綻ぶような笑顔。


 理由なんて沢山あった。いや、ここまでくると理由なんて無かったのかもしれない。━━に対する自分の感情。幼い頃は分からなかったけど、今ならもう分かる。





これは、『恋』なのだと。





「そろそろ行かなきゃ、また明日ね!」


「ん、また明日」


 ひらひらと手を振って、井戸の水を掬いに行く後ろ姿。なんでもない朝の出来事。また明日も、明後日も、来年も続けばいい。このまま大人になんか成らずに、終わらなければいい。そう、いつも願って別れを告げる。


 登りゆく太陽を横目に、そろそろ髪飾りの分のお金が貯まりそうだから、いつ渡そうか、なんて考える。喜んでくれるだろうか。


……きっと、似合う。髪飾りをつけて笑う━━を想像する。


 まだ、先のことなんて分からない。きっと━━とは幸せにはなれないだろうけど、そんな悪いものにはならないと思う。たとえ━━が誰と家庭を築こうとも、たとえ━━が朝の何気無いやり取りを忘れてしまっても。笑顔で、幸せにさえなってくれれば、それで構わない。なんて強がる。


誰にも言えない秘めた思いを、胸にしっかりとしまい込んで前を向く。


「そろそろ帰らないと」


顔を出し始めた太陽を背にして、重い足を動かす。

先のことなんて分からない、分からないけど、神様……。



『どうか、幸せに……』



無意識に溢れるその願いは、人知れず積み重なっていく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

勇者の様子がおかしい

しばたろう
ファンタジー
勇者は、少しおかしい。 そう思ったのは、王宮で出会ったその日からだった。 神に選ばれ、魔王討伐の旅に出た勇者マルク。 線の細い優男で、実力は確かだが、人と距離を取り、馴れ合いを嫌う奇妙な男。 だが、ある夜。 仲間のひとりは、決定的な違和感に気づいてしまう。 ――勇者は、男ではなかった。 女であることを隠し、勇者として剣を振るうマルク。 そして、その秘密を知りながら「知らないふり」を選んだ仲間。 正体を隠す者と、真実を抱え込む者。 交わらぬはずの想いを抱えたまま、旅は続いていく。 これは、 「勇者であること」と 「自分であること」のあいだで揺れる物語。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

奇跡の少女セリア〜私は別に特別ではありませんよ〜

アノマロカリス
ファンタジー
王国から遠く離れた山奥の小さな村アリカ… そこに、如何なる病でも治してしまうという奇跡の少女と呼ばれるセリアという少女が居ました。 セリアはこの村で雑貨屋を営んでおり、そこでも特に人気な商品として、ポーションが好評で… 如何なる病を治す…と大変評判な話でした。 そのポーションの効果は凄まじく、その効果は伝説のエリクサーに匹敵するという話も… そんな事から、セリアは後に聖女と言われる様になったのですが…? 実は…奇跡の少女と呼ばれるセリアには、重大な秘密がありました。

処理中です...