僕は神様、君は人

はんぺん

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第1章 望まれぬ献身

11話 重なる声

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「あの、本当によかったんですか……? 忙しかったんじゃ……」

「いいの。子供たちも外で遊びたいと言ってたし、普段厳しく育てているから、いい機会よ」


今朝、あの丘に行くためにフォトナさんを訪ねた。いつでも来ていいと言われていたけど、やっぱり本当に良いのか不安になって門の前でウロウロしてたら、家の中から人が出てきて中に通された。無事フォトナさんと行動出来る事になったけど、子供に何かを教えてたみたいで。


「それで、何処に行きたいの?」

「ここから反対側の丘なんですけど……」 
 

軽く話題を変えたフォトナさんにおそるおそる聞く。これで断られたらどうしよう、他に行くところ考えてなかった。逆にどこ行けばいいか聞くのも有りか?


「丘……あそこね、どうして?」


「えっと、あの丘からの景色、見てみたいなって。道があるってことは誰か整備してるんですよね? 」


あの丘に何かあるんじゃないか、なんて事は言えないから無難に答えてみた。


「……あそこからの景色は、とても綺麗よ。途中には花畑もあって、」


「……? あって、何ですか?」


実際に行ったことがあるのか、フォトナさんは綺麗な景色が見える断言した。だけど『花畑があって』の次に続く言葉が無かった。


「いいえ、なんでもないわ。行きましょ、あそこは遠いもの。日が暮れてしまうわ」

「あ、はい!」


ボクの質問に答えることなく、スタスタと進んでいってしまった。急いでボクも彼女の後をついていく。



2人で集落の中を歩いていると、チラチラと人々に見られてることに気づく。ダグラスも言ってたけど、ボクが人探しする許可を得たのは驚くべきことらしい。おばさんも、ボクが『フォトナさんと行動することを条件に集落の外へ出ても良い』と言われたと知った時は、目が飛びでるんじゃないかってくらい驚いていた。

ボクもまさかフォトナさんと外に出ても良いと言われるとは思ってもみなかった。勿論、魔物が出ない範囲までと言われたけど、今まで出たことがない範囲でも魔物が出ない確信はない。なのに、許可がおりた。果たしてボクが長命種って事を信頼してくれたのか。そんな訳ないと思いつつも他に理由が分からない。


好奇な目で見られながらボクたちは黙々と進み続け、昨日も会った見張り役の2人の元へたどり着く。


「お疲れ様。これから私たちは丘に向かうわ。日が暮れても帰ってこなかったら、何かあったと思って」

「そ、そんな、それなら私たちも着いていき」

「必要ないわ。あなた達に責任はとらせない、ちゃんとお父様には伝えてるわ。ノマ、行きましょ」

「え、ちょ、フォトナさん!」


またもやフォトナはスタスタと丘へ続く道へ進んでしまう。いつの間に伝えてたのか。それに『何かあったと思って』って、そんな不穏なこと言わないで、ボク責任取れませんよ!


そんなボクの心の叫びは、フォトナさんに伝わることはなかった。




 ※




「ここらへん、少し地面がぬかるんでるから気をつけて」

「あ、ありがとうございます……ふ、よっ、と」


ボクは、獣混種の体力を舐めていたことに気づく。決してそのつもりは無かったのだけど、彼女の丘を登る早さ、半端ない。ボクが登ってきた山ほど傾斜はないけど徒歩で登るのはそれなりに疲れる。そのはずなのに彼女には疲れが全く見られないし、休む様子もない。


「ん、寄り道の場所だけど、そろそろ着くわ」  
 

「や、やっと……ふぅ」


集落から見えていた、複数の丘が連なった大きな丘。それを歩き続けること数十分。でも、まだ丘の頂上は上の方だ。あの先にあるフォトナさんの言う綺麗な景色とは何なのだろう。このあと行くのだろうか。


「……ほら、下を見て」 


すこし高いところに居るフォトナさんの隣に行き、下を見下ろす。



「━━すごい」



眼下に広がる、薄桃色の花畑。丘の若緑色に縁取られたその花畑は、圧巻としか言いようがない。ところどころ黄色の花も咲いているのだろうか、薄桃色が映えるような絶妙な加減で、だけど力強くその花弁を魅せていた。


「こっちから降りれるけど、行ってみる?」

「もちろん」


なだらかな坂を下りて、花畑に近づく。ほのかな甘い香りが漂ってくきて、なんだか懐かしい気がした。ボクは気づけば早歩きになっていた。


花畑に近づくと、一つ一つの花弁を見ることができた。とても可愛らしい花。その小さな花弁を精一杯に広げて、美しく綺麗な花畑を作り上げていた。


とても、綺麗だ。ボクとフォトナさんはそっと花弁に触れた。


「この花はね、昔は薬の材料になってたの」 

「薬に? 昔ってことは、今は使われてないんですか?」

「えぇ、その病気にかかる人が出なくなったのよ」


この可愛らしい花が薬になるのか。なんだか美味しそうな薬になりそうだなって思った。


「……酷かったらしいわ。体に黒いアザが出来る病気で、この花が薬になるって気づくまでは、罹った人すべてが死んだそうよ」


「そんな恐ろしい病気にこの花が……よく見つけられましたね」


黒いアザ。そんなものが理由も分からず体に出るなんて恐ろしい。しかも死に至るなんて……それをこの可愛らしい花が治すのだから驚きだ。最初にその効果を知った人はどんな人だったのだろう。


「1人のその病気にかかった女の子に、『その花弁を食みなさい』とお告げがあったらしいの。その通りにしたらすぐにアザが消えて助かった、と伝えられてるわ」

「花弁を食む……それだけで?」

「ええ、たったそれだけ。不思議なものよね、今は花としてここにあるけれど、かつてはこの花達が薬となってたくさんの命を救ったのよ」


価値とは、分からないものだ。かつてこの花達はこれ程愛でられることは無かっただろう。この花畑のように沢山あれば圧巻だけれど、一つ一つは、家や庭に飾るには地味だ。薬となる経緯が無ければ、この花畑も存在しなかったかもしれない。

それにしても、何故ここにあるのだろうか。もっと集落の近くにあってもいいんじゃないか。


「どうして、この場所なんですか? 集落の人にも見てもらいたいなって思うんですけど」


「━━これはね、私たち、リドリー家の戒めでもあるの」


「……どういう、事ですか?」


……ここに花畑がある事が戒めって事だろうか、分からない。


「……ずっと、私が生まれるよりずっと昔の話よ。ある女の子のために命を落とした男の子が居たの。その男の子はね、この花が大好きで」


しゃがんで花を触りながら、フォトナさんは語り出す。


「最後に2人が出会ったのが、この場所。だから、女の子はここに花畑を作ったの」


「……その、男の子はどうして」


「……」


ボクの質問に答えず、フォトナさんは薄桃色の花をプチっと摘み取った。


「ねぇ、ノマ。綺麗よね、この花」


フォトナさんはそっと立ち上がり、僕に向く。



『「これ、あげる」』



「━━ぁ」



花を差し出された、その瞬間。時が止まった気がした。脳裏に浮かぶ、フォトナさんと良く似た女の子。




━━透き通る、空色の瞳。



━━風に靡く茶色の髪。



━━薄桃色の花。



━━緑の丘。



━━優しい笑顔。







━━そして、その顔に浮かぶ、黒いアザ。








『ごめんなさい』


「━━っ!」


また頭に過ぎる、誰かの声。畳み掛けるように続く、切なる声。


『約束、守れなかった』


「やく、そく……」


とても悔しくて、悲しくて。約束を守れなかった事が、許せなくて。



『一目、見たかった』



気づけばボクは涙を零していた。フォトナさんは花を差し出したまま、そんなボクを見つめていた。











日が傾き、すこし暗くなった頃、ボクらは花畑を去った。


「あの、さっきは急に泣いちゃってごめんなさい」


「いいの。私の方こそ、ごめんなさい」


ボクが落ち着くまでフォトナさんは隣にずっと、何も聞かずに居てくれた。頭を撫でられたりして、ボクの方がずっと年上のはずなのに、なんだか子供になったみたいだった。


「……花畑の他にも見せたかったものがあったんだけど、明日はどうかしら」

「あ、ボクは大丈夫です!ぜひ!」


ボクのせいで無駄に時間を食ってしまったから、予定が狂ったんだろう。また綺麗な景色とかなのだろうか。楽しみではあるけど、すこし怖い気もする。

自分の身になにが起こってるのか分からない。黒いアザの病気に罹った人も、こんな不安にかられたのだろうか。

……いや、ボクの場合は命がかかってないのだから比較するべきではないな。


「…………」


━━あの時過ぎった、誰かの笑顔。フォトナさんと似ていたけれど、黒いアザはフォトナさんには無い。


「だれ、なんだろ」


何故か、知らないといけない気がしていた。懐かしさの意味も、声の主も。


帰り道でも胸の奥がざわざわして、旅の当初の目的なんかこの時は忘れていた。







______________________________


その色は、似合わないと思った


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