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第30話(ルーパート視点)
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「ああ~……少し飲みすぎたな。屋敷に帰って、昼寝でもするか」
僕は、昼間から酒を飲むのが好きだ。
お気に入りの酒場。
外が見える、お気に入りの席。
そこに座って、あくせくと働く虫けら同然の平民どもを見ていると、くだらない労働をしなくていい自分が、高貴で、特別な人間であることを実感できて、非常に気分がいい。
なので、ついつい飲みすぎてしまった。午後は娼館にでも行くつもりだったが、こんなときは、屋敷でのんびり昼寝をするに限る。
……おや?
めずらしいな。
まだ昼過ぎなのに、兄上が王宮から帰ってきている。
名家であるイズリウム家の当主として、色々と忙しい兄上とは、最近あまり顔を合わせていない。よし、良い機会だ、ご機嫌を伺っておくとしよう。
兄上の執務室の前。
僕は「ルーパートです」と言い、二度ノックをして、ドアを開ける。
僕は、兄上が好きだ。
兄上も、末っ子の僕のことを、目に入れても痛くないほど可愛がってくれる。
幼い頃は、こうして部屋に入って来た僕を、兄上はよく抱きしめて迎えてくれたものだが、さすがに今の年齢になってそんなことをされたら、少し恥ずかしいな。そう思っていると、兄上はこちらに飛んできた。
おやおや、兄上は、本当に僕を抱きしめるつもりなのか?
気恥ずかしいが、兄上がそうしたいなら、させてあげるとしよう。
僕は兄上に向かって、微笑みかけた。
その、微笑んだ顔に、鉄拳が浴びせられる。
僕は、3メートル以上は吹っ飛び、部屋の壁に強く体を打ち付け、崩れ落ちた。
……何だ?
いったい、何が起こったんだ?
殴られた?
この僕が?
誰に?
兄上にだ。
何故?
わからない。
ああ。
ああああ。
ああああああああ。
歯が。
歯が折れている。
僕の美しい、白い前歯が。
二本も折れている!
驚きから、少し遅れて、火のような痛みがやってきて、僕は叫んだ。
「兄上! 何をするんです!? 歯が、歯が折れてしまった!」
その、僕の叫びをかき消すように、兄上は凄まじい剣幕で怒鳴った。
「黙れ! それがどうした! なんなら、残った歯も全部折ってやろうか!?」
怒鳴り声が、音の波動となって僕の体を叩く。
いつも優しい兄上の、見たこともないような激昂ぶりに、僕の身はすくみ上がり、何も言えなくなってしまった。そんな僕の代わりに、兄上は憎々しげに言葉を紡いでいく。
「ルーパート、貴様、やってくれたな……よくもやってくれたな……! くそぉっ! 馬鹿な弟ほど可愛いからと、甘やかしすぎた……しかし、まさか、これほどまでの大馬鹿者だったとは……!」
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「ああ~……少し飲みすぎたな。屋敷に帰って、昼寝でもするか」
僕は、昼間から酒を飲むのが好きだ。
お気に入りの酒場。
外が見える、お気に入りの席。
そこに座って、あくせくと働く虫けら同然の平民どもを見ていると、くだらない労働をしなくていい自分が、高貴で、特別な人間であることを実感できて、非常に気分がいい。
なので、ついつい飲みすぎてしまった。午後は娼館にでも行くつもりだったが、こんなときは、屋敷でのんびり昼寝をするに限る。
……おや?
めずらしいな。
まだ昼過ぎなのに、兄上が王宮から帰ってきている。
名家であるイズリウム家の当主として、色々と忙しい兄上とは、最近あまり顔を合わせていない。よし、良い機会だ、ご機嫌を伺っておくとしよう。
兄上の執務室の前。
僕は「ルーパートです」と言い、二度ノックをして、ドアを開ける。
僕は、兄上が好きだ。
兄上も、末っ子の僕のことを、目に入れても痛くないほど可愛がってくれる。
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気恥ずかしいが、兄上がそうしたいなら、させてあげるとしよう。
僕は兄上に向かって、微笑みかけた。
その、微笑んだ顔に、鉄拳が浴びせられる。
僕は、3メートル以上は吹っ飛び、部屋の壁に強く体を打ち付け、崩れ落ちた。
……何だ?
いったい、何が起こったんだ?
殴られた?
この僕が?
誰に?
兄上にだ。
何故?
わからない。
ああ。
ああああ。
ああああああああ。
歯が。
歯が折れている。
僕の美しい、白い前歯が。
二本も折れている!
驚きから、少し遅れて、火のような痛みがやってきて、僕は叫んだ。
「兄上! 何をするんです!? 歯が、歯が折れてしまった!」
その、僕の叫びをかき消すように、兄上は凄まじい剣幕で怒鳴った。
「黙れ! それがどうした! なんなら、残った歯も全部折ってやろうか!?」
怒鳴り声が、音の波動となって僕の体を叩く。
いつも優しい兄上の、見たこともないような激昂ぶりに、僕の身はすくみ上がり、何も言えなくなってしまった。そんな僕の代わりに、兄上は憎々しげに言葉を紡いでいく。
「ルーパート、貴様、やってくれたな……よくもやってくれたな……! くそぉっ! 馬鹿な弟ほど可愛いからと、甘やかしすぎた……しかし、まさか、これほどまでの大馬鹿者だったとは……!」
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