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第39話(ルーパート視点)
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ジョーンズはそこで、やっと僕の顔から足をどけた。
ホッとしたのもつかの間、今度は顎めがけて踵を打ち下ろしてくる。
強烈な衝撃で、意識が朦朧とした。
ぼやける視界。
酷い耳鳴り。
そんな中、ジョーンズはしゃがみ、僕の懐から何かを抜き取った。
ああ。
よせ。
やめろ。
それは兄上から貰った、大事な金貨だ。
お前などが、触れていいものではないんだぞ。
ジョーンズは丁寧に金貨の枚数を数え、ほくそ笑む。
「ルーパート坊ちゃま。実はわたくし、今日で執事を辞めようと思っているんです。しかし、先程も申し上げましたが、ケチ臭いイズリウム家からは、退職金など出ないでしょう。だから代わりに、あなたから退職金を受け取りに来たのです。まあ、金貨四枚ぽっちじゃ、これまでの苦労には、とても見合いませんけどね」
とっくの昔に数え終わったはずの金貨の枚数を、何度も数えなおしながら、ジョーンズは言葉を続ける。
「あなたのお父上、先代のイズリウム公――ブルエリック様は、それはもう、ご立派な方でした。しかし、たった一つだけ、欠点があった。……あのお方は、自身の子供たちを、あまりにも甘やかしすぎた。それ故に、現ご当主様や、あなたのような馬鹿兄弟が、一度も痛い目を見ることをなく、すくすくと育ち、この有様です」
そこで、やっと金貨の枚数を数えることに満足したのか、自分の財布へと、丁寧に一枚ずつしまっていく。
「ご当主様は先程、『これで我々は救われる』と言っていましたが、とんでもない思い違いです。たとえお取り潰しにならなくても、イズリウム家はもうおしまいですよ。現状を理解していない、あんな馬鹿が当主ではね。先代イズリウム公への敬意から、今日までお仕えしてまいりましたが、あの馬鹿息子には、このわたくしも、ほとほと愛想が尽きました」
なんだと。
どういうことだ。
イズリウム家がおしまいとは、どういうことだ。
兄上が現状を理解していないとは、どういうことだ
僕の心を読んだかのように、ジョーンズは嘆息し、こちらをじっと見て、静かに語り始める。
「ここ最近で、イズリウム家の使用人がどんどん辞めていたのを知っていますか? 知らないでしょうね。あなたは、使用人のことなど、奴隷の類似品程度にしか思っていませんから。その傍若無人な態度と、金払いの悪さに嫌気がさして、皆辞めていったのです。古くからの使用人で残っていたのは、わたくしが最後ですよ」
「…………」
「そして、あなたがアドレーラ様にした惨い仕打ちの数々は、イズリウム家を去った使用人の口から漏れ、すでに町中で噂になりつつあります。人の口に戸は立てられぬ、というやつですな。もう何もかも、詰んでいるのです。しかし、ご当主様はそれに気がついていない。散々あなたのことを愚鈍と罵った彼も、救いようがないほど愚かだ」
ホッとしたのもつかの間、今度は顎めがけて踵を打ち下ろしてくる。
強烈な衝撃で、意識が朦朧とした。
ぼやける視界。
酷い耳鳴り。
そんな中、ジョーンズはしゃがみ、僕の懐から何かを抜き取った。
ああ。
よせ。
やめろ。
それは兄上から貰った、大事な金貨だ。
お前などが、触れていいものではないんだぞ。
ジョーンズは丁寧に金貨の枚数を数え、ほくそ笑む。
「ルーパート坊ちゃま。実はわたくし、今日で執事を辞めようと思っているんです。しかし、先程も申し上げましたが、ケチ臭いイズリウム家からは、退職金など出ないでしょう。だから代わりに、あなたから退職金を受け取りに来たのです。まあ、金貨四枚ぽっちじゃ、これまでの苦労には、とても見合いませんけどね」
とっくの昔に数え終わったはずの金貨の枚数を、何度も数えなおしながら、ジョーンズは言葉を続ける。
「あなたのお父上、先代のイズリウム公――ブルエリック様は、それはもう、ご立派な方でした。しかし、たった一つだけ、欠点があった。……あのお方は、自身の子供たちを、あまりにも甘やかしすぎた。それ故に、現ご当主様や、あなたのような馬鹿兄弟が、一度も痛い目を見ることをなく、すくすくと育ち、この有様です」
そこで、やっと金貨の枚数を数えることに満足したのか、自分の財布へと、丁寧に一枚ずつしまっていく。
「ご当主様は先程、『これで我々は救われる』と言っていましたが、とんでもない思い違いです。たとえお取り潰しにならなくても、イズリウム家はもうおしまいですよ。現状を理解していない、あんな馬鹿が当主ではね。先代イズリウム公への敬意から、今日までお仕えしてまいりましたが、あの馬鹿息子には、このわたくしも、ほとほと愛想が尽きました」
なんだと。
どういうことだ。
イズリウム家がおしまいとは、どういうことだ。
兄上が現状を理解していないとは、どういうことだ
僕の心を読んだかのように、ジョーンズは嘆息し、こちらをじっと見て、静かに語り始める。
「ここ最近で、イズリウム家の使用人がどんどん辞めていたのを知っていますか? 知らないでしょうね。あなたは、使用人のことなど、奴隷の類似品程度にしか思っていませんから。その傍若無人な態度と、金払いの悪さに嫌気がさして、皆辞めていったのです。古くからの使用人で残っていたのは、わたくしが最後ですよ」
「…………」
「そして、あなたがアドレーラ様にした惨い仕打ちの数々は、イズリウム家を去った使用人の口から漏れ、すでに町中で噂になりつつあります。人の口に戸は立てられぬ、というやつですな。もう何もかも、詰んでいるのです。しかし、ご当主様はそれに気がついていない。散々あなたのことを愚鈍と罵った彼も、救いようがないほど愚かだ」
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