身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました【完結】

小平ニコ

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第40話(ルーパート視点)

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 そんな……
 イズリウム家が、もうおしまいだなんて。

 今は追放されていても、心の底では僕を愛してくれているであろう兄上のことだ、僕の生活を支援し、そして、いつかは貴族の身分に戻してくれると、期待していたのに。

 イズリウム家そのものが没落してしまったら、もう何もかも、どうしようもないじゃないか……

「因果応報というやつですよ。あなたがアドレーラ様に良からぬことをおこなっているのを、ご当主様は薄々感づいていながらも、見て見ぬふりをした。その報いです。……そして、それはわたくしも同じこと、何度諫めても、そのたびに罵られ、暴力を振るわれるので、いつしかわたくしは、目をつむり、耳を塞ぎ、心を閉じました。それが間違っていると分かっていながら」

 ジョーンズは、深い深いため息を漏らし、僕に背を向けた。

「虐待を知りながら止めることのできなかった、情けない老執事の噂も、すぐに広まるに違いありません。わたくしは、執事という仕事に誇りを持っていましたが、もう、どこにもわたくしを雇ってくれる人などいないでしょう」

 こつ、こつと足音がする。
 遠ざかっていく。
 ジョーンズは、ここを出ていくようだ。

「これからは、どこかの山奥にでも隠れ住んで、誰とも会わず、世捨て人として惨めな余生を送ります。色々、できることはあったはずなのに、耳を塞ぎ、アドレーラ様の悲痛な叫びから心を背けたわたくしには、お似合いの末路です」

 そして、ジョーンズの気配は消え去った。
 まるで、ジョーンズという人間そのものが、この世から消えてしまったようだった。





 手持ちの金がまったくなくなってしまったことで、役所での市民登録は、できなくなってしまった。……そして、兄上が言っていた、『市民登録をしなければ、この国では人間として扱ってもらえない』という言葉の意味を、心から思い知った。

 僕はこれまで平民のことを散々馬鹿にしてきたが、この国において『平民』という立場は、決して馬鹿にされるようなものではなく、しっかりとした国税を払い、きちんとした出自証明がなされた、『高等市民』とでも言うべき存在だったのだ。

 だから、平民であるというだけで、国内の様々な公共施設を利用できるし、手厚い福祉サービスも受けられる。何の身分保障もされていない奴隷や不法移民と違い、平民とは、一種の特権階級なのだと、今更ながらに、僕は知った。

 今の僕は、奴隷や、不法移民とどっこいの立場だ。

 いや、違う。
 僕は、それ以下の存在だ。

 奴隷は、主人の庇護を受けている。

 昔は、酷い主人も多かったようだが、最近では法律で、不当な理由で奴隷をいたぶることは禁止されており、なんだかんだで、奴隷も身の安全と衣食住が保証され、それなりに良い生活を送っている。

 僕は違う。

 僕にはもう、衣も、食も、住も、何の保証もない。
 もちろん、身の安全も保障されていない。
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