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第5話
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やがて、それなりの深さの穴が完成したので、そこに西島の遺体をゆっくりと横たえる。土をかけながら、ふと、脳裏に先程のアキラの言葉がよぎった。
『日本人は土葬より火葬の方が向いてるだろ?』
あるいはそうかもしれない。アキラに頭を下げてでも、遺体を灰にしてもらった方が、西島の魂は安らかに眠ることができたのだろうか?
いや、違う。
アキラは西島の遺体を『ゴミ』呼ばわりした。
そんな奴に火葬されて、魂が安らぐわけがない。
俺は、埋めた土の上に、墓石の代わりとでもいうべき大きな石を置いて、手を合わせた。その時、背後からカラカラと、空っぽのプラスチック箱を転がしたような音がした。
どことなくユーモラスな音だ。
俺はさほど緊張することもなく振り返る。
一瞬で、血の気が引いた。
目の前に、人骨が立っていたからだ。
それも、大きい。
昔、生物の授業で見た骨格標本より二回り以上大きい。たぶん、この人骨にしっかりと肉がつけば、身長180cmのがっしりとした体格になるのだろう。
いや、そんなことをのんきに考えている場合じゃない。
歩く人骨はカラカラという音をたてながら、ゆっくりこちらに向かってくる。……しかもその手には、細身の短剣が握られていた。
短剣を握り、こちらに向かって来る人骨――
物言わぬ彼ではあるが、どう見ても、『友達になろうよ』と主張しているようには見えない。いや、もしかしたら、俺を殺し、肉を剥いで骨にしてから、友達になろうと思っているのかもしれないが。
とにかく、逃げなければ。
足にはそこそこ自信がある。
本気で走れば、ゆっくり歩く骨なんかに、追いつかれるはずがない。
そう思い、駆けだそうとすると、歩く人骨もいきなり走り出した。
速い。
かなり速い。
歩く人骨改め走る人骨は、ガシャガシャと骨を鳴らし、こちらに迫って来る。いや、本当に速いよこいつ。たとえ俺が陸上部でも、こんなのからは逃げ切れない。
どうする?
逃げられないなら、どうする?
どうしようもない。
俺には戦闘能力はなく、逃げることもできない。
骨と意思疎通ができるはずもなく、交渉も哀願も無意味だ。
つまり、詰みである。
終わった――
結局、アキラの言う通りだった。
『召喚された人間の内、平凡なスキルしか持ってない連中のほとんどは、一ヶ月経たずに死んじまうそうだ。死ぬのが早いか遅いか、それだけの話だよ』
あいつ、嫌な顔でそう言ってたっけ。
ちくしょう。
悔しいな。
でもこれで、怪物だらけの世界を右往左往しなくて済む。
遅かれ早かれ死ぬのなら、早い方が苦しみが少なくていいかもしれない。
走る人骨が、目の前に迫る。
俺はこいつに殺されるのか。
ああ……
それは……
嫌だな。
そう思った瞬間、手のひらに光が集まっていく。
集まった光はグンッと伸び、1メートルほどの光の剣となった。
驚きより前に、失笑がわく。
ああ、これが例の『ゾンビが切れる剣』ね。
なかなかカッコいいけど、今目の前にいるの、ゾンビじゃないんだよなあ。
まあそれでも、何の抵抗もせずにやられるよりはいいか。
俺は走る人骨に対して、光の剣を振り下ろした。人骨の持つ短剣よりは、1メートルもの長さがある光の剣の方が、圧倒的にリーチが長い。剣道の心得のない俺でも、軽々と先制攻撃を当てることができた。……と言っても、これは『ゾンビが切れる剣』なので、攻撃が成功したところで何の意味もないだろうが。
『日本人は土葬より火葬の方が向いてるだろ?』
あるいはそうかもしれない。アキラに頭を下げてでも、遺体を灰にしてもらった方が、西島の魂は安らかに眠ることができたのだろうか?
いや、違う。
アキラは西島の遺体を『ゴミ』呼ばわりした。
そんな奴に火葬されて、魂が安らぐわけがない。
俺は、埋めた土の上に、墓石の代わりとでもいうべき大きな石を置いて、手を合わせた。その時、背後からカラカラと、空っぽのプラスチック箱を転がしたような音がした。
どことなくユーモラスな音だ。
俺はさほど緊張することもなく振り返る。
一瞬で、血の気が引いた。
目の前に、人骨が立っていたからだ。
それも、大きい。
昔、生物の授業で見た骨格標本より二回り以上大きい。たぶん、この人骨にしっかりと肉がつけば、身長180cmのがっしりとした体格になるのだろう。
いや、そんなことをのんきに考えている場合じゃない。
歩く人骨はカラカラという音をたてながら、ゆっくりこちらに向かってくる。……しかもその手には、細身の短剣が握られていた。
短剣を握り、こちらに向かって来る人骨――
物言わぬ彼ではあるが、どう見ても、『友達になろうよ』と主張しているようには見えない。いや、もしかしたら、俺を殺し、肉を剥いで骨にしてから、友達になろうと思っているのかもしれないが。
とにかく、逃げなければ。
足にはそこそこ自信がある。
本気で走れば、ゆっくり歩く骨なんかに、追いつかれるはずがない。
そう思い、駆けだそうとすると、歩く人骨もいきなり走り出した。
速い。
かなり速い。
歩く人骨改め走る人骨は、ガシャガシャと骨を鳴らし、こちらに迫って来る。いや、本当に速いよこいつ。たとえ俺が陸上部でも、こんなのからは逃げ切れない。
どうする?
逃げられないなら、どうする?
どうしようもない。
俺には戦闘能力はなく、逃げることもできない。
骨と意思疎通ができるはずもなく、交渉も哀願も無意味だ。
つまり、詰みである。
終わった――
結局、アキラの言う通りだった。
『召喚された人間の内、平凡なスキルしか持ってない連中のほとんどは、一ヶ月経たずに死んじまうそうだ。死ぬのが早いか遅いか、それだけの話だよ』
あいつ、嫌な顔でそう言ってたっけ。
ちくしょう。
悔しいな。
でもこれで、怪物だらけの世界を右往左往しなくて済む。
遅かれ早かれ死ぬのなら、早い方が苦しみが少なくていいかもしれない。
走る人骨が、目の前に迫る。
俺はこいつに殺されるのか。
ああ……
それは……
嫌だな。
そう思った瞬間、手のひらに光が集まっていく。
集まった光はグンッと伸び、1メートルほどの光の剣となった。
驚きより前に、失笑がわく。
ああ、これが例の『ゾンビが切れる剣』ね。
なかなかカッコいいけど、今目の前にいるの、ゾンビじゃないんだよなあ。
まあそれでも、何の抵抗もせずにやられるよりはいいか。
俺は走る人骨に対して、光の剣を振り下ろした。人骨の持つ短剣よりは、1メートルもの長さがある光の剣の方が、圧倒的にリーチが長い。剣道の心得のない俺でも、軽々と先制攻撃を当てることができた。……と言っても、これは『ゾンビが切れる剣』なので、攻撃が成功したところで何の意味もないだろうが。
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