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第52話

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 そして、立体映像の老人は語り始めた。

「むー、むむー、むー、むむむむー、むーむむー」

 な、何言ってるかわかんねえ……

 モールス信号的な暗号文か?
 ああもう、面倒だなあ。普通に喋ってよ。

 そう思って眉を顰める俺と違い、ルイーズは真剣に耳を傾けている。
 俺は老人とルイーズを交互に見るようにして問いかけた。

「ルイーズ、もしかして、この『むーむー語』が理解できるのか?」

「ええ。これは、意味のない単音に魔力で意思を乗せる、古代の伝文術よ。昔勉強したから、私なら解読できるわ」

 うーむ……
 いつもながら頼もしい女だ……

 そしてルイーズは、老人の言葉を同時通訳し始めた。

「ごきげんよう。生者の滅亡まであと123日の世界を生きる者よ。私の姿が見えているということは、世界が終わる光景もすでに見たのだね。あの光景は、これから確実に起こる未来のできごとである。……しかし未来とは、大河を流れる葉のごとく揺れ動き、確実なものは何ひとつない」

「えぇ……なんか、矛盾してない? 『確実に起こる』って言ってるのに、『確実なものは何ひとつない』って……禅問答じゃないんだからさあ……」

「シッ、黙って。古代の伝文術の解読は難しいから、集中力が切れるとメッセージを読み取れなくなるわ」

「失礼しました。黙ります」

 俺はもう、茶々を入れるのはやめにした。
 ルイーズは淡々と老人の言葉を読み取り、口に出していく。

「すでに決定された未来を人の手で変えることは容易ではない。大河に石を投げ込んでも、流れが変わらないのと同じだ。……だが石を投げ込むことで、流れゆく『葉』の方向くらいは変えることができるかもしれない。私はそれを試してみたくなった」

 なんか、抽象的な言い方だなあ……
 もっとハッキリ言ってくんないかなあ……

 と思ったが、ルイーズの邪魔をしないために、もちろん黙っている。

「私の伝文術を読み取ることができるのは、高度な知識と魔術才能の持ち主だ。つまり、今私の言葉を聞いているきみは、凡人ではない。きみには『葉』の方向を変える『石』となり得る力がある。しかもきみは、どうやったのかはわからないが、私の用意した生ける屍を消滅させた。これは、非常に重要なことだ」

 生ける屍……ああ、スケルトンのことね。この爺さん、いきなりあんなのを出現させて、せっかくやって来た『高度な知識と魔術才能の持ち主』が死んじまったらどうするつもりだったんだ。

 と思ったが、もちろん俺は黙り続けている。
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