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第15話(ジョセフ視点)
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……その嵐の日から二年がたち、今では僕も、すっかり炭鉱夫が板についた。
さあ、うちに帰ろう。
鉱山労働は、毎日が戦争だ。
明日も忙しくなる。しっかり食事をして、よく眠らないとな。
・
・
・
「うわ、今日もまた、酷い顔ね。せめて、汚れくらい洗い落として帰って来なさいよ、みっともない」
家に帰った僕を見て、パメラは眉を顰め、そう言った。
……パメラは今、僕、そして、僕の母上と一緒に、この家に住んでいる。断っておくが、僕は彼女と結婚しているわけではない。分かりやすい言い方をするなら、パメラは居候である。
パメラの家には借金があり、二年前にとうとう、どんなに頑張ってもお金のやりくりができなくなり、財産のすべてを差し押さえられてしまったのだ。パメラの父と母は、パメラを置いて失踪した。……それで、頼る相手が誰もいなくなったパメラは、うちに転がり込んだというわけである。
僕は、パメラの言葉に、何も言葉を返さなかった。
前から図々しい女ではあったが、それでも今よりは、ずっと可愛げがあった。だが、最近のパメラの増長ぶりは、とどまるところを知らず、言うことも、やることも、毒々しいまでの傲慢さと悪意で満ち溢れている。……労働で疲れきった今の僕には、こんな奴の相手をする気力は残っていなかった。
母上が、ゆっくりとこちらにやって来て、濡れタオルを手渡してくれる。
これで、顔を拭けと言うことだろう。
「ありがとう、母上」
僕はタオルを受け取り、汚れた顔をゴシゴシと拭う。
ひんやりとした感触が、とても心地よい。
そんな僕の耳に、母上の呪いの言葉が響いてくる。
「ジョセフや……あの寄生虫……いつまでここに住まわせておくつもりだい……」
まるで、地獄の底から溢れ出たかのような、低い声だった。
……『あの寄生虫』とは、パメラのことだ。
まだ僕たちが貴族だった時代から、母上は、パメラのことがあまり好きではなかった。
それでも、昔は母上の心にも余裕があったし、我が家には、パメラを無下にはできない『ある事情』があったので、ずっとパメラのことを許してきた。しかし、今の母上には、以前のようなおおらかさはない。その瞳には、パメラに対する、強烈な憎しみを感じる。このままでは、近いうちに、ひと悶着起きてしまうだろう。
……ここで、パメラを無下にはできない『ある事情』について、語っておこう。
パメラの家は、元々はうちと同じ、最下級の貴族だった。
この国の貴族で最も多いのは、中級の貴族。次に多いのが、上級の貴族。……平民すれすれの最下級貴族は数が少ないので、自然とパメラの家と僕の家は親密になり、家族ぐるみの付き合いをしていた。僕とパメラの関係は、その頃から始まったのだ。
さあ、うちに帰ろう。
鉱山労働は、毎日が戦争だ。
明日も忙しくなる。しっかり食事をして、よく眠らないとな。
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「うわ、今日もまた、酷い顔ね。せめて、汚れくらい洗い落として帰って来なさいよ、みっともない」
家に帰った僕を見て、パメラは眉を顰め、そう言った。
……パメラは今、僕、そして、僕の母上と一緒に、この家に住んでいる。断っておくが、僕は彼女と結婚しているわけではない。分かりやすい言い方をするなら、パメラは居候である。
パメラの家には借金があり、二年前にとうとう、どんなに頑張ってもお金のやりくりができなくなり、財産のすべてを差し押さえられてしまったのだ。パメラの父と母は、パメラを置いて失踪した。……それで、頼る相手が誰もいなくなったパメラは、うちに転がり込んだというわけである。
僕は、パメラの言葉に、何も言葉を返さなかった。
前から図々しい女ではあったが、それでも今よりは、ずっと可愛げがあった。だが、最近のパメラの増長ぶりは、とどまるところを知らず、言うことも、やることも、毒々しいまでの傲慢さと悪意で満ち溢れている。……労働で疲れきった今の僕には、こんな奴の相手をする気力は残っていなかった。
母上が、ゆっくりとこちらにやって来て、濡れタオルを手渡してくれる。
これで、顔を拭けと言うことだろう。
「ありがとう、母上」
僕はタオルを受け取り、汚れた顔をゴシゴシと拭う。
ひんやりとした感触が、とても心地よい。
そんな僕の耳に、母上の呪いの言葉が響いてくる。
「ジョセフや……あの寄生虫……いつまでここに住まわせておくつもりだい……」
まるで、地獄の底から溢れ出たかのような、低い声だった。
……『あの寄生虫』とは、パメラのことだ。
まだ僕たちが貴族だった時代から、母上は、パメラのことがあまり好きではなかった。
それでも、昔は母上の心にも余裕があったし、我が家には、パメラを無下にはできない『ある事情』があったので、ずっとパメラのことを許してきた。しかし、今の母上には、以前のようなおおらかさはない。その瞳には、パメラに対する、強烈な憎しみを感じる。このままでは、近いうちに、ひと悶着起きてしまうだろう。
……ここで、パメラを無下にはできない『ある事情』について、語っておこう。
パメラの家は、元々はうちと同じ、最下級の貴族だった。
この国の貴族で最も多いのは、中級の貴族。次に多いのが、上級の貴族。……平民すれすれの最下級貴族は数が少ないので、自然とパメラの家と僕の家は親密になり、家族ぐるみの付き合いをしていた。僕とパメラの関係は、その頃から始まったのだ。
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