「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ

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第4話

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 私は、知っていた。

 国民たちが私のことを、表面上は『聖女様』と言って崇めているが、陰で色々と悪口を囁き合っていることを。……その悪口は、私が追放される今、一気に顕在化し、彼らは無遠慮に私を指さし、嘲った。

『おい、聖女が出ていくぞ』

『やったな、これで、自由に国の外に出られる』

『よかったわ。今まで、窮屈な暮らしだったものねぇ』

『見ろよ、あのしょぼくれた顔、石でも投げてやるか』

『無駄だよ、どうせあの鬱陶しい結界で、防がれちまうさ、あはは』

 男も女も、老いも若きも。
 ……小さな子供でさえも、そんなことを言い合い、笑っていた。

 そこで初めて、怒りや悔しさより、悲しみと寂しさが、私の心に溢れた。……王族に軽んじられ、国民から陰口をたたかれても、今まで、みんなのためにと頑張ってきたのに、その結果がこれか。

 失意――

 これを、失意というのだろう。

 涙がこぼれそうになったが、私は必死に、それをこらえた。
 追放される、惨めで哀れな聖女の、最後のプライドだった。





 バグマルス王国を追放されてから、半年後。

 私は今、隣国の小さな宿屋にて、住み込みで働いている。

 別に、宿屋で働きたかったわけではない。住み込みで働ける場所を探していて、たまたまこの宿屋が人手を募集していた……それだけのことだ。

 もともと孤児であった私には、帰る家もなく、出生地すら定かではない。当然、頼れるような親戚もいない。だから、自分一人の力で、生きていかなければならない。

 聖女とはいえ、体力は人並みだ。力を使うことが多い宿屋仕事を覚えるのは、とても大変だった。しかし、さすがに半年も働けば、力もついたし、仕事の要領も良くなる。……私にとって、もっとも困難だったのは、力仕事なんかより、接客の方だった。

 バグマルス王国の人間たちに受けた冷たい仕打ちにより、ちょっとした人間不信に陥っていた私は、愛想笑いを浮かべることができなくなっていた。

 宿のお客と接する際、笑わなければいけないと頭では分かっていても、どうしても、顔が笑顔にならない。それどころか、鏡に映った私の顔は、睨むようですらある。

 ……それはまるで、いじめられて捨てられた、犬のようだった。『もう二度といじめられてたまるか』と、必死に自分を守ろうとしているかのような、痛々しい顔。もしも人手不足でなかったら、愛想の悪い私なんて、簡単にクビにされていただろう。

 しかし、どうにか職を失うこともなく、今日も私は、必死に生きている。

 誰にも頼らず。
 誰にも甘えず。

 心の中に、他人をすべて拒絶するような、高い高い壁を作って。
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