追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ

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第50話

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 午後の二時を回ったところで、私とリーゼルは一旦話を中断し、カフェを出た。近くのテーブルに団体さんがやって来て、一気に騒々しくなり、大事な話をする雰囲気ではなくなってしまったからだ。

 なんとなく、すぐに話を再開する空気にもならず、私とリーゼルは無言で昼下がりの路地を歩く。沈黙のまま、三分間ほどが経った頃、リーゼルは何かを思い出したかのように口を開いた。

「……おっと、もうこんな時間か。話の途中ですまないが、俺はこれから、もう一度スリに行ってくる」

「また? 同じところで何度もスリをしてたら、目立つから良くないと思うんだけど……」

「ご心配なく、もちろん場所は変えるよ。何せ、でかい町だからな。さっきの繁華街の他にも、人通りの多いところはいくらでもある。そうだな……今日は少し足を延ばして、町の反対側にでも行ってみるか」

 言いながらリーゼルは、ぴょんぴょんと、軽く二回ジャンプする。その表情からは、みなぎるようなやる気が感じられる。耳を澄ますと、リーゼルが小声で「あと少し」「あと少し」と呟いているのが分かった。

 だから私は、尋ねた。

「やる気満々ね。……ねえ、何が『あと少し』なの?」

 リーゼルは足を前後に開き、アキレス腱を伸ばしながら、答える。

「この、馬鹿げたスリ生活がさ。俺は本当は、人の物を盗むのなんて大っ嫌いなんだ。わけあって、もう半年近く『至高なる魔女の会』を狙ってスリを続けてるが、いい加減うんざりだぜ」

 本当に『うんざり』という感じで、顔をしかめるリーゼル。
 そこでストレッチが完了したのか、リーゼルは私に向き直り、言葉を続ける。

「さて、と。ここからは別行動をとろう。あんたも、そう何度もスリの現場を見たいとは思わないだろう? あんたはあんたで、自由な時間を過ごしてくれ。この町はでかいからな、森で育ったあんたにとっちゃ、めずらしいものが色々とある。あちこち見て回れば、そこそこは楽しめると思うよ。……そうだ、これ、渡しとくよ」

 渡されたのは、小さな鍵だった。

「これは?」

「俺の家の鍵だ。この鍵を使って自由に出入りして、くつろいでくれ。俺がおつとめを済ませて家に戻るのは夕方ごろになるからな。それまであんたを、外で待ちぼうけさせておくってわけにもいかないだろう?」

「いいの? つき合いの浅い、信頼できるかどうかも分からない女に、家の鍵なんか渡しちゃって」

「信頼してなかったら、さっきみたいに大事な話を打ち明けたりしないよ。あんた、言ってたろ? 『友情に時間は関係ない』って。信頼関係も同じさ。つき合いがどんなに長くても、信頼できない奴は、信頼できないからね」
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