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第109話(リーゼル視点)

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「今さらじゃない?」

「えっ?」

「この半年間……ううん、この数年間、姉さんは忙しくて忙しくて忙しくて、私のことなんか、気にもしなかったくせに。ううん、気にしないどころか、煩わしい虫でも追い払うような態度で、いつも私を避けてたくせに。他に家族がいなくなったからって、今さら面倒見の良いお姉さんを気取るのは、調子がよすぎるんじゃないかって言ってるのよ」

 俺は、黙った。フェルヴァの言っていることは真実であり、何も言い返すことができなかったからだ。……黙ってしまった俺に、フェルヴァはさらに残酷な現実を突きつけた。

「ねえ、姉さん。私、何度か相談したわよね。『どうしても聞いてもらいたいことがあるの』って。それっていったい、どんなことだったと思う?」

「ごめんなさい。わからないわ……」

「あいつのことよ。あいつのやってた、最低なこと。私、知ってたのよ。私、あいつが怖かった。誰に話しても、私が話したってあいつにバレそうで、凄く怖かった。だから、世界で一番信頼している姉さんに相談しようと思ったのよ。姉さんは私の話なんて、聞いてくれなかったけどね」

「あいつ? あいつって、誰?」

「私たちの『お父様』よ。外面だけは立派な人物を装って、裏ではか弱い存在を玩具にして弄んでいた、最低のゴミ野郎。……もう一度言うわね。私、あいつのやってたけがらわしいこと、全部知ってたの。ぜ~んぶね」

 本当に、頭をハンマーか何かで殴られたみたいなショックを、俺は受けた。フェルヴァは偶然か何かで、親父のやっていたことを知ってしまい、誰に相談していいか分からず、悩みに悩んで、俺に、俺だけに、秘密を打ち明けようとしていたのだ。

 それなのに俺は、自分の人生に夢中で、フェルヴァの話を聞くどころか、まともに相手すらしなかった。……実の父親の信じられないような秘密を知り、姉にも冷たくあしらわれ、たった一人で悩み続けたフェルヴァは、どれだけ苦しかったことだろう。

 最低なのは、親父だけじゃない。
 俺も、最低の姉だ。

 俺は後悔の涙を流し、フェルヴァの前で土下座した。

「ごめんなさい、フェルヴァ。私、忙しさを言い訳にして、あなたとちゃんと向き合わなかった……その態度が、あなたをたくさん傷つけたのね……ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
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