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第77話
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ちなみに、私はかつて聖女として、自分の住んでいた国を守るために広大な結界を張り続けていたが、あれは『環境的な要素と特殊な条件』が重なっていたからできたことであり、ハッキリ言って、今同じことをやれと言われても無理だ。……その『環境的な要素と特殊な条件』については、いつか詳しく語ろう。
さて、必殺の同時攻撃が防がれたことで、ゴブリンたちは口々に「ぐぇぐぇ」と困惑の声を漏らしたが、慌てふためいて逃げることもなく、はじき飛ばされた小刀を拾ったり、仲間の体に刺さった小刀も抜いて、第二射を放つ準備を整えている。
その鉄の意思には敬服するが、第二射が放たれることは、永久になかった。ゴブリンたちが投擲を開始できる姿勢を取る前に、私とエリスの拳が、彼らの頭を砕いたからだ。
よし、これで入り口の前哨部隊と合わせて27匹撃破。エリスの話では、『ゴブリンは一つの巣に30匹以上いる』とのことだが、流石にこれで、半分以上はやっつけただろう。あと少しで、洞窟の中のゴブリンを全部討伐できるわね。
そんなことを思っていると、あるものが目に入った。
頭のなくなったゴブリンの死体――その足が、ピクピクと痙攣している。
……なにこれ?
死後の痙攣にしては長すぎるし、奇妙な律動だ。
訝しむ私に、エリスが答えを教えてくれる。
「これは、先ほどお師匠様がはじき返した小刀が刺さった足ですね。きっと、小刀に強力な痺れ薬が塗られていたのでしょう。その作用で、死んだ後も、筋肉が痙攣しているんだと思います」
「はぁー、なるほどね。でも、侵入者を殺したいなら、痺れ薬なんかじゃなくて、もっと強力な毒を塗っておけばいいのに。今だって、足を狙わずに全身に小刀を投げつけたほうが、より効果的な攻撃になったわよね? なんでそうしなかったのかしら?」
私の無垢な問いに、エリスはちょっとだけ困ったような顔になったものの、丁寧に答える。
「洞窟の入り口でも、ゴブリンたちが『おんなおんな』と騒いでいましたが、ゴブリンたちは多種族の女を生け捕りにし、強制的に繁殖行動をおこないます。だから侵入者が女性の場合、殺さないように足や腕を狙って攻撃してくるんです。それも、用意周到に、痺れ薬まで使って」
「げぇっ……最っ低……」
ただでさえ嫌なにおいで気分が悪いのに、思わず不愉快な想像をしてしまい、私は少々吐き気を催した。
「お師匠様を狙ったクロスボウの矢も、肩のあたりに向かって飛んで来たでしょう? あれは、致命傷を与えずに、お師匠様を生け捕りにするつもりだったんだと思います。ふふ、まさかあのゴブリンも、放った矢がそのままの勢いで自分に戻って来るとは、夢にも思っていなかったでしょうけどね」
さて、必殺の同時攻撃が防がれたことで、ゴブリンたちは口々に「ぐぇぐぇ」と困惑の声を漏らしたが、慌てふためいて逃げることもなく、はじき飛ばされた小刀を拾ったり、仲間の体に刺さった小刀も抜いて、第二射を放つ準備を整えている。
その鉄の意思には敬服するが、第二射が放たれることは、永久になかった。ゴブリンたちが投擲を開始できる姿勢を取る前に、私とエリスの拳が、彼らの頭を砕いたからだ。
よし、これで入り口の前哨部隊と合わせて27匹撃破。エリスの話では、『ゴブリンは一つの巣に30匹以上いる』とのことだが、流石にこれで、半分以上はやっつけただろう。あと少しで、洞窟の中のゴブリンを全部討伐できるわね。
そんなことを思っていると、あるものが目に入った。
頭のなくなったゴブリンの死体――その足が、ピクピクと痙攣している。
……なにこれ?
死後の痙攣にしては長すぎるし、奇妙な律動だ。
訝しむ私に、エリスが答えを教えてくれる。
「これは、先ほどお師匠様がはじき返した小刀が刺さった足ですね。きっと、小刀に強力な痺れ薬が塗られていたのでしょう。その作用で、死んだ後も、筋肉が痙攣しているんだと思います」
「はぁー、なるほどね。でも、侵入者を殺したいなら、痺れ薬なんかじゃなくて、もっと強力な毒を塗っておけばいいのに。今だって、足を狙わずに全身に小刀を投げつけたほうが、より効果的な攻撃になったわよね? なんでそうしなかったのかしら?」
私の無垢な問いに、エリスはちょっとだけ困ったような顔になったものの、丁寧に答える。
「洞窟の入り口でも、ゴブリンたちが『おんなおんな』と騒いでいましたが、ゴブリンたちは多種族の女を生け捕りにし、強制的に繁殖行動をおこないます。だから侵入者が女性の場合、殺さないように足や腕を狙って攻撃してくるんです。それも、用意周到に、痺れ薬まで使って」
「げぇっ……最っ低……」
ただでさえ嫌なにおいで気分が悪いのに、思わず不愉快な想像をしてしまい、私は少々吐き気を催した。
「お師匠様を狙ったクロスボウの矢も、肩のあたりに向かって飛んで来たでしょう? あれは、致命傷を与えずに、お師匠様を生け捕りにするつもりだったんだと思います。ふふ、まさかあのゴブリンも、放った矢がそのままの勢いで自分に戻って来るとは、夢にも思っていなかったでしょうけどね」
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