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第147話(ユーゲンス視点)
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そんなワシの内心も知らずに、ノッドルは語り続ける。
その顔は、残酷なほどに陽気で、楽しげだった。
「そうだ。そんなに血のつながりのある後継ぎが欲しかったら、親父が頑張って子供を作ったらどうだ? 『魔闘身』を使ってあっちの方をシャキッとさせれば、まだなんとかなるんじゃねぇか? ははは」
くだらない冗談だった。
そして、笑えない冗談だった。
ワシがこれほど、正当なる血脈に『秘拳』を伝えていくことに苦慮し、それが叶わぬことと知った今、深い絶望の中にいるというのに、こいつは、それが分かっていない。分かろうともしていない。
瞬間、爆発にも似た激しい怒りが、ワシの心を覆った。
憎い。
こいつが憎い。
血液が沸騰するほど憎い。
そこでワシは、理性を失った。
気がつけばワシは、ノッドルと戦っていた。
どうやらワシの方から、奴に果し合いを仕掛けたらしい。
ノッドルは、強かった。
ワシよりも、強かった。
当たり前だ。
エルフとして、中年期の前半であるノッドルは、筋力・体力共に、若者には及ばないものの、まだまだ充実しており、老いぼれたワシの身体能力とは、比較にもならない。
悔しかった。
かつて、『エルフ式魔術ボクシング』最強のチャンピオンと呼ばれたこのワシが全盛期の頃なら、こんな奴、一分もあれば倒せるのに。……年を取り、体力も、技のキレもなくなり、そして、伝統ある形で子孫に『秘拳』を残していくこともできない自分が、惨めでたまらない。
ノッドルは、ワシを大怪我させないように、加減して戦っている。その余裕が、許せない。悔しくて悔しくて、気が狂いそうになる。練り上げた『魔闘身』を使うことで、なんとか戦いになっているが、ワシが負けるのは時間の問題だった。
しかし、ワシは勝ちたかった。
何もわかっていない愚かな息子を、叩きのめしてやりたかった。
この拳で。
人生のすべてをかけて鍛え上げてきた、必殺の拳で。
やめろ、ノッドル。
そんな、哀れなものを見るような目で、ワシを見るな。
血で血を洗うような死闘の最中、ワシはなんと、『秘拳』を使っていた。
我がルセイン家の『秘拳』は、相手を殺すための、まさしく『必殺の拳』だ。
ノッドルは、『秘拳』を使わなかった。
それで、決着がついた。
無残な姿となり果てた息子の亡骸を見下ろし、ワシは、少しだけスッとした。
同時に、深い後悔の念が、老いた体を毒のように蝕んでいく。
その日一日、ずっと強かった風が収まり、代わりに、冷たい雨が降っていた。
その顔は、残酷なほどに陽気で、楽しげだった。
「そうだ。そんなに血のつながりのある後継ぎが欲しかったら、親父が頑張って子供を作ったらどうだ? 『魔闘身』を使ってあっちの方をシャキッとさせれば、まだなんとかなるんじゃねぇか? ははは」
くだらない冗談だった。
そして、笑えない冗談だった。
ワシがこれほど、正当なる血脈に『秘拳』を伝えていくことに苦慮し、それが叶わぬことと知った今、深い絶望の中にいるというのに、こいつは、それが分かっていない。分かろうともしていない。
瞬間、爆発にも似た激しい怒りが、ワシの心を覆った。
憎い。
こいつが憎い。
血液が沸騰するほど憎い。
そこでワシは、理性を失った。
気がつけばワシは、ノッドルと戦っていた。
どうやらワシの方から、奴に果し合いを仕掛けたらしい。
ノッドルは、強かった。
ワシよりも、強かった。
当たり前だ。
エルフとして、中年期の前半であるノッドルは、筋力・体力共に、若者には及ばないものの、まだまだ充実しており、老いぼれたワシの身体能力とは、比較にもならない。
悔しかった。
かつて、『エルフ式魔術ボクシング』最強のチャンピオンと呼ばれたこのワシが全盛期の頃なら、こんな奴、一分もあれば倒せるのに。……年を取り、体力も、技のキレもなくなり、そして、伝統ある形で子孫に『秘拳』を残していくこともできない自分が、惨めでたまらない。
ノッドルは、ワシを大怪我させないように、加減して戦っている。その余裕が、許せない。悔しくて悔しくて、気が狂いそうになる。練り上げた『魔闘身』を使うことで、なんとか戦いになっているが、ワシが負けるのは時間の問題だった。
しかし、ワシは勝ちたかった。
何もわかっていない愚かな息子を、叩きのめしてやりたかった。
この拳で。
人生のすべてをかけて鍛え上げてきた、必殺の拳で。
やめろ、ノッドル。
そんな、哀れなものを見るような目で、ワシを見るな。
血で血を洗うような死闘の最中、ワシはなんと、『秘拳』を使っていた。
我がルセイン家の『秘拳』は、相手を殺すための、まさしく『必殺の拳』だ。
ノッドルは、『秘拳』を使わなかった。
それで、決着がついた。
無残な姿となり果てた息子の亡骸を見下ろし、ワシは、少しだけスッとした。
同時に、深い後悔の念が、老いた体を毒のように蝕んでいく。
その日一日、ずっと強かった風が収まり、代わりに、冷たい雨が降っていた。
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