二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第二部 獣人武闘祭

第256話

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 急激に、場の空気が弛緩していく。
 自然と、大きなため息が漏れた。

「ふぅ……なんとか、この場は収まってよかった。それにしても、フォルスのボスがラジアスの大ファンだなんてね。アニーも彼の仲間だったって言ったら、ビックリしたでしょうね、ふふっ」

 緊張感をほぐすように、私はアニーに笑いかける。アニーは、先程と変わらぬ硬い表情のまま、腕組みをして、フォルスの出ていったドアを見つめていた。

「アニー? どうしたの?」

 アニーの体は、ぷるぷると小刻みに震えている。
 やがて、彼女の唇が、ゆっくりと開かれた。

「こっ、ここっ、ここここっ……」

 突然『こ』を連呼した後、アニーは大きく息を吸い込み、それと同じ勢いで、息を吐きながら、言葉を発する。

「怖かったぁ~っ! 私、ああいうヤクザみたいな人、苦手なんだよね……」

 アニーは、ミス・マウンテンゴリラのマスクを脱ぎながら、言った。
 その瞳には、じんわりと涙がにじんでいる。
 本当に、怖かったらしい。

「でも、堂々とやりあってたじゃない。あれ、全部演技だったの?」

「うん。覆面レスラーらしい所作を身につけるために読んだ、『ハードボイルド会話法』の通りにやってただけ」

「そ、そんな本、あるんだ。アニーに、演技の才能があるなんてね。さっきの立ち振る舞いは、主演女優賞ものだったわよ」

「コツがあるの。マスクをかぶると、別人になるって思い込むのよ。一人称も『私』から『俺』に変えてね。のんびり屋のアニー・アリエスじゃなくて、度胸の据わった、荒っぽいミス・マウンテンゴリラになりきると、不思議と頭の中で考えてることまで、荒っぽくなるの」

「ふうん。それにしても、ヤクザ者が苦手なら、なんでチンピラの喧嘩に割って入ったりしたのよ」

「だって、しょうがないじゃない。さっきも言ったけど、ほっとけなかったんだもん」

「お人よしもほどほどにしないと、いつか大怪我するわよ」

「大丈夫。その時は、頼もしいなっちゃんに守ってもらうから。今みたいに」

「調子いいんだから」

「はぁ……それにしても、凄い迫力だったね、あの殺し屋さん」

「そうね。でも、多少は話が通じる相手で助かったわ」

「うん。……あはは、ホッとしたら、ますます手が震えてきちゃった。ほら、見て」

 差し出されたアニーの手は、確かに先程より震えている。
 私は彼女を安心させるように、その手を握った。

「あっ……」

 アニーは、何を言うでもなく、こちらをじっと見つめる。
 フォルスが乱入する前までのムードが、一気に戻って来たような気がした。
 自分の心臓の鼓動が、少しずつ高鳴っていくのが分かった。

「そろそろ、出よっか」

 私は、短く言った。

「うん……」

 アニーも、短く言った。

 その晩、私はアニーの家に泊まった。
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