256 / 389
第二部 獣人武闘祭
第256話
しおりを挟む
急激に、場の空気が弛緩していく。
自然と、大きなため息が漏れた。
「ふぅ……なんとか、この場は収まってよかった。それにしても、フォルスのボスがラジアスの大ファンだなんてね。アニーも彼の仲間だったって言ったら、ビックリしたでしょうね、ふふっ」
緊張感をほぐすように、私はアニーに笑いかける。アニーは、先程と変わらぬ硬い表情のまま、腕組みをして、フォルスの出ていったドアを見つめていた。
「アニー? どうしたの?」
アニーの体は、ぷるぷると小刻みに震えている。
やがて、彼女の唇が、ゆっくりと開かれた。
「こっ、ここっ、ここここっ……」
突然『こ』を連呼した後、アニーは大きく息を吸い込み、それと同じ勢いで、息を吐きながら、言葉を発する。
「怖かったぁ~っ! 私、ああいうヤクザみたいな人、苦手なんだよね……」
アニーは、ミス・マウンテンゴリラのマスクを脱ぎながら、言った。
その瞳には、じんわりと涙がにじんでいる。
本当に、怖かったらしい。
「でも、堂々とやりあってたじゃない。あれ、全部演技だったの?」
「うん。覆面レスラーらしい所作を身につけるために読んだ、『ハードボイルド会話法』の通りにやってただけ」
「そ、そんな本、あるんだ。アニーに、演技の才能があるなんてね。さっきの立ち振る舞いは、主演女優賞ものだったわよ」
「コツがあるの。マスクをかぶると、別人になるって思い込むのよ。一人称も『私』から『俺』に変えてね。のんびり屋のアニー・アリエスじゃなくて、度胸の据わった、荒っぽいミス・マウンテンゴリラになりきると、不思議と頭の中で考えてることまで、荒っぽくなるの」
「ふうん。それにしても、ヤクザ者が苦手なら、なんでチンピラの喧嘩に割って入ったりしたのよ」
「だって、しょうがないじゃない。さっきも言ったけど、ほっとけなかったんだもん」
「お人よしもほどほどにしないと、いつか大怪我するわよ」
「大丈夫。その時は、頼もしいなっちゃんに守ってもらうから。今みたいに」
「調子いいんだから」
「はぁ……それにしても、凄い迫力だったね、あの殺し屋さん」
「そうね。でも、多少は話が通じる相手で助かったわ」
「うん。……あはは、ホッとしたら、ますます手が震えてきちゃった。ほら、見て」
差し出されたアニーの手は、確かに先程より震えている。
私は彼女を安心させるように、その手を握った。
「あっ……」
アニーは、何を言うでもなく、こちらをじっと見つめる。
フォルスが乱入する前までのムードが、一気に戻って来たような気がした。
自分の心臓の鼓動が、少しずつ高鳴っていくのが分かった。
「そろそろ、出よっか」
私は、短く言った。
「うん……」
アニーも、短く言った。
その晩、私はアニーの家に泊まった。
自然と、大きなため息が漏れた。
「ふぅ……なんとか、この場は収まってよかった。それにしても、フォルスのボスがラジアスの大ファンだなんてね。アニーも彼の仲間だったって言ったら、ビックリしたでしょうね、ふふっ」
緊張感をほぐすように、私はアニーに笑いかける。アニーは、先程と変わらぬ硬い表情のまま、腕組みをして、フォルスの出ていったドアを見つめていた。
「アニー? どうしたの?」
アニーの体は、ぷるぷると小刻みに震えている。
やがて、彼女の唇が、ゆっくりと開かれた。
「こっ、ここっ、ここここっ……」
突然『こ』を連呼した後、アニーは大きく息を吸い込み、それと同じ勢いで、息を吐きながら、言葉を発する。
「怖かったぁ~っ! 私、ああいうヤクザみたいな人、苦手なんだよね……」
アニーは、ミス・マウンテンゴリラのマスクを脱ぎながら、言った。
その瞳には、じんわりと涙がにじんでいる。
本当に、怖かったらしい。
「でも、堂々とやりあってたじゃない。あれ、全部演技だったの?」
「うん。覆面レスラーらしい所作を身につけるために読んだ、『ハードボイルド会話法』の通りにやってただけ」
「そ、そんな本、あるんだ。アニーに、演技の才能があるなんてね。さっきの立ち振る舞いは、主演女優賞ものだったわよ」
「コツがあるの。マスクをかぶると、別人になるって思い込むのよ。一人称も『私』から『俺』に変えてね。のんびり屋のアニー・アリエスじゃなくて、度胸の据わった、荒っぽいミス・マウンテンゴリラになりきると、不思議と頭の中で考えてることまで、荒っぽくなるの」
「ふうん。それにしても、ヤクザ者が苦手なら、なんでチンピラの喧嘩に割って入ったりしたのよ」
「だって、しょうがないじゃない。さっきも言ったけど、ほっとけなかったんだもん」
「お人よしもほどほどにしないと、いつか大怪我するわよ」
「大丈夫。その時は、頼もしいなっちゃんに守ってもらうから。今みたいに」
「調子いいんだから」
「はぁ……それにしても、凄い迫力だったね、あの殺し屋さん」
「そうね。でも、多少は話が通じる相手で助かったわ」
「うん。……あはは、ホッとしたら、ますます手が震えてきちゃった。ほら、見て」
差し出されたアニーの手は、確かに先程より震えている。
私は彼女を安心させるように、その手を握った。
「あっ……」
アニーは、何を言うでもなく、こちらをじっと見つめる。
フォルスが乱入する前までのムードが、一気に戻って来たような気がした。
自分の心臓の鼓動が、少しずつ高鳴っていくのが分かった。
「そろそろ、出よっか」
私は、短く言った。
「うん……」
アニーも、短く言った。
その晩、私はアニーの家に泊まった。
10
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる