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セレナサイド 可憐な花には棘がある。
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セレナサイド 学園にて
入学式に向かう廊下ではリリアンとイザベル、そしてアリアンナ・ロードハイド侯爵令嬢がセレナの周りを固めていた。
「あの時は辛かったですわ」
すっかり板についたセシリアの仕草で、遠い目をしながらセレナが呟いた。
「すっかり擬態できる様になるとは思いませんでしたわ」
アリアンナがふふふ、と楽しげに笑う。
「なんのお話ですの?」
リリアンが不思議そうに2人の顔を覗き込んだ。
「皆様と同じクラスになれてホッとしましたの」
セレナがはにかんで微笑むとリリアンだけでなく、アリアンナやイザベルまで頬を赤く染めた。
頬を赤く染めたのは彼女達だけでは無い。
同じく入学式に参加する令息達も可憐な笑顔に目を奪われていた。
「セシリア・ウィンストン公爵令嬢だ。可憐だな」
「ああ。確かまだ婚約者は居なかったよな」
「お、俺声を掛けてみようかな」
ヒソヒソと交わされる令息達の会話をアリアンナはフッと鼻で笑った。
兄シルヴァンとの婚約は公表されていないが、既に王命で承認されている。
セレナから聞いた未来予知の話ではマーカス殿下と婚約していたが、そちらはウィンストン公爵家で潰したのならば学園でのいざこざはアリアンナが潰す。
此方を見ている令息達の後ろにマーカスが居るのを確認し、アリアンナが笑顔で爆弾を投げた。
「セシリア様。兄が婚約の証に次の夜会のドレスを贈りたい、と申しておりましたが、ご都合の良い日を教えて頂けますか?」
「えっ!セシリア様とシルヴァン・ロードハイド侯爵令息様、婚約されましたの?」
リリアンとイザベルが驚いて、淑女らしからぬ声を上げた。
「はい。正式な婚約式は落ち着いてからですが」
頬を染め、微笑むセシリアの姿は喜びに溢れている。
当然彼女の声は周りのもの達にも聞こえる。
他の令嬢達は口々におめでとうございます、と言うが勝ち目が無い相手に令息達はガックリ肩を落とした。
「セシリア、本当か」
人垣をかき分ける様にマーカスが現れ、セシリアの腕を掴む。
「マーカス第一王子。お久しぶりでございます」
腕を掴まれ、セレナは思わず振り払おうとしてしまったが、瞬時にセシリアの仮面を被り、淑女らしく片手でカーテシーをした。
「久しぶりも何も無い。お前が王宮の茶会に来ないから」
「行けませんわ、恐ろしくて。いつ殿下のご機嫌を損ない池に突き落とされるか、階段から突き飛ばされるか怯えながらお茶会なんて」
悲しげに目を伏せるセシリアの姿に、心当たりのある令息達は目を逸らし、俯いた。
セレナの発言に、王宮の茶会に出た事がない下位の貴族の令嬢、令息達は息を飲みマーカスを見た。
第一王子であるマーカスのセシリアに対する暴力は、王族だからと言って見過ごす事など出来ない悪辣さ。
王宮の茶会に出ていたが、セシリアに対しての非道な行いを知らなかった令嬢達は皆、顔を青くし令息達は不敬と分かっていてもマーカスを睨み付けた。
「お前が悪いんだ。俺の側に侍らず他の奴らの所にばかり行くから」
セシリアの腕を掴む手に更に力を入れたのか、痛みにセレナの顔が歪む。
魂は18歳でも身体はまだ15歳の子供。
華奢な腕がぎしっと嫌な音がする。
「離して……」
痛みに小さく悲鳴を上げ、セレナはふっと意識を失い倒れた。
「セシリア様」
アリアンナが慌ててセレナを支え、周りは大騒ぎになった。
マーカスは投げ出す様にセシリアの腕を離したがアリアンナがキッ、と睨みセレナを支えながら側にいた人に教師を呼ぶ様声を掛け、イザベルやリリアンとマーカスからセレナを守った。
慌てて飛んできた教師がセレナを抱え上げ養護室に走り、セレナ達のいない入学式は騒がしさの中始まった。
「上手く行った?」
「上出来ですわ」
騒がしくなった講堂とは裏腹な、人が居なくなった養護室で、ベッドに寝かされているセレナが目を開け、恐る恐るアリアンナに声を掛ければ、アリアンナは満足げに微笑んだ。
「これでマーカス殿下が暴力的だ、と生徒達に知れ渡りますし、セシリア様に絡んで来なくなりますわ」
1週間なんてあっという間で何も出来ない、と言う人もいるが悪評なんか一瞬で知れ渡る。
「セシリアたんの記憶を見た時、少しでもアイツとの楽しい思い出があったら手加減しようと思ってたんだけど……」
ゆっくりと起き上がりセレナがため息を吐いた。
「かけらも無かった、と」
アリアンナの切れ味鋭い言葉にセレナは鼻息荒く頷いた。
「だから、擦り潰す」
言葉通り、セレナとアリアンナは入学前にさっさとマーカスの傲慢で暴力的な人物像を学園内に広め、ヒロインもどきのイジメ捏造を根底から潰す事を決めていた。
マーカスの悪評は次の日には学園中に広まった。
マーカスが懲りもしないでセシリアに接触しようとしても、セシリアの周りにはリリアンやイザベルだけで無く、多くの令嬢達が守りを固める様に集い、令息達も彼女達の周りを護衛の様に囲っている。
当然、王族に対して不平不満を直接言う事は無いが、鉄壁の守りでマーカスの行動を逐一妨害、監視している。
入学式に向かう廊下ではリリアンとイザベル、そしてアリアンナ・ロードハイド侯爵令嬢がセレナの周りを固めていた。
「あの時は辛かったですわ」
すっかり板についたセシリアの仕草で、遠い目をしながらセレナが呟いた。
「すっかり擬態できる様になるとは思いませんでしたわ」
アリアンナがふふふ、と楽しげに笑う。
「なんのお話ですの?」
リリアンが不思議そうに2人の顔を覗き込んだ。
「皆様と同じクラスになれてホッとしましたの」
セレナがはにかんで微笑むとリリアンだけでなく、アリアンナやイザベルまで頬を赤く染めた。
頬を赤く染めたのは彼女達だけでは無い。
同じく入学式に参加する令息達も可憐な笑顔に目を奪われていた。
「セシリア・ウィンストン公爵令嬢だ。可憐だな」
「ああ。確かまだ婚約者は居なかったよな」
「お、俺声を掛けてみようかな」
ヒソヒソと交わされる令息達の会話をアリアンナはフッと鼻で笑った。
兄シルヴァンとの婚約は公表されていないが、既に王命で承認されている。
セレナから聞いた未来予知の話ではマーカス殿下と婚約していたが、そちらはウィンストン公爵家で潰したのならば学園でのいざこざはアリアンナが潰す。
此方を見ている令息達の後ろにマーカスが居るのを確認し、アリアンナが笑顔で爆弾を投げた。
「セシリア様。兄が婚約の証に次の夜会のドレスを贈りたい、と申しておりましたが、ご都合の良い日を教えて頂けますか?」
「えっ!セシリア様とシルヴァン・ロードハイド侯爵令息様、婚約されましたの?」
リリアンとイザベルが驚いて、淑女らしからぬ声を上げた。
「はい。正式な婚約式は落ち着いてからですが」
頬を染め、微笑むセシリアの姿は喜びに溢れている。
当然彼女の声は周りのもの達にも聞こえる。
他の令嬢達は口々におめでとうございます、と言うが勝ち目が無い相手に令息達はガックリ肩を落とした。
「セシリア、本当か」
人垣をかき分ける様にマーカスが現れ、セシリアの腕を掴む。
「マーカス第一王子。お久しぶりでございます」
腕を掴まれ、セレナは思わず振り払おうとしてしまったが、瞬時にセシリアの仮面を被り、淑女らしく片手でカーテシーをした。
「久しぶりも何も無い。お前が王宮の茶会に来ないから」
「行けませんわ、恐ろしくて。いつ殿下のご機嫌を損ない池に突き落とされるか、階段から突き飛ばされるか怯えながらお茶会なんて」
悲しげに目を伏せるセシリアの姿に、心当たりのある令息達は目を逸らし、俯いた。
セレナの発言に、王宮の茶会に出た事がない下位の貴族の令嬢、令息達は息を飲みマーカスを見た。
第一王子であるマーカスのセシリアに対する暴力は、王族だからと言って見過ごす事など出来ない悪辣さ。
王宮の茶会に出ていたが、セシリアに対しての非道な行いを知らなかった令嬢達は皆、顔を青くし令息達は不敬と分かっていてもマーカスを睨み付けた。
「お前が悪いんだ。俺の側に侍らず他の奴らの所にばかり行くから」
セシリアの腕を掴む手に更に力を入れたのか、痛みにセレナの顔が歪む。
魂は18歳でも身体はまだ15歳の子供。
華奢な腕がぎしっと嫌な音がする。
「離して……」
痛みに小さく悲鳴を上げ、セレナはふっと意識を失い倒れた。
「セシリア様」
アリアンナが慌ててセレナを支え、周りは大騒ぎになった。
マーカスは投げ出す様にセシリアの腕を離したがアリアンナがキッ、と睨みセレナを支えながら側にいた人に教師を呼ぶ様声を掛け、イザベルやリリアンとマーカスからセレナを守った。
慌てて飛んできた教師がセレナを抱え上げ養護室に走り、セレナ達のいない入学式は騒がしさの中始まった。
「上手く行った?」
「上出来ですわ」
騒がしくなった講堂とは裏腹な、人が居なくなった養護室で、ベッドに寝かされているセレナが目を開け、恐る恐るアリアンナに声を掛ければ、アリアンナは満足げに微笑んだ。
「これでマーカス殿下が暴力的だ、と生徒達に知れ渡りますし、セシリア様に絡んで来なくなりますわ」
1週間なんてあっという間で何も出来ない、と言う人もいるが悪評なんか一瞬で知れ渡る。
「セシリアたんの記憶を見た時、少しでもアイツとの楽しい思い出があったら手加減しようと思ってたんだけど……」
ゆっくりと起き上がりセレナがため息を吐いた。
「かけらも無かった、と」
アリアンナの切れ味鋭い言葉にセレナは鼻息荒く頷いた。
「だから、擦り潰す」
言葉通り、セレナとアリアンナは入学前にさっさとマーカスの傲慢で暴力的な人物像を学園内に広め、ヒロインもどきのイジメ捏造を根底から潰す事を決めていた。
マーカスの悪評は次の日には学園中に広まった。
マーカスが懲りもしないでセシリアに接触しようとしても、セシリアの周りにはリリアンやイザベルだけで無く、多くの令嬢達が守りを固める様に集い、令息達も彼女達の周りを護衛の様に囲っている。
当然、王族に対して不平不満を直接言う事は無いが、鉄壁の守りでマーカスの行動を逐一妨害、監視している。
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