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騎士の矜持と実力の差。
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ジルコン公爵が張った防御膜に入り、シルヴィーはレイピアを抜いた。
冷静に考えて、リリーとの実力はかなり差がある。
シルヴィーが本気を出せば、おそらく3分持つかどうか。
だからと言って、手を緩めてはリリーに対して失礼にあたる。
リリーも騎士として、アレキサンド王国に剣を捧げている。
だから、実力に差があっても真剣勝負を挑む。
それが騎士にとっての礼儀である。
「誰も防御膜に入らないように。本気で行きます」
「お願いします。3分くらいは食い下がってみせます」
リリーも自分のイーリスを抜き、構えた。
「始め」
ジルコン公爵の合図で、2人の試合は始まった。
リーリウムに鍛えられたリリーも王国の、女性騎士の中ではトップクラスの実力者。ジルコン公爵家の護衛騎士団の若手となら、勝負にならない程だ。
ハッ、とリリーが気合いと共に斬り込んで来たが、それよりも速く、シルヴィーがリリーの胸元に滑り込み、体勢を整えさせない。
あまりにも速い攻撃だが、リリーも瞬発力でシルヴィーのレイピアが防具を切るのを防いだが、其処から防戦一方になる。
しなる鞭のように、シルヴィーは腕、肩、足、と目まぐるしく攻撃の場所を変えながら、時折重い一撃でリリーの動きを抑え込む。
シルヴィーが防御膜の中には誰も入るな、と言っていた意味が判った。
あまりにもシルヴィーが振るう剣が速く、斬り裂かれた空気が鎌鼬の様になり、防御膜が剣圧に負け、何度も斬り裂かれた。
何度か間合いを取るが、肩で息をするリリーと、冷静に隙や、次の攻撃を予測するシルヴィーの姿は対称的だ。
防御膜の為、剣を打ち合う音は聞こえないが、鋼のぶつかり合う音はきっと重い。
リリーの額の汗が流れ、目に入ったのか、一瞬視線がシルヴィーから外れる。
そんな小さな隙ですら見逃さないシルヴィーのレイピアが、リリーが握るイーリスを弾き飛ばす。
息を呑む暇も無く、リリーの首に押し当てられる鋼の冷たさが、試合の決着を教えた。
「3分、少し過ぎている様ですね」
剣を鞘に収めたシルヴィーの言葉に、リリーはその場に座り込んでしまった。
「ゼオン様との特訓の成果かな?」
「だ……だと思い……ます」
息が完全に上がり、途切れ途切れの返事だが、リリーは満足そうに笑い、よろけながら立とうとし、シルヴィーも頷きながら手を差し出した。
「素晴らしい」
ジルコン公爵達が、惜しみない拍手で2人を出迎える。
まだ足元が覚束ないリリーをゼオンに任せ、シルヴィーはジルコン公爵に深く一礼をした。
「御前で未熟な剣を披露して申し訳ありません。今後も精進します」
シルヴィーの謝罪にユーリが目を丸くする。
「そんな事ありません。シルヴィー姉様の剣は素晴らしかったです」
頬を染め、褒めてくれるのは良いのだが、いつの間にか呼び方が変わっている。
「あのぉ、ユーリ様に、姉様と呼ばれるのは少し恥ずかしいのですが。出来ればそのまま、シルヴィーと……」
「駄目です。姉様は姉様です」
頑として聞き入れてくれないユーリから視線をリリーに向け
「では、私もリリー様の事をリリー姉様と呼んだ方が……」
と、提案すれば、速攻で却下された。
「嫌です。姉さんならまだしも、姉様なんて」
「ですが、公爵令嬢のリリー様に……」
「ゼオン様と結婚すれば、同じ伯爵ですから敬称は不要です」
ゼオンとの結婚は既に決定事項なのか、とシルヴィーが納得し、もう一度ジルコン公爵を見た。
「シルヴィーは真面目だな。なに、わしの事はユーリファスお爺様と呼んでくれて良いぞ」
「無理です」
本気なのか揶揄っているだけなのか判らないが、ジルコン家の面々は楽しげに笑い合っていた。
流石に疲れたのか、帰りの馬車の中でシルヴィーはダドリーの肩にもたれ眠っている。
シルヴィーはいつも、他人の為に走り回っているせいか、休む事を知らない所がある。
その彼女が、ダドリーの側では時折警戒心も無く、休む様になった。
ダドリーは口元に笑みを浮かべ、眠るシルヴィーの睫毛の長さを見ている。
美しく、聡明で誰よりも強い。
脆さなど見せないシルヴィーを多くの者は、崇める様に見詰めるが、無防備な寝顔を見る事が出来るダドリーは、静かに決意した。
冷静に考えて、リリーとの実力はかなり差がある。
シルヴィーが本気を出せば、おそらく3分持つかどうか。
だからと言って、手を緩めてはリリーに対して失礼にあたる。
リリーも騎士として、アレキサンド王国に剣を捧げている。
だから、実力に差があっても真剣勝負を挑む。
それが騎士にとっての礼儀である。
「誰も防御膜に入らないように。本気で行きます」
「お願いします。3分くらいは食い下がってみせます」
リリーも自分のイーリスを抜き、構えた。
「始め」
ジルコン公爵の合図で、2人の試合は始まった。
リーリウムに鍛えられたリリーも王国の、女性騎士の中ではトップクラスの実力者。ジルコン公爵家の護衛騎士団の若手となら、勝負にならない程だ。
ハッ、とリリーが気合いと共に斬り込んで来たが、それよりも速く、シルヴィーがリリーの胸元に滑り込み、体勢を整えさせない。
あまりにも速い攻撃だが、リリーも瞬発力でシルヴィーのレイピアが防具を切るのを防いだが、其処から防戦一方になる。
しなる鞭のように、シルヴィーは腕、肩、足、と目まぐるしく攻撃の場所を変えながら、時折重い一撃でリリーの動きを抑え込む。
シルヴィーが防御膜の中には誰も入るな、と言っていた意味が判った。
あまりにもシルヴィーが振るう剣が速く、斬り裂かれた空気が鎌鼬の様になり、防御膜が剣圧に負け、何度も斬り裂かれた。
何度か間合いを取るが、肩で息をするリリーと、冷静に隙や、次の攻撃を予測するシルヴィーの姿は対称的だ。
防御膜の為、剣を打ち合う音は聞こえないが、鋼のぶつかり合う音はきっと重い。
リリーの額の汗が流れ、目に入ったのか、一瞬視線がシルヴィーから外れる。
そんな小さな隙ですら見逃さないシルヴィーのレイピアが、リリーが握るイーリスを弾き飛ばす。
息を呑む暇も無く、リリーの首に押し当てられる鋼の冷たさが、試合の決着を教えた。
「3分、少し過ぎている様ですね」
剣を鞘に収めたシルヴィーの言葉に、リリーはその場に座り込んでしまった。
「ゼオン様との特訓の成果かな?」
「だ……だと思い……ます」
息が完全に上がり、途切れ途切れの返事だが、リリーは満足そうに笑い、よろけながら立とうとし、シルヴィーも頷きながら手を差し出した。
「素晴らしい」
ジルコン公爵達が、惜しみない拍手で2人を出迎える。
まだ足元が覚束ないリリーをゼオンに任せ、シルヴィーはジルコン公爵に深く一礼をした。
「御前で未熟な剣を披露して申し訳ありません。今後も精進します」
シルヴィーの謝罪にユーリが目を丸くする。
「そんな事ありません。シルヴィー姉様の剣は素晴らしかったです」
頬を染め、褒めてくれるのは良いのだが、いつの間にか呼び方が変わっている。
「あのぉ、ユーリ様に、姉様と呼ばれるのは少し恥ずかしいのですが。出来ればそのまま、シルヴィーと……」
「駄目です。姉様は姉様です」
頑として聞き入れてくれないユーリから視線をリリーに向け
「では、私もリリー様の事をリリー姉様と呼んだ方が……」
と、提案すれば、速攻で却下された。
「嫌です。姉さんならまだしも、姉様なんて」
「ですが、公爵令嬢のリリー様に……」
「ゼオン様と結婚すれば、同じ伯爵ですから敬称は不要です」
ゼオンとの結婚は既に決定事項なのか、とシルヴィーが納得し、もう一度ジルコン公爵を見た。
「シルヴィーは真面目だな。なに、わしの事はユーリファスお爺様と呼んでくれて良いぞ」
「無理です」
本気なのか揶揄っているだけなのか判らないが、ジルコン家の面々は楽しげに笑い合っていた。
流石に疲れたのか、帰りの馬車の中でシルヴィーはダドリーの肩にもたれ眠っている。
シルヴィーはいつも、他人の為に走り回っているせいか、休む事を知らない所がある。
その彼女が、ダドリーの側では時折警戒心も無く、休む様になった。
ダドリーは口元に笑みを浮かべ、眠るシルヴィーの睫毛の長さを見ている。
美しく、聡明で誰よりも強い。
脆さなど見せないシルヴィーを多くの者は、崇める様に見詰めるが、無防備な寝顔を見る事が出来るダドリーは、静かに決意した。
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