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今日は遠足ではありません
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サナスの丘への下見の日は気持ちが良いほどの青空。
皆、遠足気分なのかどこかほんわかしているが若干1名渋い顔をしているものがいた。
「で、どうして俺まで」
白い髪 金色の瞳の魔法使いのガウラが不機嫌な顔をしてアリッサを見ている。
ガウラは魔法学の教師の1人で、回復魔法のスペシャリストだ。
「何かあった時、回復魔法は必須ですから」
「そんなもん、俺じゃなくてファルシオン1人でどうにでもなるだろ」
魔法使いの塔に所属していないガウラは何故か魔法使いの塔の人間に敵愾心を持っていた様で、態度は最悪だが腕は確かだ。
「師匠1人でどうにかなる、って本気で思ってます?あの師匠ですよ」
アリッサの言葉に、苛立っていたガウラも黙ってしまう。
少し前までガウラは魔法使いの塔に所属している魔法使い達は皆、金魚鉢の中の金魚だと思っていた。
苦労もせず安全な場所で魔法だけを極めればいい、と思っていると思っていた。
ところがファルシオンとアリッサと知り合った事で自分の考えが甘かった事を思い知らされた。
ファルシオンは大魔法使いとして、魔法使いの塔の魔法使い達にかなり厳しい事を要求していた。
自分の魔力を高めることは当然だが、国にも貢献しろ、と魔獣討伐だけでなく地方の土壌改良や治水工事にさえ魔法使い達を派遣していた。
しかも学力の向上まで当然だと言う。
官僚よりハードな生活の中走り回っている魔法使い達を見てガウラは呆然とした記憶を思い出した。
「甘くないですよ、師匠は。でも、魔法使いも鍛えれば騎士にも官僚にもなれる、と分かってから皆さん努力家になりました」
ニコニコ笑うアリッサにガウラは軽く頭を下げた。
「悪かった。しかしあれは、凄かった」
「あはは。ちょっと前までは皆さんの考え、温かったですからね」
アリッサ達が話をしている頃、エリンジウムとモルセラがドラゴンの絵を描くミモザに話しかけていた。
「ノースマルド公爵令嬢、何故それ程ドラゴンに固執するんだ?」
エリンジウムが話しかけてきたことに驚き、ミモザはポカンとしていたが、不意に悲しげな顔をした。
「子供の頃、ドラゴンを見たと言うのは正確では無いのです。わたくし、子供の頃両親と共に魔獣に襲われ、死を覚悟した時ドラゴンに命を救われたのです」
ミモザから衝撃的な事を聞かされ、エリンジウム達は言葉を失った。
ミモザは10歳くらいの時、領地から戻る途中魔獣達の襲撃を受けたのだ。
護衛騎士達の多くが傷付き、両親はせめてミモザだけでも助けようと彼女を抱きしめて震えていた時、その巨体とは裏腹に音も無く舞い降りたドラゴンが魔獣達をあっという間に駆逐した。
その時、ミモザは母親の腕の中から見たドラゴンの優しい目に心を動かされたが、礼を言う間もなくドラゴンは飛び去ってしまったのだ。
「誰に言っても信じてはもらえませんでした。ですが、わたくしはあの日のドラゴンを思い出すたび助けてもらったお礼を如何しても伝えたかった」
だからドラゴンの事を知るサンキライからアリッサの話を聞き、無理を承知で願った。
悲しげな顔をして項垂れていたが、顔を上げたミモザはほんのり頬を染め恥じらいながら
「エリンジウム殿下にお聞かせする様なことでは無いのに、申し訳ありません」
と、謝罪をする。
あれ程気丈な事を言っていた彼女の恥じらう姿はエリンジウムの心にすんなりと馴染む。
「いや、我儘では無く、魔獣にさえ礼を尽くそうとする貴女の姿は、好ましいですよ」
あまり話した事がないミモザとエリンジウムだが、柔らかなミモザの笑顔に癒されたのか、話が弾み訓練下見のはずなのに和やかな雰囲気になっていた。
だが、危険度が低くても魔獣達が跋扈するダンジョンが近い場所である。
和やかに話をしていたミモザが悲鳴を上げた。
皆、遠足気分なのかどこかほんわかしているが若干1名渋い顔をしているものがいた。
「で、どうして俺まで」
白い髪 金色の瞳の魔法使いのガウラが不機嫌な顔をしてアリッサを見ている。
ガウラは魔法学の教師の1人で、回復魔法のスペシャリストだ。
「何かあった時、回復魔法は必須ですから」
「そんなもん、俺じゃなくてファルシオン1人でどうにでもなるだろ」
魔法使いの塔に所属していないガウラは何故か魔法使いの塔の人間に敵愾心を持っていた様で、態度は最悪だが腕は確かだ。
「師匠1人でどうにかなる、って本気で思ってます?あの師匠ですよ」
アリッサの言葉に、苛立っていたガウラも黙ってしまう。
少し前までガウラは魔法使いの塔に所属している魔法使い達は皆、金魚鉢の中の金魚だと思っていた。
苦労もせず安全な場所で魔法だけを極めればいい、と思っていると思っていた。
ところがファルシオンとアリッサと知り合った事で自分の考えが甘かった事を思い知らされた。
ファルシオンは大魔法使いとして、魔法使いの塔の魔法使い達にかなり厳しい事を要求していた。
自分の魔力を高めることは当然だが、国にも貢献しろ、と魔獣討伐だけでなく地方の土壌改良や治水工事にさえ魔法使い達を派遣していた。
しかも学力の向上まで当然だと言う。
官僚よりハードな生活の中走り回っている魔法使い達を見てガウラは呆然とした記憶を思い出した。
「甘くないですよ、師匠は。でも、魔法使いも鍛えれば騎士にも官僚にもなれる、と分かってから皆さん努力家になりました」
ニコニコ笑うアリッサにガウラは軽く頭を下げた。
「悪かった。しかしあれは、凄かった」
「あはは。ちょっと前までは皆さんの考え、温かったですからね」
アリッサ達が話をしている頃、エリンジウムとモルセラがドラゴンの絵を描くミモザに話しかけていた。
「ノースマルド公爵令嬢、何故それ程ドラゴンに固執するんだ?」
エリンジウムが話しかけてきたことに驚き、ミモザはポカンとしていたが、不意に悲しげな顔をした。
「子供の頃、ドラゴンを見たと言うのは正確では無いのです。わたくし、子供の頃両親と共に魔獣に襲われ、死を覚悟した時ドラゴンに命を救われたのです」
ミモザから衝撃的な事を聞かされ、エリンジウム達は言葉を失った。
ミモザは10歳くらいの時、領地から戻る途中魔獣達の襲撃を受けたのだ。
護衛騎士達の多くが傷付き、両親はせめてミモザだけでも助けようと彼女を抱きしめて震えていた時、その巨体とは裏腹に音も無く舞い降りたドラゴンが魔獣達をあっという間に駆逐した。
その時、ミモザは母親の腕の中から見たドラゴンの優しい目に心を動かされたが、礼を言う間もなくドラゴンは飛び去ってしまったのだ。
「誰に言っても信じてはもらえませんでした。ですが、わたくしはあの日のドラゴンを思い出すたび助けてもらったお礼を如何しても伝えたかった」
だからドラゴンの事を知るサンキライからアリッサの話を聞き、無理を承知で願った。
悲しげな顔をして項垂れていたが、顔を上げたミモザはほんのり頬を染め恥じらいながら
「エリンジウム殿下にお聞かせする様なことでは無いのに、申し訳ありません」
と、謝罪をする。
あれ程気丈な事を言っていた彼女の恥じらう姿はエリンジウムの心にすんなりと馴染む。
「いや、我儘では無く、魔獣にさえ礼を尽くそうとする貴女の姿は、好ましいですよ」
あまり話した事がないミモザとエリンジウムだが、柔らかなミモザの笑顔に癒されたのか、話が弾み訓練下見のはずなのに和やかな雰囲気になっていた。
だが、危険度が低くても魔獣達が跋扈するダンジョンが近い場所である。
和やかに話をしていたミモザが悲鳴を上げた。
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