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生き残れたら……
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「見ろ! ドラゴンがやってきたぞ!」
「逃げろ! 早く建物の中へ隠れるんだ!」
「誰かぁー! 助けてぇぇぇ!!」
一瞬でこの場はパニックに陥り、逃げ惑う街の人々を嘲笑うかの様に、ドラゴンはその巨体を地に降ろした。
羽ばたく羽の風圧で私の体が飛ばされそうになる。
なんとか耐え、恐る恐るその姿を確認する。黒光りする巨大な鱗が身体を覆い尽くし、ギョロりとした大きく鋭い瞳は、目の前の私に向けられている。
初めて見るその悍ましさに、私の体が恐怖でカタカタと震え出した。
怖い……! でも……足が動かない……!
ドラゴンはグルルッと唸る様な低い声を吐き、白い牙をこちらに見せた。
まるで私に狙いを定めたかの様に……獲物を仕留める構えをはじめた。
「あ……」
もしかしたら、私は今ここで死ぬのかもしれない。
その事が頭を過った時、ドラゴンが口を大きく開いて私に襲い掛かった。
私は目をギュッと瞑り、覚悟を決めた。
ただ――キースの事が、心の残りだった。
「アリス!!!」
キィンッ!! と金属が擦れ合う音が聞こえた。
私が今一番会いたかった愛しい人の声と共に。
ゆっくりと目を開くと、ドラゴンの牙から私を守る様に、剣を構えて攻撃を防ぐ彼の姿があった。
「キース……」
涙交じりにその名前を呟く。
彼は攻撃を防ぎながら、ジリジリと私が居る後方へと後ずさると、私の体を抱えてその場から大きく飛び退いた。
キースの体はあちこちに血がついていて、返り血なのか本人の血なのかよく分からない。
だけど、ハァハァと息を乱す彼からは、余裕なんて微塵も感じられない。
「アリス! 大丈夫か? 怪我はしていないか!?」
そんな状態なのに、私の体を一番に心配してくれる彼の優しさが嬉しくて……。
「ええ。大丈夫よ……」
そう呟いて涙がこぼれた。
先程まで感じていた死への恐怖。もう会えないと思っていた大好きな彼と会えた喜び。
そんな感情が交じり合う涙を、キースは血が付いていない指先で拭ってくれた。
再び襲いかかってくるドラゴンの爪を、私を抱き抱えたままかわすと、キースは私を連れて走り、離れた場所にある建物の陰に身を隠した、
「アリス、助けに来るのが遅くなってすまない。怖い思いをさせてしまったな」
「ううん。助けに来てくれてありがとう」
そんな会話のやり取りをして、少し安心した様にキースは小さく息を吐いた。そして再びキリッと表情を引き締め、遠くで暴れているドラゴンを睨み付けた。
「アリスはここで隠れているんだ。俺はアイツをなんとかする」
「キース……」
行かないで。そう言いたい。
だけど、彼はきっと行くのだろう。
人一倍正義感が強くて、真面目な彼だから。そんな彼だからこそ、私は好きになったのだから。
「アリス」
気落ちする私を気遣う様に、キースはいつもより優しい声で私の名前を呼んだ。
「もし、俺がこの戦いで生き残れたら……結婚してくれないか?」
……なんでそれを今、言っちゃうのかなぁ。
「もう……いつも言ってるでしょ……?」
「ああ、そうだな。今は言ってはいけないんだったな」
そう言ってキースは切なげに笑い、
「じゃあ、行ってくるよ」
表情に影を落とし、抱き抱えていた私を地に降ろすと、哀愁漂う背中をこちらに向けて走り去っていった。
その背中を、私はいつまでも見つめていた。
「逃げろ! 早く建物の中へ隠れるんだ!」
「誰かぁー! 助けてぇぇぇ!!」
一瞬でこの場はパニックに陥り、逃げ惑う街の人々を嘲笑うかの様に、ドラゴンはその巨体を地に降ろした。
羽ばたく羽の風圧で私の体が飛ばされそうになる。
なんとか耐え、恐る恐るその姿を確認する。黒光りする巨大な鱗が身体を覆い尽くし、ギョロりとした大きく鋭い瞳は、目の前の私に向けられている。
初めて見るその悍ましさに、私の体が恐怖でカタカタと震え出した。
怖い……! でも……足が動かない……!
ドラゴンはグルルッと唸る様な低い声を吐き、白い牙をこちらに見せた。
まるで私に狙いを定めたかの様に……獲物を仕留める構えをはじめた。
「あ……」
もしかしたら、私は今ここで死ぬのかもしれない。
その事が頭を過った時、ドラゴンが口を大きく開いて私に襲い掛かった。
私は目をギュッと瞑り、覚悟を決めた。
ただ――キースの事が、心の残りだった。
「アリス!!!」
キィンッ!! と金属が擦れ合う音が聞こえた。
私が今一番会いたかった愛しい人の声と共に。
ゆっくりと目を開くと、ドラゴンの牙から私を守る様に、剣を構えて攻撃を防ぐ彼の姿があった。
「キース……」
涙交じりにその名前を呟く。
彼は攻撃を防ぎながら、ジリジリと私が居る後方へと後ずさると、私の体を抱えてその場から大きく飛び退いた。
キースの体はあちこちに血がついていて、返り血なのか本人の血なのかよく分からない。
だけど、ハァハァと息を乱す彼からは、余裕なんて微塵も感じられない。
「アリス! 大丈夫か? 怪我はしていないか!?」
そんな状態なのに、私の体を一番に心配してくれる彼の優しさが嬉しくて……。
「ええ。大丈夫よ……」
そう呟いて涙がこぼれた。
先程まで感じていた死への恐怖。もう会えないと思っていた大好きな彼と会えた喜び。
そんな感情が交じり合う涙を、キースは血が付いていない指先で拭ってくれた。
再び襲いかかってくるドラゴンの爪を、私を抱き抱えたままかわすと、キースは私を連れて走り、離れた場所にある建物の陰に身を隠した、
「アリス、助けに来るのが遅くなってすまない。怖い思いをさせてしまったな」
「ううん。助けに来てくれてありがとう」
そんな会話のやり取りをして、少し安心した様にキースは小さく息を吐いた。そして再びキリッと表情を引き締め、遠くで暴れているドラゴンを睨み付けた。
「アリスはここで隠れているんだ。俺はアイツをなんとかする」
「キース……」
行かないで。そう言いたい。
だけど、彼はきっと行くのだろう。
人一倍正義感が強くて、真面目な彼だから。そんな彼だからこそ、私は好きになったのだから。
「アリス」
気落ちする私を気遣う様に、キースはいつもより優しい声で私の名前を呼んだ。
「もし、俺がこの戦いで生き残れたら……結婚してくれないか?」
……なんでそれを今、言っちゃうのかなぁ。
「もう……いつも言ってるでしょ……?」
「ああ、そうだな。今は言ってはいけないんだったな」
そう言ってキースは切なげに笑い、
「じゃあ、行ってくるよ」
表情に影を落とし、抱き抱えていた私を地に降ろすと、哀愁漂う背中をこちらに向けて走り去っていった。
その背中を、私はいつまでも見つめていた。
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