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俺は死なない
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歳の離れた私の兄も、帝国騎士団に所属していた。
「今日、彼女にプロポーズしたんだ。今度の戦地から帰ってきたら結婚しようって告げたら泣きながら承諾してくれたよ」
三年前、そう言って嬉しそうに笑っていた兄は、戦地から戻って来なかった。
死地と化した戦場。多くの死者を出したその地で、兄の死体を確認する事は出来なかったらしい。
それでも、当時の状況から生き残る事は難しいだろうと、死亡者リストに載せられた。
兄の婚約者は泣き崩れ、今もまだ新しい恋には踏み出せずに、帰らぬ兄を待ち続けている。
それは私の兄だけではない。同じ様に、恋人にプロポーズをして帰って来なかった人は大勢いた。
戦地へ行く前に将来の約束をしてはいけない。死亡フラグが立ってしまい、生きて帰れなくなる。
大量の死者を出した悲劇の戦いが終結した後、誰かがそんな事を言い出した。
それを耳にした時、「ああ、だから私の兄は生きて帰れなかったのか」と納得してしまった。
だから私は、大事な人を死なせない様に気を付けようと思った。
もし、戦地へ向かう前にプロポーズなんてされてしまったら……ちゃんと断ろうと。
そう思った。
だけど――。
本当に?
それって本当にいけない事だったの?
だって、本当に死んでしまうかもしれないのでしょう?
死んでしまったら、もう何も伝える事なんて出来ないじゃない。
私はさっき、死ぬところだった。死の間際、頭を過ったのは後悔ばかりだった。
見えないフラグに怯えて、私は本心を彼に伝える事が出来なかった。
私も本当は彼のプロポーズが嬉しかった。ずっと結婚して一緒に暮らしたかったと。
最後に見た彼の顔が、あんな悲しみに暮れた表情だなんて嫌だ。
なんで最後の別れになるかもしれないのに、あんな風に言ってしまったのだろう。
なんでちゃんと伝えなかったのだろう。
待っているから。生きて帰ってきてね。って……。
それなのに、さっきもまた同じ事を繰り返してしまった。
もし、彼がこのまま死んでしまったら――?
このまま彼と二度と会えないなんて――そんなの嫌!!
その瞬間、私はキースの後ろ姿を追い始めた。
「キース!!」
「……?」
今、まさにドラゴンと対峙しようとしているキースに向かって叫んだ。
「キース! この戦いが終わったら……私と結婚して!」
「……!?」
私の言葉を聞いたキースは、大きく目を見開き、
「いや……断る」
「え……?」
断る……? 断っちゃうの?
「そんな事を言ったら死亡フラグが立つんだろ? アリスが死ぬのは嫌だ」
「……」
た……確かにそれを言ったのは私だけど。
どうしよう。これ、思った以上にショックだわ。ちょっと立ち直れそうにない。
キースもいつもこんな気持ちだったのね……。
本当に、悪い事をしたわ……。
「アリス」
いつの間にか、私のすぐ目の前にキースが来ていた。
そして私の前で跪き、私の手を取った。
「この戦いが終わったら、俺と結婚してほしい」
「……え? だって今、断ったんじゃ……?」
「アリスの死亡フラグが立つのは嫌だからな。折らせてもらった」
そう言って、キースは少し意地悪な笑みを浮かべた。
「……キースはフラグが立ってもいいっていうの?」
「大丈夫だ。俺は死なない。アリスが俺のプロポーズに承諾してくれたら、絶対に生き残ってみせる」
「……」
キースは真剣な表情で私を真っすぐ見据える。
不確かなフラグなんかよりも、キースの言葉を信じたい。
「ええ。結婚……するわ。私もキースと一緒に暮らしたい。だから、絶対に生きて帰ってきてね」
そう告げると、キースは嬉しそうに笑顔を咲かせた。
「ああ。約束だ」
キースは立ち上がると、私の体を一気に引き寄せ、私の唇を奪う。
だけどすぐに唇を離すと、くるりと私に背を向け、再びドラゴンの元へと勇ましく駆け出した。
キース……本当に……ちゃんと生きて帰ってきてね。あなたの言葉を信じているから。
私は両手を組んで目を閉じ、神に祈る様に、ただひたすらに彼の無事を祈った。
「今日、彼女にプロポーズしたんだ。今度の戦地から帰ってきたら結婚しようって告げたら泣きながら承諾してくれたよ」
三年前、そう言って嬉しそうに笑っていた兄は、戦地から戻って来なかった。
死地と化した戦場。多くの死者を出したその地で、兄の死体を確認する事は出来なかったらしい。
それでも、当時の状況から生き残る事は難しいだろうと、死亡者リストに載せられた。
兄の婚約者は泣き崩れ、今もまだ新しい恋には踏み出せずに、帰らぬ兄を待ち続けている。
それは私の兄だけではない。同じ様に、恋人にプロポーズをして帰って来なかった人は大勢いた。
戦地へ行く前に将来の約束をしてはいけない。死亡フラグが立ってしまい、生きて帰れなくなる。
大量の死者を出した悲劇の戦いが終結した後、誰かがそんな事を言い出した。
それを耳にした時、「ああ、だから私の兄は生きて帰れなかったのか」と納得してしまった。
だから私は、大事な人を死なせない様に気を付けようと思った。
もし、戦地へ向かう前にプロポーズなんてされてしまったら……ちゃんと断ろうと。
そう思った。
だけど――。
本当に?
それって本当にいけない事だったの?
だって、本当に死んでしまうかもしれないのでしょう?
死んでしまったら、もう何も伝える事なんて出来ないじゃない。
私はさっき、死ぬところだった。死の間際、頭を過ったのは後悔ばかりだった。
見えないフラグに怯えて、私は本心を彼に伝える事が出来なかった。
私も本当は彼のプロポーズが嬉しかった。ずっと結婚して一緒に暮らしたかったと。
最後に見た彼の顔が、あんな悲しみに暮れた表情だなんて嫌だ。
なんで最後の別れになるかもしれないのに、あんな風に言ってしまったのだろう。
なんでちゃんと伝えなかったのだろう。
待っているから。生きて帰ってきてね。って……。
それなのに、さっきもまた同じ事を繰り返してしまった。
もし、彼がこのまま死んでしまったら――?
このまま彼と二度と会えないなんて――そんなの嫌!!
その瞬間、私はキースの後ろ姿を追い始めた。
「キース!!」
「……?」
今、まさにドラゴンと対峙しようとしているキースに向かって叫んだ。
「キース! この戦いが終わったら……私と結婚して!」
「……!?」
私の言葉を聞いたキースは、大きく目を見開き、
「いや……断る」
「え……?」
断る……? 断っちゃうの?
「そんな事を言ったら死亡フラグが立つんだろ? アリスが死ぬのは嫌だ」
「……」
た……確かにそれを言ったのは私だけど。
どうしよう。これ、思った以上にショックだわ。ちょっと立ち直れそうにない。
キースもいつもこんな気持ちだったのね……。
本当に、悪い事をしたわ……。
「アリス」
いつの間にか、私のすぐ目の前にキースが来ていた。
そして私の前で跪き、私の手を取った。
「この戦いが終わったら、俺と結婚してほしい」
「……え? だって今、断ったんじゃ……?」
「アリスの死亡フラグが立つのは嫌だからな。折らせてもらった」
そう言って、キースは少し意地悪な笑みを浮かべた。
「……キースはフラグが立ってもいいっていうの?」
「大丈夫だ。俺は死なない。アリスが俺のプロポーズに承諾してくれたら、絶対に生き残ってみせる」
「……」
キースは真剣な表情で私を真っすぐ見据える。
不確かなフラグなんかよりも、キースの言葉を信じたい。
「ええ。結婚……するわ。私もキースと一緒に暮らしたい。だから、絶対に生きて帰ってきてね」
そう告げると、キースは嬉しそうに笑顔を咲かせた。
「ああ。約束だ」
キースは立ち上がると、私の体を一気に引き寄せ、私の唇を奪う。
だけどすぐに唇を離すと、くるりと私に背を向け、再びドラゴンの元へと勇ましく駆け出した。
キース……本当に……ちゃんと生きて帰ってきてね。あなたの言葉を信じているから。
私は両手を組んで目を閉じ、神に祈る様に、ただひたすらに彼の無事を祈った。
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