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34. 生きる秘宝
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××××side
ねぇ、方舟の少女。貴女はその命を繋ぎとめるものが何なのか、知ってる?
猪に突き殺された美しい青年は、次に生まれた時に守りたいものができたの。でも人は、守るものをつくると極端に弱くなるわ。だって、守りたいものが守れなければ自分は無事でも痛いもの。
だから馬鹿な真似はやめなさいって言ったのよ、私。それなのに、彼は命を半分投げやったわ。自分の血から咲いた花が止めようとしてるのに、聞く耳を持たなかったのよ。神話に逆らった異端児の末路は脱獄に等しいわ。
でもね、現代だからこそ許される、逃亡に見合う訳があるのよ。それはね…
●●●
アネモネside
男の手からひったくるようにノアを抱き寄せると、その身体は異常なほどに冷たく、不謹慎にも死んでいるのかと思ってしまうほどだった。
「おいノアしっかりしろ!」
自分の気が動転しているのが嫌な程にわかる。医者たるもの、いかなる時も冷静でなければならないというのに。いつか手元が狂えば、添い寝しても牙を向かない迄に慣れていてもそのメスで人を殺してしまうだろう。
「どうした、何があったんだ」
「はい…私達もどうしたものか把握しかねるのですが」
なるべく揺らさないようにベッドに寝かせるも、虫の息で冷えきった少女はよく出来た人形のようだった。しかし、その身体は吐き気がするほどに血の匂いを漂わせ、それは私を現実に引き戻すには十分すぎた。
「まず、給仕のデメーテルが意識不明で病院に搬送されました。他にも、命や意識に別状はなさそうなものの、深手の傷を負ったものが屋敷内に多発しております。そして、被害者の証言によると、大きな銀狼が暴れていたとのことです。」
「銀狼…だと!?」
背骨が盛大な音をあげて軋み、凍った。冷たい脂汗が首筋を伝い、喉元にナイフを突きつけられているような恐怖に煽られる。
「はい。ただ、その狼は自我を失って暴れているようだった、と。最終的に、首輪を引かれる犬のように2階の書庫に飛び込んでいったようで…それと同時に静まり返ったので駆けつけた私が書庫に…」
「…その狼はどうした」
「それが…姿が見えなくなりまして、代わりのようにリリノア様がこの状態で倒れておられました。」
嫌な予感が的中してしまったようだった。しかし、どこか安堵しているような自分さえいることに我ながら驚く。
「そうか…」
力無く横たわる少女の服を紐解いてゆく。ついいつもの癖で無遠慮に手を出してしまったが、それに気づいた男が大きく2歩下がった。なので手を止めずに出血元を探ろうとすると、血濡れた胸元に傷跡は見受けられなかった。
「吐血…血涙か。目立った外傷はない…異端児の治癒力が働いたか?」
とりあえず、と思って彼女の身体に切断前のガーゼをかける。と、そこで忘れかけていた存在を思い出した。
「っと、そういえばカイン、まだ起きてるか?」
ゆるりとソファーを振り向くと、汗を流して浅い呼吸を繰り返す弟の姿があった。
「悪いな、放置して。この部屋の中にいれば2人とも少しずつ体力を回復できる。眠ければ眠っちゃいな」
何を話しかけても虚ろなのか返事はない。しかし、私はこれから短くても3日は二人を見張ることになるだろう。具体的なことがわからない以上、治療の仕様が無いのだ。
「さて、ここは私が引き受けよう。今夜の会議、無期限で延期にさせてください。私はこの二人を抱えてしばらく引っ込まなければならないのでね。」
「致し方ありません。何かあれば、なんなりとお申しつけください。」
駆け込んできた男達が静かに扉の向こうへと引き下がって言った。
「…ふん、心にも思っていないことを。どうせリリノアも私も一族の厄介に過ぎないと考えているくせに。カインもきっと、素性が知れればこちら側に来てしまうのだわ。…あぁ、可愛い弟と義妹たち…あんた達は私がちゃんと守ってあげるからね。」
扉に向かって吐きかけた文句は、いつの間にか慈愛の言葉に変じていた。
スーツケースから布を取り出してお湯ですすぎ、カインの首元を優しく撫でると、ほぼ無意識だろう弟の口元が少しだけ緩んだように見えた。身体こそ私よりも大きくなってしまったが、いつまで経っても変わらずにあどけなくて愛しい。
(ノアちゃんのことを気遣ってあげるのもいいけど、あんたの腰も相変わらず細いわよ。ちゃんと成長は再開したのかしら?)
心の中で問いかけると、目から涙がこぼれそうになる。それをぐっと噛み殺して飲み下して清拭を続けた。
あまりにも哀れで残酷すぎた。私よりもずっと若いこの2人を取り巻く運命は、茨の道や針の山を次々と繰り広げてくる、まさに生き地獄だ。私の存在意義は、そんな彼らに委ねられている。私があのままイヴになっていたら、ノアもカインも生まれなかったのだろうか。そうしたら、私は誰かを愛しく思うことがあったのだろうか。
考え始めるとキリのない、でも何度も考えたことである。
「さて、あとは変化が現れるまで様子見ね。」
誰が聞いているわけでもないのに、敢えて口に出すことでケジメをつける。長い一人暮らしが生んだ奇妙な技だ。
ソファーに横たわるカインの脇に腕を回し、ゆっくりと抱き上げる。こいつの身体が軽いのも事実だが、私の腕も鍛えられたものだ。最近の医療機器は大型のものが多いから、というのもあるだろう。しかし、一族にも親にも見放されたカインを育てたのは私なのだ、その事実は誰にも譲らない。
実際、私は一族に腹を立てているのだ。もちろん私とで馬鹿ではないので表に出すことは絶対に無い。だが、ノアやカイン、時には私だって利用する一族に腹ただしい以外のどんな感情を抱けるのか?
(この子達に罪はないわ。あぁ、どうして私が母親じゃないの!?私が母親ならば悪魔の子だろうと愛してあげるのに…悪魔の子?よっぽど一族の人間達の方が悪魔じゃないの!!)
ノアの隣にカインを寝かせ、二人の手を重ねる。二人の体力の均衡が取り戻せれば、すぐにでも目を覚ますはずなのだ。
人々を襲った狼は、きっとノアで間違いない。事実、カインがオルトロスの首の片割れである以上、捧げられたもう片方の頭がどこかに存在するはずなのだ。双子として生まれるはずだったノアになら、その首が宿る可能性だって大いにある。自我を保てないのは慣れていないからだ。翼はあるのに飛べることを知らなかった小鳥が、大きな鷹に襲われて巣を飛び出したら。飛べないことは無いが上手く動けるはずがない。
(たとえ人を殺しても、ノアに法は通用しないわ。皮肉にも、その生い立ちに救われてしまったわね…でも、そもそもの元凶はその体質なのだから、やはりマイナスなのか?)
堂々巡りを続ける思考回路を断ち切るべく、おもむろに窓を開け放って空を見上げた。夜空はどこまでも澄み渡り、星が静かに瞬く新月の夜だった。こんな日を、彼らはよく好むのだろう。
「早く帰っておいで…」
別に、命の危機ではないので心配はない。だが、何かに祈らずにはいられなかった。
●●●
リリノアside
いうことを聞かない体ほど、どうして良いものかわからないモノは無いと思った。目の前が眩んで、体と頭と心がバラバラになって、もう疲れてしまった。
見えていた景色が色を失った。…ただ、赤い熱の色を残して。気がつくと、喉が焼けるような熱風の中、見覚えのない燃え盛る街の真ん中で、一匹の蝶を見つめていた。ヒラヒラと、煤で汚れた白い羽を舞わせながら、不安定に中をさまよう。不意に、その羽に触れてみようと手を伸ばした。触れればきっと、壊してしまうだろうことはなんとなく分かっていたが、それでも手はゆっくりと空を進み…その柔らかな羽にそっと触れた。その瞬間、蝶は一瞬で灰となり、赤黒い空へと吹かれてしまった。
私のせいで、その蝶は死んだ。灰になった。空気を割るような甲高い叫び声が辺りに響き渡る。…あぁ、私の、声だ。ざらついた声帯の痛みに心地よさを感じながら、ゆっくりと後ずさって何かに寄りかかった。そこにあったのは、洒落たウッドのティーテーブルだった。しかし、その三つ足の1本は焼け焦げて短くなっている。そのためにバランスを崩したのか、テーブルは傾いている。地面に落ちている割れたグラスからは、ぬるくなったワインが1滴ずつこぼれ落ちていて、まるで砂時計がこの世界の終わりまでをカウントダウンしているように見える。
なにも、ない。この燃える世界には見覚えがあった。…いや、見たことがあるのは私ではない。きっと、私に宿る神たちの…誰かの、記憶だ。
『リリノアよ、お前は知っているはずだよ』
不意に、優しげな男の声が脳裏に響いた。貫禄のある、少ししゃがれたようなその声はどこか安心感を覚える。
『よく、思い出してごらん?』
言われるままに、暑さで思考を停止させ掛けていた頭を回して考える。誘導尋問のように、ゆっくりと導かれているような気がした。
燃え盛る、景色。空は赤黒い…きっと、あれは雲。そして、黒煙が立ち上る。人々は一瞬にして消されたようだ。この街は、人々を殺すために燃えているんだ…そうか。なるほど。確かに、私の記憶の中にあったんだ、この景色は。
『思い出したようだな。』
はい、思い出しました。ここは、ソドム。信仰を退けた人々に天罰が下った街。神の怒りを買った、哀れな都だ。
『これからどうするかは、お前の自由だよ。』
彼はなにか助言してくれたようだ。誰もが縋りたくなるような寛大な心が滲み出ている。私なんかに優しさをかけてくれる人を、私は片手に数えられるくらいしか知らない。ならば、彼は誰だろう?
『私のことは、思い出さずとも良い。もう、帰る時間だよ。愛すべきものが出来たのだろう?』
えぇ、帰ります。今ならきっと、ちゃんと帰れる気がするから。
待っててね、カイン。もうすぐ帰るから。
ねぇ、方舟の少女。貴女はその命を繋ぎとめるものが何なのか、知ってる?
猪に突き殺された美しい青年は、次に生まれた時に守りたいものができたの。でも人は、守るものをつくると極端に弱くなるわ。だって、守りたいものが守れなければ自分は無事でも痛いもの。
だから馬鹿な真似はやめなさいって言ったのよ、私。それなのに、彼は命を半分投げやったわ。自分の血から咲いた花が止めようとしてるのに、聞く耳を持たなかったのよ。神話に逆らった異端児の末路は脱獄に等しいわ。
でもね、現代だからこそ許される、逃亡に見合う訳があるのよ。それはね…
●●●
アネモネside
男の手からひったくるようにノアを抱き寄せると、その身体は異常なほどに冷たく、不謹慎にも死んでいるのかと思ってしまうほどだった。
「おいノアしっかりしろ!」
自分の気が動転しているのが嫌な程にわかる。医者たるもの、いかなる時も冷静でなければならないというのに。いつか手元が狂えば、添い寝しても牙を向かない迄に慣れていてもそのメスで人を殺してしまうだろう。
「どうした、何があったんだ」
「はい…私達もどうしたものか把握しかねるのですが」
なるべく揺らさないようにベッドに寝かせるも、虫の息で冷えきった少女はよく出来た人形のようだった。しかし、その身体は吐き気がするほどに血の匂いを漂わせ、それは私を現実に引き戻すには十分すぎた。
「まず、給仕のデメーテルが意識不明で病院に搬送されました。他にも、命や意識に別状はなさそうなものの、深手の傷を負ったものが屋敷内に多発しております。そして、被害者の証言によると、大きな銀狼が暴れていたとのことです。」
「銀狼…だと!?」
背骨が盛大な音をあげて軋み、凍った。冷たい脂汗が首筋を伝い、喉元にナイフを突きつけられているような恐怖に煽られる。
「はい。ただ、その狼は自我を失って暴れているようだった、と。最終的に、首輪を引かれる犬のように2階の書庫に飛び込んでいったようで…それと同時に静まり返ったので駆けつけた私が書庫に…」
「…その狼はどうした」
「それが…姿が見えなくなりまして、代わりのようにリリノア様がこの状態で倒れておられました。」
嫌な予感が的中してしまったようだった。しかし、どこか安堵しているような自分さえいることに我ながら驚く。
「そうか…」
力無く横たわる少女の服を紐解いてゆく。ついいつもの癖で無遠慮に手を出してしまったが、それに気づいた男が大きく2歩下がった。なので手を止めずに出血元を探ろうとすると、血濡れた胸元に傷跡は見受けられなかった。
「吐血…血涙か。目立った外傷はない…異端児の治癒力が働いたか?」
とりあえず、と思って彼女の身体に切断前のガーゼをかける。と、そこで忘れかけていた存在を思い出した。
「っと、そういえばカイン、まだ起きてるか?」
ゆるりとソファーを振り向くと、汗を流して浅い呼吸を繰り返す弟の姿があった。
「悪いな、放置して。この部屋の中にいれば2人とも少しずつ体力を回復できる。眠ければ眠っちゃいな」
何を話しかけても虚ろなのか返事はない。しかし、私はこれから短くても3日は二人を見張ることになるだろう。具体的なことがわからない以上、治療の仕様が無いのだ。
「さて、ここは私が引き受けよう。今夜の会議、無期限で延期にさせてください。私はこの二人を抱えてしばらく引っ込まなければならないのでね。」
「致し方ありません。何かあれば、なんなりとお申しつけください。」
駆け込んできた男達が静かに扉の向こうへと引き下がって言った。
「…ふん、心にも思っていないことを。どうせリリノアも私も一族の厄介に過ぎないと考えているくせに。カインもきっと、素性が知れればこちら側に来てしまうのだわ。…あぁ、可愛い弟と義妹たち…あんた達は私がちゃんと守ってあげるからね。」
扉に向かって吐きかけた文句は、いつの間にか慈愛の言葉に変じていた。
スーツケースから布を取り出してお湯ですすぎ、カインの首元を優しく撫でると、ほぼ無意識だろう弟の口元が少しだけ緩んだように見えた。身体こそ私よりも大きくなってしまったが、いつまで経っても変わらずにあどけなくて愛しい。
(ノアちゃんのことを気遣ってあげるのもいいけど、あんたの腰も相変わらず細いわよ。ちゃんと成長は再開したのかしら?)
心の中で問いかけると、目から涙がこぼれそうになる。それをぐっと噛み殺して飲み下して清拭を続けた。
あまりにも哀れで残酷すぎた。私よりもずっと若いこの2人を取り巻く運命は、茨の道や針の山を次々と繰り広げてくる、まさに生き地獄だ。私の存在意義は、そんな彼らに委ねられている。私があのままイヴになっていたら、ノアもカインも生まれなかったのだろうか。そうしたら、私は誰かを愛しく思うことがあったのだろうか。
考え始めるとキリのない、でも何度も考えたことである。
「さて、あとは変化が現れるまで様子見ね。」
誰が聞いているわけでもないのに、敢えて口に出すことでケジメをつける。長い一人暮らしが生んだ奇妙な技だ。
ソファーに横たわるカインの脇に腕を回し、ゆっくりと抱き上げる。こいつの身体が軽いのも事実だが、私の腕も鍛えられたものだ。最近の医療機器は大型のものが多いから、というのもあるだろう。しかし、一族にも親にも見放されたカインを育てたのは私なのだ、その事実は誰にも譲らない。
実際、私は一族に腹を立てているのだ。もちろん私とで馬鹿ではないので表に出すことは絶対に無い。だが、ノアやカイン、時には私だって利用する一族に腹ただしい以外のどんな感情を抱けるのか?
(この子達に罪はないわ。あぁ、どうして私が母親じゃないの!?私が母親ならば悪魔の子だろうと愛してあげるのに…悪魔の子?よっぽど一族の人間達の方が悪魔じゃないの!!)
ノアの隣にカインを寝かせ、二人の手を重ねる。二人の体力の均衡が取り戻せれば、すぐにでも目を覚ますはずなのだ。
人々を襲った狼は、きっとノアで間違いない。事実、カインがオルトロスの首の片割れである以上、捧げられたもう片方の頭がどこかに存在するはずなのだ。双子として生まれるはずだったノアになら、その首が宿る可能性だって大いにある。自我を保てないのは慣れていないからだ。翼はあるのに飛べることを知らなかった小鳥が、大きな鷹に襲われて巣を飛び出したら。飛べないことは無いが上手く動けるはずがない。
(たとえ人を殺しても、ノアに法は通用しないわ。皮肉にも、その生い立ちに救われてしまったわね…でも、そもそもの元凶はその体質なのだから、やはりマイナスなのか?)
堂々巡りを続ける思考回路を断ち切るべく、おもむろに窓を開け放って空を見上げた。夜空はどこまでも澄み渡り、星が静かに瞬く新月の夜だった。こんな日を、彼らはよく好むのだろう。
「早く帰っておいで…」
別に、命の危機ではないので心配はない。だが、何かに祈らずにはいられなかった。
●●●
リリノアside
いうことを聞かない体ほど、どうして良いものかわからないモノは無いと思った。目の前が眩んで、体と頭と心がバラバラになって、もう疲れてしまった。
見えていた景色が色を失った。…ただ、赤い熱の色を残して。気がつくと、喉が焼けるような熱風の中、見覚えのない燃え盛る街の真ん中で、一匹の蝶を見つめていた。ヒラヒラと、煤で汚れた白い羽を舞わせながら、不安定に中をさまよう。不意に、その羽に触れてみようと手を伸ばした。触れればきっと、壊してしまうだろうことはなんとなく分かっていたが、それでも手はゆっくりと空を進み…その柔らかな羽にそっと触れた。その瞬間、蝶は一瞬で灰となり、赤黒い空へと吹かれてしまった。
私のせいで、その蝶は死んだ。灰になった。空気を割るような甲高い叫び声が辺りに響き渡る。…あぁ、私の、声だ。ざらついた声帯の痛みに心地よさを感じながら、ゆっくりと後ずさって何かに寄りかかった。そこにあったのは、洒落たウッドのティーテーブルだった。しかし、その三つ足の1本は焼け焦げて短くなっている。そのためにバランスを崩したのか、テーブルは傾いている。地面に落ちている割れたグラスからは、ぬるくなったワインが1滴ずつこぼれ落ちていて、まるで砂時計がこの世界の終わりまでをカウントダウンしているように見える。
なにも、ない。この燃える世界には見覚えがあった。…いや、見たことがあるのは私ではない。きっと、私に宿る神たちの…誰かの、記憶だ。
『リリノアよ、お前は知っているはずだよ』
不意に、優しげな男の声が脳裏に響いた。貫禄のある、少ししゃがれたようなその声はどこか安心感を覚える。
『よく、思い出してごらん?』
言われるままに、暑さで思考を停止させ掛けていた頭を回して考える。誘導尋問のように、ゆっくりと導かれているような気がした。
燃え盛る、景色。空は赤黒い…きっと、あれは雲。そして、黒煙が立ち上る。人々は一瞬にして消されたようだ。この街は、人々を殺すために燃えているんだ…そうか。なるほど。確かに、私の記憶の中にあったんだ、この景色は。
『思い出したようだな。』
はい、思い出しました。ここは、ソドム。信仰を退けた人々に天罰が下った街。神の怒りを買った、哀れな都だ。
『これからどうするかは、お前の自由だよ。』
彼はなにか助言してくれたようだ。誰もが縋りたくなるような寛大な心が滲み出ている。私なんかに優しさをかけてくれる人を、私は片手に数えられるくらいしか知らない。ならば、彼は誰だろう?
『私のことは、思い出さずとも良い。もう、帰る時間だよ。愛すべきものが出来たのだろう?』
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