二人の時間2。

坂伊京助。

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真夏のまなったん。スペシャル。

夏祭りで二人。

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 八月も中旬に入り、夏は遠慮なしにその暑さを存分に発揮している。そんな、夏の風物詩である夏祭りには、今年も多くの人々が足を運ぶ。そして、屋台から香る食べ物の匂いや温度、人混みの湿度なども含めての祭りだ。そして秋本真夏も現在、夏祭りに絶賛参加中だ。髪の毛を後頭部の上の方で纏めている。その姿からは、可愛さというよりもむしろ妖艶という言葉の方が似合っている。浴衣は、淡い水色を基調とした紫陽花の絵が入ったものを着ていて、夏祭りの賑やかな会場という場で一人、恋人を待っていた。手にはもう半分以上は、溶けてしまってほとんど原型を留めていないかき氷を持って、会場の隅の方にある小さなベンチに一人座っている。
「はぁ、まだかなぁ。」
待ちくたびれてしまった真夏のその口から小さな不満が無意識に零れる。そんな真夏の姿を見つけて、若い男の二人組が不敵な笑みを浮かべながら近づいて来る。真夏自身もその二人の存在には気が付いていたが特別、警戒をする程は気にしてはいなかった。それよりも真夏は、待ち合わせをしている恋人のことばかりを考えていた。本当なら今頃、横にいて一緒に夏祭りを楽しむはずだったが、急な仕事で一緒にではなく後から合流をすることになってしまった。そして、約束をした時間まであと十五分。
「あれ?お姉さん一人??」
若い男の二人組の内の一人が、真夏を顔を覗き込みながら声をかけてきた。しかし、今の真夏には男の声は届いていそうにない。
「おーい?お姉さん??聞こえてる?」
男の一人が真夏の肩を揺らした。
「えっ!?」
体を揺らされて自分の目の前に男が二人立っていることにようやく気がついた。
「あ、やっと気がついたね~、お姉さん一人?俺らと遊ばない?」
「ごめんなさい、私、人を待っているので。」
そういって真夏が男の手を払って立ち上がろうとしたその時、両肩を上から押さえつけられ強引にベンチに戻され、両脇に男たちが距離を詰めて座った。左右の腕は、それぞれの男に掴まれ立つことは出来ずにいた。
「ねぇ、いいじゃん!俺たちと楽しもうよ!」
「いや、止めてくださいっ!」
人の通りが少ない場所ということもあって真夏のことを助けてくれる人物はいなかった。
「こんな恰好で一人って完全に俺らのこと誘ってたんだろっ?」
「誘うって、何ですか?いいから止めてっ、離してっ!」
一人が顔を強引に自分の方に向かせて唇を奪おうと顔を近づけいる。そして、もう一人の男の手が真夏の太ももの辺りからゆっくりと浴衣の中に滑らせようとしていた。真夏は、恐怖から声を出せずにいた。
「おい!お兄さん達、俺らも混ぜてくれよ!」
まるで谷底に住んでいる化け物のような声が聞こえた。
「うるせぇーな!邪魔すんなっ!!」
声の主を見てさっきまで、真夏に絡んでいた男達は唖然としたまま凍りついたように動かなくなってしまった。その姿を見れば誰もが同じ様になるのは当たり前だろう、真夏と男たちの視線の先には、約十五~十六人の人相が悪く、今にも噛みついて来るのではないかという程の気迫を感じさせる男達がいた。法被の下からは鮮やかな色で描かれた龍や虎や華などが顔を覗かせていた。そんな集団の先頭に立っている男は、身の丈は二メートルくらいの筋骨隆々の渋い男だった。
「男二人で、そんな可愛い子を虐めてるのは見過ごせないな、そんなに元気があるなら俺らと仲良くしようぜ。」
「ひ、ひぃーー!!!」
二人組は、腰を抜かしながら慌ててその場を去っていった。
「彼女さんは、無事だぜ。」
大男がそういうと集団の影から、早百合が顔を覗かせた。早百合と目が合いそれまでの緊張から解き放たれた真夏の目からは大粒の涙が溢れだす。
「真夏!おまたせ!」
「早百合~~!」
真夏の元に駆け寄る早百合。
「一人にしてごめんね?怖かったね?」
「私、怖くてでも、声も出ないし力も入らなかった~」
「うんうん、もう大丈夫だからね?」
号泣している真夏の背中を摩っている早百合の姿を強面の男達は安心した表情で二人を見守ってから静かに早百合に手を振り、その場を去った。
「う、ううう、。」
「ほら、真夏もう泣かないの!真夏は笑顔が可愛いのに台無しだよ?」
「う、うん。」
「浴衣、似合ってるよ!私の為に着てくれたの?」
「うん、」
「凄く似合ってるよ!ほら、もっとよく見せてよ!」
「でも、泣いたから目、腫れちゃってるし、今の私、可愛くないよ。」
「そんなことないよ?真夏はいつだって可愛いよ!ずっと私の一番だよ!!」
「私も早百合が一番だよ!」
「うん!ありがとう!ほら!花火始まるよ!た~まや~!」
「花火、綺麗だね!」
「花火よりも真夏の笑顔の方が綺麗だよ!」
「もう、ばかっ!」
夏の空に咲いた大輪の下では、早百合の横で満面の笑みを浮かべる真夏がいる。その笑顔には、夏の風物詩の花火も敵わずに空に打ち上がっては夜空に静かに消えていく。

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