二人の時間。

坂伊京助。

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ゆいの日常。

二人は友ダチ。<後編>

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百合菜の怖い表情を初めて目の当たりにした。まさか、渡邊さんの事が好きだったなんて想像もしなかった。あの時、怖さで体が動かなくなってた私を綾香が連れ出してくれた。でも、次の日からも変わらずに百合菜は学校で一番の人気者でキラキラと輝いていて、対して私はクラスで目立たない地味な存在。そんな今までと変わらない日常がまた始まる。
「ゆいっ!おはよ!相変わらず暗いなぁ!」
優衣がいつもの様に一人静かに、登校をしていると後ろから元気に勢いよく肩を組まれた。突然の出来事に優衣は、全身に力が入り体を竦めた。
「お、おはよう、早いね?」
「びっくりさせてごめんな!久しぶりに授業受けようと思ったんだけど、あたし真面に通ってないから友達とかいないからさ、優衣と一緒に行こうと思ってさ!」
「あっ、う、うん。」
「どうした?もしかして迷惑だったか?」
「いや、そっそんなことないよっ!」
「そっか、それなら良かった!」
そうして二人が学校に向かって歩いていると、後ろか二人を軽やかに追い抜きながら優衣の耳元に囁く声が聞こえた。
「おはよう、朝から、大変そうだね。」
優衣は、その声と後姿ですぐに里佐だと分かった。
「今の渡邊だろ?優衣と仲良いよなぁ。」
「仲良いっていう程じゃないよ。」
「ふーん、まぁでも今日は、あたしに付き合ってもらうからな!」
「あっ、うん!」
その日の優衣の一日は、普段の平凡な一日とは少し違ってカロリー消費の激しい一日だった。授業中に綾香が教師と喧嘩になりそうになる度にそれを止めたり。昼休み明けの午後の授業を屋上でサボろうとする綾香をなんとかして教室まで連れて行ったりと優衣の人生の中でも一番といっていいくらいに疲れた一日になった。
放課後、職員室に呼び出しをされた綾香を一人、正門で優衣は待っていた。
「優衣っ!」
何も考えずにただ立っていた。優衣の目の前を次々と生徒たちが通り過ぎていく。しかし、その中の生徒の一人が優衣の目の前にきて両手で頬を包んだ。
「えっ?!」
優衣の目の前にいたのは里佐だった。
「さっきからボーっとしてたけど、どうしたの?誰か待ってるの?」
「う、うん」
「もしかして朝、一緒に登校してた人?」
「うん、先生に呼び出されて職員室に行ってるから、待ってるんだ。」
「へぇ~、私も一緒に待っててもいい?」
「えっ?」
「いや、迷惑だったら帰るけど?」
「いや、迷惑なんてこと無いです!でも、どれくらいかかりか分かりませんよ?」
「だったら余計に優衣を一人で待たせおくことなんて出来ないよ。」
「ありがとうございます。」
「でも、優衣がああいうタイプの友達がいるって意外だったかも。」
「ああいうタイプ?」
「いやそのなんていうか不良?っていうのかな?」
「見た目は確かに少しインパクトが強いかもしれないけど綾香は、凄く優しくて私の事を助けてくれるし、話してても楽しいよ!誤解はされやすいかもしれないけど、里佐も仲良くなれると思うよ!絶対っ!」
「そっか!優衣の友達のこと悪く言っちゃったみたいでごめんね?別にそういうつもりじゃなかったんだ。」
「私こそ、いっぱい喋っちゃってすいません!」
「いいよ、ちょっとびっくりしたけど、優衣が友達想いなのは分かったよ!やっぱり優衣は優しいね!」
「ありがとうございます。」
「あのさ、優衣。」
「はい?」
「もうそろそろ、敬語やめない?」
「え?」
「だって、クラスメイトだし私たち友達でしょ?」
「は、はい。」
「じゃあ、試に私の名前読んでみてよ!」
「え?」
「いきなりそれは、ちょっとハードルが、、、。」
「えぇー!優衣に名前、呼んでほしいなぁ~。」
「えっ!?じゃ、じゃあ。」
優衣の心臓が自分史上最高に素早く動き始める。すぐ横にいる里佐にドクドクという心音が聞こえてしまいそうなくらいに激しく動き続ける。里佐は、純真無垢な子どものように目を輝かせて優衣に名前を呼んでもらう事を待っている。優衣は次第に顔に少し熱を持ち始める。
「り、里佐っ!」
優衣は、顔を真っ赤にして目を瞑りとても大きな声で里佐の名前をその華奢な体からは想像も出来ないくらいに大きな声を絞り出した。正門を通りすぎている生徒たちは、優衣と里佐の方を見ながら帰って行く。
「そんなに大きな声出るんだね!」
「あっ、ごめん!」
「顔、真っ赤だけど大丈夫??」
「う、うん。」
優衣は、両手で顔を抑えて下を向いてその場にしゃがみ込んだ。
「おーい!優衣~!お待たせ!」
校舎の方から手を振りながら綾香が走ってくる。しかし、しゃがんでいる優衣にその姿は、見えていない。綾香に気が付いた里佐が優衣の手を取ってゆっくりと立たせる。
「ほら、待ってた友達来たよ?」
「え?あ、本当だ。」
「ごめん、ごめん、思ったよりも説教が長くてさ!」
「大丈夫だよ!り、里佐と待ってたから。」
「佐々木さんだよね?渡邊です!勝手に待たせてもらちゃいいました!よろしく!」
「おう、よろしくな。」
「じゃあ、三人で帰ろうか!」
「う、うん、そうだね、」
「ちぇ、三人かよ、」
「あれ?もしかして私は、お邪魔かな?」
「いや、そんなことはないよ!ね?綾香?」
「ま、まぁ、優衣がいいならあたしは、いいけど。」
「じゃあ、決まり三人で帰ろう!」
二人は、里佐を含めて三人で帰る事になった。三人で帰りながら綾香が優衣に小さな声で話しかける。
「渡邊ってあんなに明るい奴だったんだな。」
「うん、私も最初はビックリしたけど普段の静かなイメージと違って明るくて楽しいよ?」
「へぇ~、そうなのか。」
二人の会話は、おそらく里佐に聞こえているが里佐は何も聞いていなかったように振り返り二人に提案する。
「駅前のゲームセンターで遊んでいかない?」
「おっ!ゲーセンかぁ、いいな!行こうぜ優衣!」
「まぁ、少しだけなら。」
「よしっ!決定!じゃあ出発!」
三人は、学校帰りの学生で賑わう駅前のゲームセンターで遊んだ。通いなれているのかそこでは、綾香が大活躍した。優衣の表情も緩まり、自然と笑顔がこぼれる。
「ゲームセンターって初めて来たけど結構楽しいね!」
優衣のその天使のような笑顔に里佐も綾香も心のそこから癒された。
「でしょ!優衣のこんな可愛い笑顔見られて良かったよ!ね?佐々木さん?」
「確かに優衣がこんなに笑ってるのは初めて見たな!」
「あの、二人にちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
「何??」
「ん?何だ?」
「いやその、二人とプリクラを撮りたいんだけどいいかな?」
里佐と綾香の心は言わずもがな決まっていた。ただでさえ可愛い優衣がそれに加えて笑顔という武器を合わせ持ち半ば照れながら頼み事をする姿は可愛さを具現化した様子だった。
「うん!いいね!せっかくだし撮ろうよ!」
「まぁ、そうだな記念だし撮るか!」
「やったぁ!」
そして、三人で思い出を作り、その日は帰る事にした。
「今日は、つき合わせちゃってごめんね!じゃあ、また明日!」
里佐は、元気に駅の構内へと走って行く。
「うん、じゃあね!」
「じゃあな!」
「優衣、一人で帰れるか?少し暗くなってきたし送っていこうか?」
「え?いいの?綾香も電車だよね?時間大丈夫なの?」
「大丈夫だよ!まだ夕方だし最悪、知り合いの家に泊まるからさ!」
「でも、家の人とか心配しない?」
「大丈夫だって!ほら帰るぞ!」
完全に綾香のペースのまま優衣は、家に着いた。
「わざわざ、ありがとね!」
「まぁ、友達だからな!じゃあ、また明日!」

その日の夜、二十三時頃の公園に人影が二つ。
「悪いなこんな時間に呼び出して。」
「別にいいよ、でどうしたの?」
「実はさ、今日の放課後に呼び出されたんだけどさ。」
「らしいね、だから一人であの子が待ってたんでしょ?」
「おう。」
「で?何?」
「あぁ悪い、それでさ実は、退学することになってさ。」
「は?ちょっと待って、どういうこと?」
「出席日数も足りないし、この間の喧嘩が原因でさ、、、。」
「ふーん、されさ、あの子には言ったの?」
「いや、言えるわけないだろ。」
「そうやって、また勝手にいなくなるんだね。」
「わるい。」
「別に私と綾香はもう終わってるしどうでもいいけど、あの子は、あんたの事を大事な友達だと思ってるのに裏切るの?」
「べ、別に裏切るわけじゃねぇよ!」
鋭く冷たい目で里佐が綾香の胸倉を掴み顔を近づける。
「優衣のこと傷つけるなんて絶対に許さないから。」
「わるい。」
そう言うと里佐は、綾香を突き放した。綾香は全身の力が抜けた。
「じゃあ、私は帰るから。」
「・・・・・。」
「それともう二度と優衣の前に現れないでね、優衣のことは私が守るから!」
そう吐き捨てて里佐は、綾香を一人置いて公園を後にした。

次の日の朝。
「おはよ、優衣。」
「どうしよう、里佐。」
「なに?どうしたの?」
「今日、私の家のポストに綾香から手紙が入ってて、これなんだけど。」
「ちょっと借りるね。」
その手紙には、退学をすることと引っ越すということと共に、優衣に直接、言葉で伝えられなかった事への謝罪が綴られていた。その手紙を読んでショックを受けた優衣はその場で泣き出してしまった。里佐は、泣き出した優衣を屋上に連れて行き二人きりで暫く、優衣が落ち着くまで優衣を優しく包み込んでいた。
 少し肌寒い曇り空の下の屋上で二人。
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