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退屈な男
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しおりを挟むそのゲームにはチャット機能も備わっていて、オンラインゲームに有りがちな殺伐とした空気は一切なく、いつも和気藹々としている。
その中でも『bell22』というユーザーネームのフレンドとは、以前チャットの中で俺がポロッと、
『私生活だと誰も俺の内面を好きになってくれないんすよね』
と愚痴ってしまった時に、個別チャットで、
『実は俺も似たような感じなんです。なんか虚しいですよね』
と反応してくれて以来、頻繁に個別チャットで愚痴を聞き合ったりする仲になり、密かに心の拠り所にしている。
その日も、いつものように共闘して、チャットで下らない会話をしてから眠りに就くつもりだった。
チャットルームの画面でメンバーが発した、『STS』という文字を目にするまでは。
『STS知ってる人います?』
『なんすかそれ、自分知らないです』
『なんか、ゲイが集まってエロいこと勉強するところらしいですよw』
『えっやばwwwそれ法律的に大丈夫なんすか?w』
『俺も詳しいことは知らないんですけど……今ちょっと話題になってるみたいですよ。サイトのトップにも広告出てるみたいだし、他のゲイ向けのアプリとかでも』
『へーなんかちょっと気になる』
会話に交ざるでもなく、ただ流れていく文字をぼんやりと眺める。
──STS…………気になる。めっちゃ気になる。
気付くと俺は、別窓でサイトトップからSTSの広告を見付けリンク先へと飛び、そのページを何度も読み返していた。
Sexual Techniques School、通称STS。
そこはつまり早い話、セックスの学び舎だった。
「……セックスを学ぶってなに?正気かよ」
なんて、つい独りでツッコミを入れてしまった俺は間違っていないと思う。
だって、セックスって人から教わるものでは無かった筈だ。
それとも俺が無知なだけで、実はセックスって人から教わるものだったのか……?
イマイチ自分の中の常識に自信が持てず、そのままページを読み進めてみる。
講習は、毎週金曜日の十八時半から三時間半前後(回によって異なる)、全十三回。
内容としては、AV男優でもある講師による座学から始まり、映像や実際の性行為の鑑賞、生徒同士による実技も有りとツッコミどころ満載だ。
しかも、修了時発表なるものが有り、ペアを組んで全生徒の前で行為を見せ、合格者は修了証を貰うことができ、その修了証があるとAV業界や風俗店などで働く時に給料が良くなるらしい。完全にどうかしている。
募集要項は、二十歳以上四十歳未満の男性で、定員はタチネコそれぞれ六名。
定員を超えた応募があった場合は抽選となり、タチネコどちらかが定員割れした場合、一名に対して複数名の相手役がつく場合も有るそうで。
それってネコが定員割れした場合ネコ側の身体の負担が大き過ぎるのでは……?とか、そもそもこれはこの国の法律的にアウトなのでは……?などと色々思うところはあったけど。
たとえば、スクール内ではフルネームは伏せ、名前の一部もしくは偽名を使わなければならない、とか。
予め性病検査を受けて、その結果を本人確認書類と一緒に送付しなければならない、だとか。
はちゃめちゃなスクール説明文の下に、なんちゃら委員会の許可番号と共にそんなふうにちょっとまともっぽいことが書かれていたもんだから。
エロいことに興味がある訳ではない。
……いや、訂正。俺だって健全な成人男性なのだから、それなりに興味はある。
だけど、エロいことよりも、自分の知らない世界の話に大いに興味を惹かれた。
だから、震える指先で申し込みボタンをクリックしたのだって、決してエロいことがしたいからではない。
俺は、退屈な日常の中に刺激を求めていただけなのだ。
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