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騙された男
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しおりを挟む俺は元々、どっちかって言うと女の子の方が好きだった。
だけど仲の良い友人の中にゲイの奴がいて、そいつの話を聞くうちに段々そっちの方にも興味が出てきて、ゲイオンリーのパーティーに付き添いで行ったりもして、まぁそこでは特に何も起きなかったしその後も同性と付き合ったことは無かったけど、同性と付き合うことに対して抵抗もないから俺はきっとバイなんだなと思った。
そう自覚して少し経った頃、彼女が出来た。
その子は常にポジティブでサバサバしていてニコニコと笑顔を絶やさない、だけどちょっと甘えん坊な、まさに俺の好みど真ん中な子で。
可愛くて可愛くて堪らなくてめちゃくちゃ甘やかしたし、何度も何度も身体を重ねても飽きるどころかどんどん好きが増していった。
彼女とずっと一緒にいたい、そう思っていた。
でも、付き合って一年ちょっとが経ったある日。
「これ、お前の彼女じゃね?」
そう言って友人の一人が見せてきたスマホの画面には、幸せそうな笑顔で俺以外の男と手を繋いで歩く彼女の姿が映し出されていた。
しかも、相手の男は俺の知り合いで。
何かの間違いだと、彼女は浮気なんてしないと、その場では否定してみたものの、やっぱりどうしても気になって彼女に問い質すと、あっさり浮気を認められた上に、彼女の方から別れを切り出されてしまった。
彼女いわく、俺の愛情が重すぎたことが原因らしい。
ちなみに、浮気相手の男は俺と彼女が付き合っていたことを知らなかったそうだ。
心の底から惚れていた女性からの、突然の裏切り。
それは思った以上に俺にダメージを与え、俺は暫く荒れた生活を送った。
そんな俺を見かねた友人が、一人の女性を紹介してくれた。
彼女はおっとりしていて前の彼女とは正反対のタイプだったけど、笑顔が可愛くて、優しくて、料理が趣味で特に和食が得意という彼女が作ってきてくれた弁当が今まで食べたどんな料理よりも美味しくて、気付くと好きになっていた。
俺が好きだと告げると、涙を流しながら「私も」と言ってくれた彼女が愛しくて。
そうして、俺達の交際が始まった。
彼女の柔らかい笑顔と絶品の手作り料理は俺の心を癒してくれて、俺は絶対に彼女を幸せにしようと、彼女と一緒に幸せになるんだと、そう思っていたのに。
「ねぇ、隼一くん。お願いがあるの」
ある日、いつものように俺の家で彼女の手料理をご馳走になり、片付けを終えてまったりと過ごしていた時、そう言って彼女が一枚の紙を差し出してきた。
その紙には、三種類の壺の写真が載っていて、写真の横にはそれぞれの壺に対する説明文とその金額が書かれていた。
「この壺はね、家に置いておくと願い事を叶えてくれるらしいの。私の友達も、何人かこの壺を買って、願い事が叶ったって言ってて」
「マジで?すごいじゃん」
「そうなの。だからね、この壺、隼一くんと一緒に買いたいなって思って……ダメ……かな?」
愛しい彼女の願い事は出来るだけ聞き入れてやりたいとは思っていた。
でも、彼女が欲しいと言う壺は、一番安いものでも十万円と書かれていて、その時の俺の経済力的に即決出来る価格ではなくて。
「買ってあげたい気持ちはやまやまなんだけどさ。ちょっとだけ考えてもいい?」
「そうだよね。この金額だもん、すぐ決められないよね。うん、分かった。でも私、隼一くんとずっと一緒にいたくて。この壺を買えば、その願いが叶うかなって思ったの。だから、良いお返事待ってるね」
ずっと一緒にいたい、彼女もそう思ってくれていたと知り、愛しさが込み上げてくる。
と同時にムクムクと湧き上がってきた欲望に抗うことができず、その日初めて俺は彼女を抱いた。
「お前それ騙されてんぞ」
彼女に壺の話をされた翌日、早速彼女を紹介してくれた友人にその件について相談すると、騙されている、彼はそう言った。
差し出されたスマホの画面には、俺と同じような手口で壺を買わされた人達の、悔しさが滲み出る体験談がずらりと並んでいた。
そしてその体験談のすべてに、詐欺、や、宗教、と言った言葉が使われていて。
ごめん、あいつがそういう奴だなんて知らなくて……そう言って頭を下げる友人の言葉なんて、少しも頭に入ってこなかった。
それでも俺は、彼女を愛していたから。
もしかしたら、ただ状況が似ているというだけで、彼女は詐欺や宗教とは関係無いかもしれないし。
そうであって欲しいと強く願いながら、とりあえず壺のことは断ろうと彼女を呼び出し話をすると、
「あ、そう。買えないんだったら別れて」
いつものふわふわとした雰囲気からは考えられないほど冷たい声でそう言い捨て、彼女は部屋を出て行った。
「……ああ~...…俺もう女が信用出来ねぇよ…………」
立て続けにこっぴどい別れを経験した俺は抜け殻のようになっていて、そんな俺を呼び出して話を聞いてくれたのが、例のゲイの友人だった。
「じゃあもういっそのこと、男と付き合ってみるとかどう?隼一イケんでしょ?男も」
「えー……まあ、イケるとは思うけど……付き合ったことないからなんも分かんねぇし……」
「いや、最初は皆そうだから。結構いいよ?男も。後ろの具合とかもう最高」
「……なに後ろって」
「ケツだよ、ケツ」
「っはぁ!?マジかよ」
「興味ある?」
「……ん~……まあ…………無くはない…………」
「ふっふっふ。そんな欲望に従順な隼一くんにいいことを教えてあげよう」
「いいこと?」
「コレ見てみ?」
そう言って彼が見せてきたのが、このスクール……通称STSの、八期生募集のサイトだった。
流石の俺でも無茶苦茶な内容だなとは思ったけど、ぶっちゃけ興味津々だったし、何よりその時の俺は深く傷付いていて、相手が男だろうがなんだろうがとにかく癒されたかったから。
……そんなこんなで俺はSTSに通うことを決め、今こうして、ここにいる。
「ヒナどうしたん?ルイくんのことめっちゃ盗み見るやん。しかもほっぺた真っ赤やし。あ、もしかして、ルイくんの顔見てこの前のこと思い出したとか?ほんまにウブやなぁ」
「ち、ちが……っ!」
俺が過去の回想から現在に戻ってくると、ヒナがルイをチラチラ見てほっぺたを染めてることに気付いたリョウが、意地の悪い笑みを浮かべながらヒナの顔を覗き込んでいるところだった。
ヒナは赤く染ったほっぺたを更に真っ赤に染めて、慌ててブンブンと首を横に振って否定している。
「あれ、ちゃうかった?ほんならもし今日俺とヒナがペアになったら、俺の顔見たら思い出してまうぐらい気持ちくしたるからな」
「ひっ……」
「リョウお前……ドSなの……?」
「まあ、Mではないな。そう言うルイくんもヒナの反応見て嬉しそうにしてたやん」
「まぁ、可愛いなぁとは思ったけど…………」
「リョウくん、ヒナくんに意地悪しないで!」
「意地悪なんて心外やなぁ。可愛がっとるだけやで?」
「コタ、大丈夫だよ、ありがとう」
いつの間にか筋肉チームを抜け、リョウとの間にヒナを庇うようにして立ったコタに、大丈夫だと笑いかけるヒナは、どこか遠い目をしていて。
今回ヒナがリョウとペアになる確率は四分の一。
もし仮にヒナが、リョウがSだと知らずに今回の実技講習の相手役希望にリョウの名前を書いていたとしたらその確率は更に爆上がりする。
──コイツ、覚悟決めたな。
直感的にそう思うと同時に、リョウの目があまりにもガチ過ぎて、自分も攻める立場なことを忘れ、思わず心の中でヒナに合掌した。
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