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仮面の男
1 微※
しおりを挟む(……りん……かわいい)
「あっ、あ……あ、んん……ッ」
(……かわいい……もっと声聞かして?)
「むり……恥ずかしい……」
(大丈夫、俺しか聞いてないから)
「……ぅ、あっ、あっ、あんっ、あ、しゅん、くん、いく、ぃ、くぅ…………!」
……また、やってしまった。
脳内で、つい最近知り合ったばかりの人物に優しく囁かれているのを妄想しながら自分で自分を慰める。
それをすると終わった後虚しくなると分かっているのに、ここ数日はその人物を相手にした妄想が止められなくて、お気に入りのぬいぐるみに顔を埋めて自慰行為にふける生活を続けている。
俺は、子供の頃からずっと甘えただった。
人見知りだから初対面の人に自分からグイグイいくことは出来ないけど、慣れるとつい甘えにいってしまう。
特に好意を抱いた相手に対しては、常にどこかしらに触れていたいと思うし、抱き締めてもらったり髪を撫でてもらったりするのが堪らなく好きだった。
そんな幼少期を経て、小学生になってもそれは変わらず、中学生になると徐々に自分の恋愛対象が同性であることに気付き始めた。
そして都合のいいことに、俺が通っていた学校は中高一貫の男子校だったから、周りには沢山の男性がいた。
自分よりも体格のいい友達にふざけてハグされるたびにドキドキした。
自分よりも体格のいい先輩に肩を組まれるだけで顔が熱くなった。
自分よりも体格のいい先生に頭をポンポンされるとキュンキュンした。
甘えたい、可愛がられたい、構って欲しい。
毎日毎日そんな感情に支配されながら生活していたら、無意識のうちにスキンシップが激しくなっていたらしい。
ある日、当時所属していた野球部の先輩……それも、俺がひそかに好意を寄せていた人に呼び出されて、
「お前さ、もしかして男が好きだったりする?」
そう言われた。
あまりに突然かつ単刀直入な問い掛けに俺は答えることが出来ずただただ俯いていたら、彼は無言を肯定と捉えたのか、
「実はさ、俺、お前のこと気になってたんだよね。良かったら付き合って欲しい」
と言ってきた。
……告白された。生まれて初めて。しかも好きな人に。
そのことを脳が理解した瞬間、大袈裟じゃなく全身が喜びで震え、涙が溢れた。
その日から彼との交際が始まり、俺は毎日幸せだった。
毎日野球部の練習の後に寄り道をして、休みの日には一緒に買い物に行ったり映画を見に行ったり、至って普通のデートだったけど、彼と一緒にいるだけで全ての瞬間が特別だった。
部活帰りに寄った夜の公園で人生で初めて触れるだけのキスをした時のことは、今でも鮮明に覚えている。
この人とずっと一緒にいたい、心の底からそう思った。
……だけど、そんな幸せな日々はそう長くは続かなかった。
それは、彼の家に初めてお邪魔した日のこと。
「今日、家誰もいないから……」
と少し頬を赤らめながら、斜め下を向いてボソッと呟いた彼の言葉に込められた本当の意味を理解出来ないほど俺は純粋じゃなくて、ついにきた……そう思った。
俺は彼といつそうなってもいいようにネットで男同士のやり方や下準備の方法を調べ、実際に自分で試したりもしていたから、緊張はしたけど心も身体も準備万端だった。
彼も緊張していたのか家に着くまでほとんど会話は無く、着いてすぐに、
「シャワー……浴びる?」
と声を掛けられ順番にシャワーを浴びて、少し散らかった彼の部屋の、彼の匂いで満たされたベッドの上でキスをしながらシャツを脱いだ……ところまでは良かった。
だけど初めて好きな人とする大人のキスがあまりに気持ち良くて、それだけで甘い声を漏らしてしまった俺に彼は、
「……ごめん、声我慢出来る?」
そう言った。
確かに、いくらご家族が家にいないとは言え、あまり声を出すとご近所に聞かれるかもしれない。
俺は両手で彼の腕を掴み、必死で声を我慢した。
それからしばらく舌を絡める深いキスを続け、その間はどうにか声を抑えることが出来たものの、彼の手が俺の腰を撫で上げた瞬間、とうとう俺は声を抑えきれなくなり盛大に甘い悲鳴を上げてしまった。
性感帯に触れられているわけではないのに全身に快感が流れ、俺は訳が分からなくなって、彼の手が俺の素肌を撫でるたびに鼻にかかったような声を上げた。
すると、次第に昂っていく俺の身体とは逆に、下着の上からでも分かるほど膨らんでいた彼のモノは次第に質量を失っていき、ついには完全に萎れ、それを目の当たりにして思わずふぇ?と間抜けな声を出した俺に、彼は申し訳無さそうにこう言った。
「……ごめん。声出されると、ちょっと無理かも。マジでごめん。今日は帰ってくれる?」
と。
その後のことは、あまりよく覚えていない。
ただ、脱ぎ捨てた服かき集めて身につけ、送ろうか?と言う彼の言葉を無視して家を出て、気が付いたら自分の部屋のベッドの上にいた。
しばらくぼーっと天井を見つめていたらメッセージアプリに彼からのメッセージが届き、開いてみると、
『ごめん。別れよう』
それだけ書かれていて、そこでようやく俺の脳は事の次第を理解し、幸せだった日々が思わぬ形で幕を下ろしたことに、涙が溢れて止まらなくなった。
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