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仮面の男
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しおりを挟む『声出されると無理』
その言葉は、俺の心に暗い影を残した。
俺の声はきっと気色悪いんだ。
俺が声を出したから彼は萎えてしまった。
俺が声を出さなければ別れずに済んだ。
そう思ってしまって、その後高校三年生の時に恋人同士になった人と身体の関係にまで辿り着いた時、どんなに気持ち良くても、俺は声を我慢した。
すると今度は、
「鈴音とシても反応薄くてつまらない」
とフラれてしまった。
声を出せば萎えられ、出さなければつまらないと言われる。
俺はもうどうしたらいいのか分からなくて、それから暫くは恋愛をする気になれなかった。
結局その後の高校在学中と、大学生になってからも恋人は作らず、元々甘えたな俺は人肌恋しく、寂しくて堪らない日々を過ごしていた。
最後に恋人が出来たのが高三の時で、それから約五年間誰とも交際せずにいたけど、大学を卒業後に就職の為上京し、今勤めている会社に入社してすぐの頃、久々に恋人が出来た。
彼は同じ部署の同期で、背が高くてガタイが良く、大人っぽくてイケメンで女性社員達の注目の的だったのに何故かいつも俺のことを気にかけてくれていて、好きだなぁ……と気付くのにそう時間はかからなかった。
入社してから二ヶ月程が経った頃、スケジュールの関係で延期になっていた新入社員歓迎会が行われた。
そこで酔っ払ってしまった俺は、気付くと彼と二人でラブホテルにいて、まさに食われる寸前で。
ビックリした俺はつい、拒否するでも無くせめてエチケットとして洗浄だけはさせてくれ、と言ってしまって、目を見開いた後おかしそうに笑った彼に、
「嫌がらないんだね」
と言われたことを覚えている。
それから彼とセックスをした訳だけど、彼はすごく優しかった。
相変わらず声を出せない俺に何も言わず、ただただ快感だけを与えてくれて、初めて最後まですることが出来た。
そして、俺が声を出さなかったことには一切触れないまま、
「付き合おっか」
そう言ってくれた。
その日から彼との交際がスタートすると、久々に恋人が出来たということもあり、俺は彼に夢中になった。
会社でも人目を盗んで彼の手に触れたり、仕事が終わったあとや休みの日は少しでも彼といたくて他の予定を一切入れないようにしたり、二人きりの時は今までずっと我慢してきた分思いっきり甘えて、ハグやキスをねだった。
すると、初めのうちは優しかった彼が、徐々に素っ気なくなっていっていることに気が付いた。
そして交際をスタートしてから三ヶ月程が経ったある日、恐れていたことが起きた。
「別れよう」
その一言は、彼との恋愛にどっぷりハマっていた俺にとってそう簡単に受け入れられるものではなくて。
泣いて縋り、どうして?と理由を訊ねると、
「鈴音ってもっとアッサリしてるタイプかと思ってたんだよ。俺さ、いつも女達に言い寄られてるじゃん?アイツらみたいにベタベタされたり甘えられたりするの無理なんだよね。で、俺バイだから性格もアッサリしててセックス中にアンアンうるさくないお前とだったら付き合えそうって思ったんだけど、付き合った途端本性出してくるからちょっと堪えられなかった」
と、あまりにも残酷過ぎる台詞を言われてしまった。
甘えたいのに、甘えることも許されない。
声だってこっちは出したくても出せないのに、それが彼にとって逆に都合が良かった。
立て続けにこんなフラれ方をするなんて、もしかしたらありのままの俺を愛してくれる人なんてどこにもいないのかもしれない。
それでもずっと独りで過ごすのはあまりにも寂しくて、堪えられそうにない。
だから俺は、これから先もし誰かと交際をすることになったとしても、本当の自分を抑え込んで生きようと決めた。
……と言うよりも、三回も立て続けにこっ酷いフラれ方をしたせいで本当の自分をさらけ出すことが怖くなってしまった。
独りは寂しい、でも好きな人にフラれるのが怖い。
そんなジレンマに陥りながら日々の生活を送り、彼と別れてから五ヶ月程が経ったある日のこと。
たまたま、いつも自慰行為をする時に使っている玩具が壊れてしまい新しい物を購入しようと、よく覗いているゲイ向けのポータルサイトを開いた。
そのサイトが結構面白くて、ゲイ向けの店や男同士で入れるラブホテル、ハッテン場、クラブイベントの情報や、ゲイ向けの下着や玩具の通販、出会いを求める人の為の掲示板やチャット機能付きのRPG形式のオンラインゲームまであって、俺は仕事から帰ってきて余力のある日や休みの日なんかはそのオンラインゲームを楽しんでいる。
そしてそのゲームでの共闘中に、チャットで『誰も内面を好きになってくれない』とぼやいた『tiger_1』というユーザーネームのフレンドにシンパシーを感じ、思わず個別チャットを送って以来、彼に愚痴を聞いてもらったり彼の愚痴を聞いたりする時間も密かな楽しみになっていた。
その日はまぁまぁ疲れていたから、ゲームも個チャもせずさくっと玩具だけ注文して早く寝よう……と思い、サイトを開くと、ページの下部に見慣れないバナーが掲載されていることに気が付いた。
「……なにこれ……STS ……ってなに?八期生募集?」
いつもだったら気にも留めないと思うけど、何故だかその時は妙にそのバナーが気になって仕方なくて、まぁ見るだけならタダだし、とタップしてみると、進んだ先のページには信じられないような内容が書かれていた。
STSとはセックスの技術や知識を身に付ける為に不定期開講され、生徒同士が、他の生徒達の目の前で実際に性行為を練習するスクールであるということ。
その他にも常識的に考えたら有り得ないような文言がズラリとならんでいて、一瞬俺は夢の中にいるのかと思ったほどだ。
だけどその下には意外と常識的なことも書かれていた。
例えば、入校希望者は性病検査や本人確認書類が必須だったりとか、施設自体が然るべき機関の許可を受けていることを証明する許可番号だったりとか、そういう部分を見ていたら、
──ちょっと、行ってみたいかも……。
そう思ってしまった。
セックスの技術や知識を学ぶといっても、実際にどういった内容かはまだ分からない。
だけど講師となる人は間違い無く経験豊富な人だろうし、このスクールを卒業するとAV男優やウリセンとして働く時に有利になるなどの文言もあったことから察するに、きっと生徒側もそういう道に進むような、俺よりも遥かに経験豊富な人達が揃っているだろうから、もしかしたら俺のこの状況を変えるきっかけを見つけることが出来るかもしれない。
俺はいてもたってもいられず、その場ですぐに応募フォームに必要事項を記入して送信し、まだ定員の関係上入学出来ると決まった訳では無いにも関わらず、近場で性病検査を受けられるクリニックを探し、翌日には予約を入れていた。
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