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仮面の男
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しおりを挟む今日は、五回目の講習の日。
正確に言うと初回は施設紹介やら自己紹介やらだけだったから、講習自体はこれが四回目。
いつもの建物のいつもの部屋へと到着すると、既に何人かが席に着いて談笑していた。
今となってはこのスクールに入学して良かったと思ってるけど、実は初回の時、俺はここへ来てしまったことを猛烈に後悔した。
俺以外に抱かれる側……つまり、ネコ側の生徒は二人いて、その内の一人、ヒナはセックスどころかキスすらしたことが無かったらしく、事ある毎にピュアでウブな反応をするし、俺みたいに甘えたなタイプでは無さそうだけど、ふにゃんと垂れた目が可愛くておっとりとした雰囲気で守ってあげたくなる、まさに男ウケの王道をいくような感じの子で、もう一人のユウという男は見た目は素朴な感じで大人しそうなのに喋ると面白いし、純粋そうな見た目とは裏腹にAV男優を生業にしているからかスイッチが入るとものすごく妖艶なオーラが出て、相手とのその行為を心から楽しんでいるのが伝わってきて、彼もまた、ヒナとは違った意味で男に好かれそうなタイプで。
それに比べて俺は、本当の自分を隠す為の殻を被ったせいで愛想は悪いし仏頂面だし好かれる要素なんて一個も無くて、誰も俺になんか見向きもしないだろうな……そう思っていた。
だけど実際に講習が始まってみると、俺の予想は良い意味で外れた。
皆、仏頂面でほとんど喋らない俺に嫌な顔一つせず、優しくしてくれた。
マサという生徒とキスの実技講習を受けた時には、俺が触れられたくないと思っていると誤解されて彼を戸惑わせてしまったけど、誤解が解けてからは普通に接してくれた。
そして特にリョウという一つ年下の男は、ただでさえ全員優しいのにその中でも頭一つ抜けて優しかった。
前回前戯の実技講習を一緒に受けた時、焦れったいぐらいに優しくされて脳みそがとろけそうになったし、その逞しい身体から溢れ出る包容力に身を任せたくなった。
でもやっぱり俺は、本当の自分をさらけ出すことは出来なかった。
リョウは優しい。
だけどそれは俺をこっぴどくフッてきた三人も同じだったから。
三人とも、最初はすごく優しかった。
なのに、俺の声を受け入れてくれなかった。
声を出せない俺を受け入れてくれなかった。
甘えたい俺を受け入れてくれなかった。
だからリョウも内心は……そう思ってしまった。
そして何より。
「おー、リン!おつかれー!今日も早いなぁ、会社近いのか?」
「……いや、べつに」
「そうかぁ。まぁあんま近いと会社の人らに見られたら困るしなぁ、ある程度距離あった方がいいよな。あ、リンってなんの仕事してんの?」
「……経理だけど」
「経理かぁ!経理も大変そうだよなぁ!俺営業だけど経理部の知り合いの愚痴とかよく聞かされるわ!」
「……ふぅん」
……何より、このバカデカい声で馴れ馴れしく話しかけてくるシュンという男が、ここ最近俺の脳内を独占状態なのだ。
一人でする時の妄想のネタにさせてもらってるのも、このシュンくんだ。
彼は、今まで付き合った三人や、仲の良い友人の中にはいないタイプの人だった。
コミュニケーション力が異常に高くて、優しく包み込んでくれるというよりかはどちらかというとグイグイ引っ張っていってくれるようなタイプな感じがする。
そして、人懐っこい笑顔を振りまいて周りを明るく照らす、太陽みたいな人だな、と思った。
そんな彼とキスの実技講習を受けた時、彼は俺に向かって、
「可愛すぎてできない」
そう言った。
俺は正直、彼がなんでそんなことを言うのか理解出来なかった。
ヒナやユウに言うならまだしも、俺みたいにずっと仏頂面をしてる奴のどこが可愛いと言うのか。
そのことを伝えると、今度は彼はこう言ったのだ。
「それってさぁ、本当にリンなのか?」
と。
言われてる意味が分からなくて、たっぷりの間の後に思わず気の抜けたような声を出してしまった俺をよそに、彼は続けた。
「なんでか分かんねぇけど、俺にはリンが無理して仏頂面してるように見えるんだよ。その仏頂面してるのが本当のリンなんだったらごめんだけど」
その言葉を聞いて、俺は泣きそうになった。
俺が、気付かれたくないけど気付いて欲しい……そう思っていた本当の自分。
それを隠すべくずっと見えない殻を被っていたと言うのに、この男は、まだ会うのは四回目なのに、しかもまともに会話を交わしたことすら無いのに、あっさり見抜きやがった。
しかも、仏頂面してたって可愛いだとか、守ってやりたくなるだとか、俺が欲しくて堪らなかった言葉を簡単に投げて寄こした。
『可愛すぎてできない』なんて言って、本当に触ってこないようなヘタレなのに。
今まで俺が好きになった相手は皆歳上の、大人っぽくて落ち着いたタイプだったけど、それとは真逆で騒々しくて、歳上のくせに子供っぽい、そんな彼に、俺はすっかり心を奪われてしまった。
彼なら、俺の中で鍵を掛けた部屋に閉じ込められている本当の俺を、その鍵をぶち破って太陽のような笑顔で迎えに来てくれる……そんな気がした。
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