ぼくは呪われた子なのに王国一の天才画伯に溺愛されて、彼の身が心配です

枯枝るぅ

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新しい居場所

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「ん…………あれ……ここどこ……?」

「おお、気がついたか、良かった。帰ってきたら家の前で倒れてるからびっくりしたぜ」

「……あ、あの……きみは、だれ……?」

「オレはマルセル・リジエール。八歳になって学校にも通い始めたんだぜ!すげぇだろ!」

「……え、っと、あ、うん……」


物凄い勢いで喋りかけてくる少年にぼくは圧倒されてしまったけど、ニカッと豪快に笑うその顔は年相応に無邪気で、悪い人では無さそうだと、警戒して強ばっていた肩の力をほっと抜いた。

ぼくはマルセル以外の子供に会ったことがないから、他の八歳がどれぐらいの大きさなのか分からないけど、ぼくよりも随分と背の高い彼はとても同い年には見えなかった。

それはマルセルも同じだったようで、年齢を聞かれて八歳だと答えると、「嘘だろ!?見えねぇ!」と叫んでいた。

ぼくとマルセルの話し声が聞こえたのか、何やらドタドタと部屋の外が騒がしくなったかと思ったら、バタン!と音を立てて部屋の扉が開き、一人の女性が飛び込んできた。


「良かった!目が覚めたんだね!も~、心配したよ。どこか痛むところはないかい?」

「あ……えっと……はい、大丈夫です……」

「ああ……本当に良かった……」


そう言って、今にも泣き出しそうにくしゃりと顔を歪ませたその女性は、あたたかい手でそっとぼくの頭を撫でてくれた。

彼女はマノン・リジエール。

マルセルの母親だった。

ぼくの母よりもだいぶふくよかで、マルセルと同じく威勢のいい彼女は、だけど笑顔がすごく優しくて、その笑顔には彼女の人柄が滲み出ていた。

それからぼくは、どこまで話していいか分からなかったけど、この日までに起こったことを全て話した。

ぼくが今朝までマルグリット伯爵家の次男だったこと。

呪われた子として生まれてきたせいで、家族や使用人達から嫌われ、虐げられてきたこと。

そんな中でもおばあさまだけはぼくに優しくしてくれたこと。

だけどそのおばあさまが亡くなり、ぼくを守ってくれる存在がいなくなった途端、伯爵家から除籍され、追い出されたこと。

伯爵邸から一歩も外に出たことが無かったのに、食事も水分も摂らずに追い出され、歩き回ったせいで疲れて倒れてしまったこと。

ぼくが呪われた子だと話すのだけは少し躊躇ったけど、それも隠さずに話した。

隠しておいて後でバレてしまった時の方が気まずいし、どうせもうぼくは生きることに執着していなかったから、ここを追い出されようが構わない。

ただ、協会墓地の場所とそこへの行き方さえ教えて貰えればあとはどうでもいいと、全てを包み隠さず話した。

 
「……だからもう、全部どうでもいいんです。ぼくが死んだって、どうせ誰も悲しまないし、ぼくもおばあさまのいない世界で生きていたいと思わないから……」


そう言って全てを話し終えたぼくは、きっとまた伯爵邸にいた時のように罵られるだろうと俯き、身構えた。

けれどどういう訳か、いつまで経ってもぼくが想像したような鋭い言葉は飛んでこなくて。

恐る恐る顔を上げると、なんとマルセルとマノンさんはぼろぼろと大粒の涙を零していた。

ぼくは焦った。

それはもう、焦った。

だって、口汚く罵られ、拒絶されることは日常茶飯事だったけど、こんなふうに泣いて拒絶されたことは無かったから。

ごめんなさい、今すぐ出て行きますからどうか泣かないで、と平謝りして立ち上がろうとしたぼくの身体は、突然ふわりとあたたかいものに包まれ、身動きが取れなくなった。

草と土が混ざったような匂いと、美味しそうな料理の匂いがぼくの鼻腔を充たす。

なんとぼくが包み込まれていたのは、マルセルとマノンさんの腕の中だった。


「…………へっ?」


ぼくは思わず、気の抜けたような声を出してしまった。

それはそうだろう。

だってぼくはほんの数分前まで、呪われた子だと知られたからには間違いなく罵倒され、追い出されると思っていたのだから。

それなのに追い出されるどころか二人から抱き締められて、もう訳が分からず、最早ぼくの頭の中からは追い出されるなどという考えは消え去り、代わりにはてなマークで埋め尽くされていた。

困惑するぼくをよそに、マノンさんはズビズビと鼻をすすりながらこう言った。

 
「それは辛かったね……。こんなに可愛らしい子にそんな酷いことが出来るだなんてどうかしてる。なぁにが呪いだい。仮にそんなものがあったとしても、私がこの腹の肉で弾き飛ばしてくれるわ。その為に蓄えてきたんだから」

 
……腹の肉のくだりはさておき、マノンさんがかけてくれた言葉は、生前おばあさまがぼくに言ってくれた言葉とよく似ていて。


「……だからねサーシャ、お願いだから、もう全部どうでもいいなんて言わないでおくれ。自分が死んでも誰も悲しまないなんて、そんな訳ない。私達だって悲しいし、何より、サーシャのお祖母様が一番悲しむだろうよ。きっとお祖母様はこれからもずっとサーシャのことを一番近くで見守っていたかったはずだよ。だけどそれは叶わなかった。それなら、お祖母様の分も、私達が守るから。サーシャさえ良ければ、ここで一緒に暮らさないかい?」


その言葉を聞いた瞬間、おばあさまが亡くなった時ですら一滴も涙が出なかったぼくの目から、涙が溢れて止まらなくなった。

おばあさまが亡くなった時に涙が出なかったのは、悲しくなかったからじゃない。

まだ幼いぼくには、突然の別れが信じられなかったから。

だけどマノンさんの言葉を聞いて、おばあさまがもういないことを実感してしまった。

それと同時に、『この人達と一緒にいれば、ぼくはもう大丈夫だよ』と本能が語りかけてきて、悲しさと寂しさと安堵が入り交じり、ぼくはわんわんと声を上げて泣いた。

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