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第九話 ヒロイン視点②

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 失恋ってこんなつらいんだ、
恋を自覚しないままの失恋って、それ恋なのかな。
食事も満足に出来ないまま学園に通って、家族に心配かけちゃった。

 クラスメイトからも声をかけてもらったけど、
一人になりたくてランチの時間はなんとなく庭園をフラフラしていたら体力の限界だったみたい。
一瞬、意識がふわっとなくなりそうになった。

 危ない!と誰かが助けてくれた。
慌てて感謝をして顔をあげたらあの男の子だった。

 体中がじゅわああって沸騰している、
嬉しいし、またこんな情けないところ見せちゃって恥ずかしい。
お腹まで鳴り始めた、失恋相手に恥ずかしい思いしかしてないよ。

 男の子は笑わずに、持っていたサンドイッチを分けてくれた。
前に会った時より元気がないね、っていわれて覚えていてくれたことがとっても嬉しかったけど、
その原因を言うわけにはいかないからちょっと勉強についていけなくて・・・と嘘ついた。

「もしかして、バーバラとのこと?」って聞かれてハッとした。

 初対面で失礼なことをしたのは、この男の子にだけじゃなかった。
私は頭を下げてお姉さまのことを教えてもらった。
あの日のことをお姉さまは怒っていないみたいで良かった・・・。

手紙を送ってくれたのは私のことを知ってびっくりしたからかな?

「君のことはバーバラから聞いているよ」

お姉さまが知っていてくれた、ということがうれしくてどんなふうに知られているか知りたくて男の子にいろいろ聞いてしまった、少し濁されているところもあったけど、貴族ってそういうところ大変よね。
もってまわった美しい言い回し?私には無理だなあ。

男の子の名前も教えてもらったの、エドルド・ユースリム、様。

 私は伝えた、お姉さまと仲良くなりたいんだって。
お姉さまのことが知りたいんだって、そしたらエドルド様は協力してくれるって!

 それから週一、私たちはこの庭園でこっそり会うことになった、
悪いことしているみたいでドキドキしちゃった。

 エドルド様から、姉の好きなもの、嫌いなもの、小さい頃の思い出、たくさん聞いた。
知らないお姉さまのことが分かるたびに距離が近づいたように思えた。
お姉様の誕生日にお小遣いで買った髪留めを贈った。

『エドルド』と一緒に出掛けて選んだからきっと喜んでくれるはず!

 でもお姉さまは受け取ってくれず、代わりに傍で控えていた護衛が受け取った。
ま、まあきっと家に帰ったら見てくれるよね!使ってくれたらうれしいなあ。

 その後、何度かお姉様を見かけてる(話しかけると周りから怒られる)けど、
あの髪留めがお姉様の美しい髪に飾られることはなかった。
クラスも違うし、毎日見られないからタイミング悪かったのかな。
すこし残念だけど、エドルドに慰めてもらえたのはうれしかった。




 学園でいじめられるようになってしまった。
机に物を残しておくと無くなっていることがあった、カバンを放置していると中に土とか水を入れられることがあった、周りのみんな助けてくれなくて悲しくて。
我慢してたけど『エド』にはバレてたみたいでそれが恥ずかしくて、エドの胸で泣いちゃったの。

それからはエドは私を守るために出来る限りそばにいてくれた。

 本当はいけないのに、お姉さまの婚約者なのに。
でもエドの瞳にも私と同じ、熱いものがあるんだってそう思えてドキドキした。

 エドが頑張ってくれたおかげでいじめは終わったの。
でもクラスでは私は「いないもの」みたいな扱いをされた、それもすっごく寂しかったけど、授業以外ではエドがいてくれたから頑張れた。


 学園が主催するパーティーの日。
エドはお姉さまをエスコートしてダンスを踊ってた。とっても素敵だったけど胸が痛んだの。

でもその後に私と一緒に2回も踊ってくれたからどうでもよくなった。

 そうだ、これを思い出にしよう、二人ともお似合いだもの、今日で最後にしよう。
本当は一瞬で終わるはずだった恋。でも1年もエドがそばにいてくれた。
今この瞬間、とっても幸せなんだもの、悲しい恋なんかじゃなかったわ。

 踊り終わって二人で庭園に向かった、夜の庭園はいつもと全く違う雰囲気で、
エドと二人きり、ドキドキしたけどお別れの言葉を言わなきゃいけなくて・・・。

 私はエドに向かって真っすぐ立って、「今までありがとう」って伝えた。
それから「お姉さまと幸せになってね」って言おうとして声が途中から震えた。

 私は変わらず意気地なしで恥ずかしい、でもそんな私をエドは抱きしめてくれた。
これでお別れだなんて嫌だと、お姉さまとではなく私と結婚したいって。
嬉しかった、でもそんなことが出来るの?って聞いたら「まだ婚約状態だし、バーバラならわかってくれる」って、二人の信頼を感じてちょっと焼いちゃったけど、
それ以上にエドとの未来がまだ続いているかもしれないって思ったら気にならなかった。

私たちは人目なんて気にせず、ずっと抱きしめあっていた。




 パーティーからしばらくして、エドがお姉様に婚約解消の話をすると言ってきた。
二人のことなんだから二人で行こうよってちょっと怒ったら嬉しそうに笑ってて幸せな気持ちになった。

でもいざってなったらすごく緊張する。

 結局お姉さまと会話らしい会話は一度もできていない。
お姉様を呼んだ庭園で手の震えを止めるように胸に手を組んで待った。

私の緊張に気が付いたエドが手を握ってくれて嬉しかった。
大丈夫、怖くない。

お姉さまがやってきた、相変わらずとっても綺麗で。でも綺麗すぎてちょっと怖い。
他のご令嬢たちと一緒にいると時々弾んだ声が聞こえることがあって、いつか私もその顔を真正面から見たいと思ってた。

 今から話すことはとても大事なことで、でもお姉さまを傷つけてしまうかもしれないこと。
二人で精いっぱい謝ろう。エドがわかってくれるっていってたから。
謝って、許してもらって。

 そしたら三人で私の邸に行って≪家族そろって笑いあうの≫
きっとお父様もびっくりするけどサプライズみたいだよね。

みんながきっと幸せになれる。

 お姉さまはこんなに美人だから、エドと無事婚約解消してもすぐに他の婚約者候補が山のようにくるんだろうなあ。

「なにか御用があると伺いましたが」

 冷たい声にはっとした。
でも固まってなんていられない≪お姉様の幸せのためにも≫

「バーバラ、僕たちは愛し合っているんだ、
だから、申し訳ないけど…君との婚約をなかったことにしたい」

 自分を奮い立たせていたらエドがお姉様に話しかけていた、
でもエドったら直球すぎるよ!お姉様困っちゃうし、これじゃエドが悪者みたいだよ。
私も声を張ろうとしたの、お姉様と仲よくしたいんだって、それをエドに相談してて・・・。

でも準備していた言葉はお姉さまの底も見えない冷たい目によって消えてしまった。

 お姉さまに伝わってほしくてわかってほしくて認めてほしくて。
たくさん言いたいことがあった、入学式のときから、その前からずっと。
でも意気地なしの私はやっぱり言うことが出来なくて、エドとお姉さまの間に入れない。

 お姉さまはエドとの婚約は家で決められたものだから自分に言われてもどうしようもないといってた。どんどんお姉さまの言葉が強く重く怖くなる。
ついにはダンスを連続で踊るなんて何考えているんだと怒られた。

・・・確かにダンスは連続で踊るのは恋人や結婚を前提とした相手とだけだとダンスの先生が言ってたし、パーティーの次の週にそのことをクラスメイトに言われたけど、エドと恋人だって周りにわかっちゃって恥ずかしいなって照れたら、その後から本当に周りから人が居なくなった。

 授業以外ではエドが傍にいたし、へこたれないところが私のいいところで、元平民はその辺強いんだから、絶対負けない!って思ってたけど・・・。

あの時のことを考えていたらお姉さまの目から綺麗な涙がほろりと落ちた。

 ああ、お姉さまだってエドが好きだったんだ、エドはこんなに素敵な男の子だもん。
エドは『政略的な結婚だけど家族みたいな関係なんだ』って言ってたけど好きなエドに恋人ができて、それが自分の妹だなんてわかったらそんなの泣くに決まってる!
 私は走っていこうとするお姉さまを待って!と引き留めようとしたけど知らない令嬢が突然出てきて動きを止めてしまった。

 どうやらお姉さまの友達みたい、とてもきつい目をしていてすごく迫力がある。
そしてその目を更に強めて私たちを見てくる、あまりの怖さにエドと一緒に頭を下げた。

「なにやら奇妙なさえずりが聞こえたので来てみたら…気分を害しました。本日はこれで失礼いたしますわ」

 そう言ってお姉様を連れて行ってしまった。
追いかけようとしたけどエドに止められてしまった
 知らなかったけどあの人の家は王族にもお金を貸す国の金庫番みたいなところらしい。
絶対逆らってはいけないのだと、そんな家の令嬢に睨まれてしまったと青い顔してた・・・。

 とにかく今のままではいけないから、とエドと相談して何度もお姉さまに手紙を出すことにした。
あれからお姉様は学園に来ていないから。やっぱり家での結婚とはいえエドのことが好きだったんだわ・・・。
何度も何度も手紙を書いたけど返事は来なかった、私宛には。
 お父さま宛には、お姉さまの家からの手紙が届いたようで、手紙を読んだお父様が倒れてしまった。どういうことなのかと初めて怒鳴るお父様を見た。
 怒られることはたまにあるけど、怒鳴られるのは初めてだった。
事情を説明したら頭をぐしゃぐしゃにかきむしって部屋から出てこなくなってしまった。
 私はなにかとんでもないことをしでかしたみたいで怖くなった
学園でも『お姉様の婚約者を取った』というひどい噂が流れ始めていた。
空気のように扱われていた目線が今はゴミを見るような眼に変わった、息するのがとってもつらい。
先生に視線を送って助けを求めても目を逸らされてしまった。

 エドともなかなか会えなくなった、今までは休み時間中に会いに来てくれたのに。
エドの方もきっと忙しいんだろうな、でも会いたいよ。

「お互いの家族を含めた話し合い」はそれから3日後に決定した。
授業は休んでいいらしい、お父さまはずっと青い顔をしてるし汗かいている。
お母さまも伝染したみたいに顔色が悪い。
使用人のみんなは大丈夫か聞いてくれたけど私も詳しくは言えなかった。




 3日後、ようやくエドとお姉様にも会える!
家族が揃うんだって気持ちと、でもお姉様にきちんと話を聞いてもらいたいという気持ちで前の庭園とは別の意味で緊張した。
 馬車の中でお父さまが『必要以上話してはいけない』『なにかあれば私が・・・いや』と私に話しているような、うわごとのようなことを呟いている、お父さまも久々に会うお姉さまに緊張しているんだわ。

 お姉さまの邸は、私の邸よりももっともっと大きかった。
同じ伯爵家なのになんでこんなに大きさが違うんだろうってぼやいたら、お父さまが私に鋭い声で「静かになさい!」って。
素直に謝ったよ、たしかにぼやいていいことじゃないかもしれない。
目の前を歩く執事が足を止めてこっちを見てくる。

「ここは辺境伯爵家の、タウンハウスですよ」

 一瞬、よくわからなかった。伯爵家の前に辺境ってついた。
え、まって、先生の授業で習ったよ?
辺境伯爵って国の端っこで隣の国からの侵入とか防ぐものすごい大事な人たちなんだよね?
伯爵ってついているけど実際は頭一個とか二個くらい上の存在なんだって聞いたよ?
あれ、まって、だって、田舎の伯爵家じゃないの?あれあってる?ちがう、一緒じゃない、
でも、でも、情報を持ってきてくれた子が勉強したことない平民だからわからなかったんだ!
・・・あ、というか婚約解消の話をお姉さまにした時も、
お姉さまが『国境を守る辺境伯が望んだ結婚』って言ってた、よね?
あれってエライ辺境伯爵様が『田舎の貴族同士が結婚しろ!』って命令して逆らえないお姉さまの家とエドの家がオッケーしたんだって思ってた。
違うじゃん、全然勘違いしてた。
 わあ、そっか。お姉さまのお母さまの実家ってすごいところなんだ。
それじゃあ・・・お姉さまを連れ去られてもしょうがなかったんだ。
権力で押さえつけられたんだ、お父さまだって逆らえないよね。

 そっか、ううん、困った。今日は家族で久しぶりの再会を楽しみつつ、お姉さまにエドとの仲を認めてもらって、ついでにお姉さまを返してもらおうって思ったけど。
それじゃあ難しそうかな?やっぱり辺境伯爵様って怖いのかなあ。
たくさんお願いしたら許してくれないかな、
孫に継がせたいっていうのは分かるけど、他に親族たくさんいるんじゃないのかな。




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